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A04運行:特命係、北海道を征く
0041A:ほっかいどうは、やっぱりでっかいどうだった
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「おお、日本だ!」
稚内の土を踏んですぐ、笹井はついそんなことを口走った。
「今までも日本だったぞ」
「そうだが、ココの方が日本という感じがする」
「まあ、北海道だからね」
連絡船に乗ること8時間、ついに井関達は”本土”に足を踏み入れた。思い返せば、かなりながいこと樺太に閉じ込められていた気がする。井関はしゃがみこんで、防波堤のコンクリートに手を触れた。
「連絡船上でもひと悶着あったんだ。いやはや、不思議な安心感だよ」
「樺太よりは、落ち着ける場所だね」
「それじゃあもっと落ち着ける場所へ帰ろう。それはすなわち、東京だ」
「ボクは青森でもいいわけだけど」
「冗談じゃない」
彼らがそうやって冗談を言い合っていると、後ろから船員が慌てて走ってきた。その形相はかなり焦っているもので、ドタバタと大げさな足音だった。
「調査掛のみなさーん、ちょっとまって!」
その言葉を聞いた瞬間、井関の危険感知レーダーが反応する。それはすなわち、面倒ごとが起きるぞ、という予感だ。
「どうする、逃げるか」
「馬鹿いえ。それじゃあの船員が可哀そうだ」
「しかし、絶対にロクでもないぞ」
「それが仕事だ。仕方あるまい」
そうこうしている間にも、船員は井関の目の前にやってきてしまった。そして彼は、明らかに面倒ごとが詰まっていそうな紙切れを、笑顔で渡してくれた。
「間に合ってよかった。これ、国鉄総裁からの電報です!」
発:鉄道院総裁
着:特命掛諸君
近頃、旭川鉄道管理局内にて脱線事故多し。至急調査報告をせよ。
電報の内容を書き下すと、大体そんなことが書かれていた。これを受け取って稚内駅の方へ引き上げようとすると、目の前にはすでに旭川管理局の人間が待っていた。
「あのジイさん、こういう手回しだけは早いんだ」
「年寄りでもさすがは死地を潜り抜けてきた”伝説”と言ったところか。食えん人だ」
井関と笹井がそんなことを言い合っていると、旭局の職員も笑った。
「私もそう思います。この間、わざわざ稚内にまできなさりましたが、なまら気の利く方でした」
「ああ、そうでしたか。ジイさん、地方の人間にはやさしいからなあ」
笹井はそうつぶやいた後で、そんなことはどうでもよろしいと話を切り替えた。
「それで、事故と言うのは」
「そのあたりは、列車の中でご説明します。ここじゃ、ちょっとアレですから……」
職員は口ごもりながら、井関達を駅へと案内した。
稚内駅は大きな駅だ。井関達が今いるところは連絡船が到着した岸壁であるが、そこから駅舎まで2キロメートルの距離があるにも関わらず、ここは稚内駅の構内なのだという。
そして、稚内駅を移動するためだけの列車すら存在するらしく、この2キロメートルを歩かずに済むらしい。
「まるで路面電車みたいだな」
稚内駅舎へと向かう線路は岸壁がそうであるようにコンクリートで舗装されていた。その上に、普通の列車が存在しているその光景は異様で、国鉄職員として興味が湧いてくるものだ。
井関は列車に乗る前にその列車のまわりをぐるりと一周してみる。
「なんだい、まるで鉄道狂いのようだぞ」
「いやいや、これは面白いだろう」
彼はそう言いながら列車の最前部まで行く。すると、職員は慌てたように井関を連れ戻そうとする。井関はそれに気が付かず、列車の観察を続けた。
「ほう、ここから駅舎までは蒸気機関車で牽引するんだな」
列車は蒸気機関車1両に牽引される3両編成で、先頭の機関車はなにやら粗末なつくりのモノだった。
「なんだこれは。C13形蒸気機関車……?」
「ああ、すみません! 列車、そろそろ発車しますから!」
