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光と闇の交差する場所

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「妖牙君のご両親に会ってみたいな」
 本の記憶を読んだ後、私がダメもとで提案する。

「べつに、かまわないけど」
 という返事が返ってきた。
 少し意外だった。妖牙君って壁があって、自分を出さない、近づけさせない、そんなイメージがあったからかもしれない。

「へぇー。僕も行きたいな」
 突然背後から声がした。これは、夜神の声だ。どこから見られていた? 聞かれていた?

 音もなく気配もなく姿を現すあたり、夜神らしさを感じる。壁にもたれかかりながら細く長い足を交差させる姿はモデルのようだ。

「伝説のお札がある神社の息子なんだろ? 妖牙タイジ君」
「札が欲しいのか?」
「ただのオカルト好きなだけだよ。ちょっと伝説の妖魔界の入り口があるっていううわさを耳にしただけだから」
「そんなことも知っているのか?」
「光と闇が交差する場所ってわかりにくいよね。場所、君ならわかるだろ」
「それはただの伝説だって。いい伝えだから、場所は知らないぞ」
「じゃあ今度、家庭訪問する際に、庭を探検させてほしいな。ちなみに図書委員担当になったから、よろしく」

 少しほほ笑んで夜神は薄暗い廊下のほうへ消えていった。まるで闇の住人のような感じがする。

「光と闇が交差する場所? とりあえず、神社に案内してよ」
 私たちは昇降口のほうへ向かい、校門のほうへ歩く。ちょっと特別な関係みたいで、うれしい。

「俺も光と闇が交差する場所ってわからないんだよな。妖魔界に通じる伝説はきいたことあるんだけどさ」
「お前、魔法も使えるんだろ? だったら何かつかめないかなってさ」

 妖牙君は、ただ、誘ったのではなくちゃんとした目的があって私を神社に誘ったのか。ちょっと残念な気持ちに……ってどういうこと?

「魔法のことはまだ話していないのに、なぜわかったの?」
「モフミから聞いたんだよ」
「モフミ……ああ、保健室のひかり先生と話していた時に聞いていたんだ」
「壁に耳あり障子に目ありっていうだろ。特に最近は夜神が音もなく聞いていることがあるからな、言動には注意しろよ」
「ひかり先生って霊感魔女なんだって? しかも太陽の神の子孫らしいな」
 妖牙君が確認する。なぜ知っているんだろう?

「そのことも、モフミから聞いたの?」
「あいつは俺の忠実な部下だからな」
「モフミは私の大事な友達だよ」

 私は強く否定する。友達を部下呼ばわりされるのは、気持ちのいいものではない。

「ありがとう。やさしいですね、レイカ」
 モフミが肩のうえでお礼を言った。

「ひかり先生、こっち側に引き入れたら戦力になりそうだな」
 妖牙君はいつも計算高い。賢いし、頭脳戦は勝てそうもないといつも思う。どうその人物をつかえば、自分が有利になるとか、そういったかけひきを常に考えている。

「でも、魔法少女っていうアニメのイメージとおまえはずいぶんかけ離れているよな」
 少し苦笑いの妖牙君。

「バカにしているの? 私は魔法と言っても1分時間が止められるとか、こわれたものを元に戻すくらいしかできないけど」

「それでも、ずいぶん超人だよ。普通の人にはできないことだし。魔法少女ってもっとカリスマ性があって……というイメージが強いけれど、おまえ見た目普通すぎるだろ」

 やっぱりバカにされている。妖牙君は、私に魅力など1ミリも感じていないことが今更ながらわかってしまう。特別な女の子だとは意識もしていないのだろう。たしかに私は普通過ぎるし、スポーツ万能でもないし、どこにでもいそうな人間だ。

 でも、霊感のおかげで、こうして一緒に帰宅しているという夢のような展開。二人っきりというわけではなく、モフモフ二匹もいるんだけどね。

 妖牙君の自宅へ向かう。
 夕暮れどきの空の色が言葉では表現できない美しい混色だ。ずっと見ていたいけれど、この色が永遠に続くわけではない。夕焼けの空はすぐに色が変化する。その色は今の私みたいで、きっと妖牙君との関係もずっと続くわけではないだろう。クラスメイトやあやかしたちとの関係も永遠ではない。きっと変わっていく。少しさびしさを感じながら歩く二人の影が並んでいた。

