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A03運行:特命掛のハジメテ
0037A:意外と、証拠は小さなところに転がっている
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「仕方がなかったんだ」
車掌はかなり唐突に、それでいて自然に会話の流れに割って入った。
「ここらへんは、最近戦争が終わったばかりなんだ。この鉄道は、そんな混乱の中で生まれた」
そう言われて、車掌は車輛の片隅を指さす。その方へ目をやると、木の床がめくれあがっていた。
「これは?」
「パルチザンによる機銃掃射の痕だ」
彼は短く答えた。
「この車輛だけじゃない。いろいろな車両が、ギリギリのところで踏ん張っている」
「これを補修する余裕すらないと?」
「ああ。オレ達は常にギリギリだ」
彼はそう言って、車輛の後ろの方を指さした。
「これは、この辺り一帯の地域へ向けた生活必需品だ」
「そんなものを、客車で運んでいるんですか?」
「貨車が壊れてしまったからな。貨物列車を十分に運転できないから、旅客列車の客室の一部に、こうした物資を積んでいる」
車掌は、それだけじゃない、と言う。
「軍用の物資なんかも、こうして積んでいる」
「じゃあ、この列車が止まったら……」
「軍人たちの命が危ない」
その言葉を聞いて、水野が車掌に詰め寄る。
「なら、安全を最優先して、確実に物資を届けるべきなんじゃないですか?」
「それは、平和な世界での考え方だ」
しかし車掌は、その言葉を一蹴した。
「つまり、多少の危険を冒してでも、走り続ける以外に選択肢がない、と?」
「ええ。この物資を待っている人たちがいる。彼ら全員にそれを届けるためには、イチイチ点検なんてしていたらとても間に合わない。我々は、毎日天に祈りながら、事故が起きないことを願うしかないんです」
「”まるで”戦場だ」
「まるで、は余計ですよ、東京の方」
車掌は皮肉たっぷりの顔でそう言う。
「つまり事故は、車輛に対し検査を行えなかったために起こった」
井関が確認するような顔でそう言うと、車掌は首を横に振った。
「それだけじゃない。検査を行う体制すら整ってないんだ。ここにいるのは、鉄道のことなんか一ミリも知らないヤツラばかり。そんな連中で、毎日やってくる雑多な貨車の面倒を見るなんて、とても無理だ」
彼はとても強い口調でそう言った後で、開き直ったように井関を睨みつけた。
「それで、オレ達をどうするつもりです? 鉄道院から内務省経由で運輸省へ通報ですか?」
「いえ。我々はあくまでも鉄道院が運営する鉄道に関する調査員です。あなた方の鉄道に対し、告発どころか報告をする法的権限すら存在しない」
井関はそう言った後で、こう付け加えた。
「……ただし、樺太の窮状に関しては、内務省へ適切に報告させていただきます。これは、日本全体の問題だ」
車掌はそれを聞いて井関達から背を背けた。それから、背中で彼らに語りかけた。
「信用するぜ」
「ええ。任せてください」
井関はそう言うことしかできなかった。
車掌はかなり唐突に、それでいて自然に会話の流れに割って入った。
「ここらへんは、最近戦争が終わったばかりなんだ。この鉄道は、そんな混乱の中で生まれた」
そう言われて、車掌は車輛の片隅を指さす。その方へ目をやると、木の床がめくれあがっていた。
「これは?」
「パルチザンによる機銃掃射の痕だ」
彼は短く答えた。
「この車輛だけじゃない。いろいろな車両が、ギリギリのところで踏ん張っている」
「これを補修する余裕すらないと?」
「ああ。オレ達は常にギリギリだ」
彼はそう言って、車輛の後ろの方を指さした。
「これは、この辺り一帯の地域へ向けた生活必需品だ」
「そんなものを、客車で運んでいるんですか?」
「貨車が壊れてしまったからな。貨物列車を十分に運転できないから、旅客列車の客室の一部に、こうした物資を積んでいる」
車掌は、それだけじゃない、と言う。
「軍用の物資なんかも、こうして積んでいる」
「じゃあ、この列車が止まったら……」
「軍人たちの命が危ない」
その言葉を聞いて、水野が車掌に詰め寄る。
「なら、安全を最優先して、確実に物資を届けるべきなんじゃないですか?」
「それは、平和な世界での考え方だ」
しかし車掌は、その言葉を一蹴した。
「つまり、多少の危険を冒してでも、走り続ける以外に選択肢がない、と?」
「ええ。この物資を待っている人たちがいる。彼ら全員にそれを届けるためには、イチイチ点検なんてしていたらとても間に合わない。我々は、毎日天に祈りながら、事故が起きないことを願うしかないんです」
「”まるで”戦場だ」
「まるで、は余計ですよ、東京の方」
車掌は皮肉たっぷりの顔でそう言う。
「つまり事故は、車輛に対し検査を行えなかったために起こった」
井関が確認するような顔でそう言うと、車掌は首を横に振った。
「それだけじゃない。検査を行う体制すら整ってないんだ。ここにいるのは、鉄道のことなんか一ミリも知らないヤツラばかり。そんな連中で、毎日やってくる雑多な貨車の面倒を見るなんて、とても無理だ」
彼はとても強い口調でそう言った後で、開き直ったように井関を睨みつけた。
「それで、オレ達をどうするつもりです? 鉄道院から内務省経由で運輸省へ通報ですか?」
「いえ。我々はあくまでも鉄道院が運営する鉄道に関する調査員です。あなた方の鉄道に対し、告発どころか報告をする法的権限すら存在しない」
井関はそう言った後で、こう付け加えた。
「……ただし、樺太の窮状に関しては、内務省へ適切に報告させていただきます。これは、日本全体の問題だ」
車掌はそれを聞いて井関達から背を背けた。それから、背中で彼らに語りかけた。
「信用するぜ」
「ええ。任せてください」
井関はそう言うことしかできなかった。
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