井関は職員に制止され、渋々列車の中へと入る。だがその頭の中には、たったいま目撃した奇妙な機関車のことが巡り巡っていた。
稚内の土を踏んですぐ、笹井はついそんなことを口走った。
「今までも日本だったぞ」
「そうだが、ココの方が日本という感じがする」
「まあ、北海道だからね」
連絡船に乗ること8時間、ついに井関達は”本土”に足を踏み入れた。思い返せば、かなりながいこと樺太に閉じ込められていた気がする。井関はしゃがみこんで、防波堤のコンクリートに手を触れた。
「連絡船上でもひと悶着あったんだ。いやはや、不思議な安心感だよ」
「樺太よりは、落ち着ける場所だね」
「それじゃあもっと落ち着ける場所へ帰ろう。それはすなわち、東京だ」
「ボクは青森でもいいわけだけど」
「冗談じゃない」
彼らがそうやって冗談を言い合っていると、後ろから船員が慌てて走ってきた。その形相はかなり焦っているもので、ドタバタと大げさな足音だった。
「調査掛のみなさーん、ちょっとまって!」
その言葉を聞いた瞬間、井関の危険感知レーダーが反応する。それはすなわち、面倒ごとが起きるぞ、という予感だ。
「どうする、逃げるか」
「馬鹿いえ。それじゃあの船員が可哀そうだ」
「しかし、絶対にロクでもないぞ」
「それが仕事だ。仕方あるまい」
そうこうしている間にも、船員は井関の目の前にやってきてしまった。そして彼は、明らかに面倒ごとが詰まっていそうな紙切れを、笑顔で渡してくれた。
「間に合ってよかった。これ、国鉄総裁からの電報です!」
発:鉄道院総裁
着:特命掛諸君
近頃、旭川鉄道管理局内にて脱線事故多し。至急調査報告をせよ。
電報の内容を書き下すと、大体そんなことが書かれていた。これを受け取って稚内駅の方へ引き上げようとすると、目の前にはすでに旭川管理局の人間が待っていた。
「あのジイさん、こういう手回しだけは早いんだ」
「年寄りでもさすがは死地を潜り抜けてきた”伝説”と言ったところか。食えん人だ」
井関と笹井がそんなことを言い合っていると、旭局の職員も笑った。
「私もそう思います。この間、わざわざ稚内にまできなさりましたが、なまら気の利く方でした」
「ああ、そうでしたか。ジイさん、地方の人間にはやさしいからなあ」
笹井はそうつぶやいた後で、そんなことはどうでもよろしいと話を切り替えた。
「それで、事故と言うのは」
「そのあたりは、列車の中でご説明します。ここじゃ、ちょっとアレですから……」
職員は口ごもりながら、井関達を駅へと案内した。
稚内駅は大きな駅だ。井関達が今いるところは連絡船が到着した岸壁であるが、そこから駅舎まで2キロメートルの距離があるにも関わらず、ここは稚内駅の構内なのだという。
そして、稚内駅を移動するためだけの列車すら存在するらしく、この2キロメートルを歩かずに済むらしい。
「まるで路面電車みたいだな」
稚内駅舎へと向かう線路は岸壁がそうであるようにコンクリートで舗装されていた。その上に、普通の列車が存在しているその光景は異様で、国鉄職員として興味が湧いてくるものだ。
井関は列車に乗る前にその列車のまわりをぐるりと一周してみる。
「なんだい、まるで鉄道狂いのようだぞ」
「いやいや、これは面白いだろう」
彼はそう言いながら列車の最前部まで行く。すると、職員は慌てたように井関を連れ戻そうとする。井関はそれに気が付かず、列車の観察を続けた。
「ほう、ここから駅舎までは蒸気機関車で牽引するんだな」
列車は蒸気機関車1両に牽引される3両編成で、先頭の機関車はなにやら粗末なつくりのモノだった。
「なんだこれは。C13形蒸気機関車……?」
「ああ、すみません! 列車、そろそろ発車しますから!」
井関は職員に制止され、渋々列車の中へと入る。だがその頭の中には、たったいま目撃した奇妙な機関車のことが巡り巡っていた。
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