 妖牙君の家は少し歩くと見えてきた。夕焼けの色がだんだん深い色に変わってくる。この時間帯の色合いが一番好きだ。

 神社は階段を上るとあるのだが、自宅は平地に建っていた。カラスが神社のまわりの木にとまって鳴いている。こうもりが飛んでいて、なんとなく不気味な景色が広がっていた。まるでどこかにあやかしが、ひそんでいそうな風景だった。

 もう夏も近い。神社は自然に囲まれているので、虫の声も聞こえてくる。
 夏らしさが私の気持ちを明るくしてくれる。夏が好きだ。暑いけれど、木々の木陰の下は涼しいし、セミの鳴き声はいやしをあたえてくれる。自然がかなでる音楽は一番好きな音でもある。太陽の日差しは気持ちが元気になる。

 そんな夏の足音を感じながら、私は妖牙君と歩いている。去年まで出会ってもいなかったわけで、偶然の奇跡が私の初恋になった。

 私たちは、そのまま神社の階段を上って境内へ入った。朱色の鳥居をくぐると、おもむきのあるたてものが、目に飛び込んできた。不思議な空気に囲まれた神社。まわりの竹やぶが、風にゆられると、さわさわ音を鳴らす。空気が1度くらい低い。日かげだからだろうか? 神社特有の不思議な空気がそこにはあった。

「光と闇の交差する場所を特定する能力は私にはないけれど、太陽の光が沈むときに最後まで光が差す場所っていう意味かな?」

「俺もそれ、考えていたんだよな。もうすぐ夕日が沈む」

「でも、必ず同じ場所に光が当たるのかな、太陽の位置によって年間で変わる可能性もあるよね」
「俺もガキのころから光の場所を特定して色々土をほったりしたけれど、それらしき場所はないんだよな」
 髪をさわりながら、妖牙君は困った顔をした。

「じゃあ、いいことが光で悪いことが闇だとしたら?」
「神社じゃない場所のほうが、いいことも悪いこともあるような気がする……」
 妖牙君の意見は、もっともだ。

 私たちは夕暮れを一緒に過ごしている。二人でいる時間は気まずいと感じることはあまりない。
 会話が途切れたから何か話さなくてはいけないという気持ちにもならない。一緒にいて違和感がない。私たちはどこか似ているのかもしれない。

 霊感があるとか特殊な力があるとか―――そんなところだけではなく、もっと本質的なものが似ているような気がした。

 太陽が沈むとき、その空間を二人で過ごす時間はとても特別だ。光と闇が交差する場所も特定したものの、その場所には地蔵がたっていて、土を掘り起こすことはできなかった。その周りを掘ってみたのだが、何かヒントになりそうなものは一つもない。残念だが、何もなかった。

 がっかりしたけれど、妖牙君の心と少し交わることができたような気がして、自己満足だけれど、夕焼けに包まれた時間は居心地が良かった。

「なにもわからなかったね」
「そう簡単にわかるものじゃないからな。これからも、お前には協力してもらうけどな」
「また来てもいいの?」
「来なければ協力できないだろ」
 あたりまえのことだが、来ていいよって言われたことは、羽が生えたように飛び回りたい気分だ。魔法少女でも空は飛べないのだが。

「あら、タイジのお友達? いらっしゃい。夕飯食べていかない?」
 階段を下りていくと、先程の本の記憶の女性があらわれた。もちろんあのときよりも歳を重ねてはいたが、美人で優しそうな女性は妖牙君の母親だった。

「有瀬レイカと申します。よろしくおねがいします」
 ここは礼儀正しいという好印象を与えたいところだ。

「タイジの母です。いつもお世話になっているレイカちゃんにモフスケが夕食をもう一人分作ってくれって言っていたから、ちゃんと用意してあるわよ。是非食べて行って」

「おことばに甘えて、ごちそうになります」



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