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A04運行:特命係、北海道を征く
0050A:昔の人は流氷に乗って交易していたそうだ。もしかしたら、今でもできるのかもしれない
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日が登り、まるで昨日の喧騒が嘘だったかのようなすがすがしい朝がやってくる。
オホーツク海の流氷の向こうからやってくる朝日を拝みながら、井関は背伸びをした。
「さて、これからどうしようか」
とっくに目を覚ましていた笹井が、そう後ろから声をかけてきた。見ると、他の二人もとっくに起きていた。
「ああそうだ。検査の件でうやむやになってしまっていたが、なにか重大なことが発見されたんじゃないのか?」
「ああ、そうそう。ちょいとこれを見てくれ」
井関は、思い出したとばかりに三人を倉の中に呼び出した。
「ここで面倒を見ている貨車なんだが、ここがおかしいんだ」
「うわっ! えっ。うわあ!」
井関が、倉庫の端に止まっていた一両の貨車を指し示す。すると、全てを悟った水野が百面相をしながら飛び上がった。
「えっと、例のごとく説明してもらっていいかい」
「もちろん。結論から言えば、この貨車は現行の国鉄の規格に無いものだ」
そう言われて小林は驚いた顔になるが、笹井はまだ事態を呑み込めていない。
「それがどうおかしいんだ? たとえば、私鉄やなんかから乗り入れてくる貨車はあるだろうし、もしくは古いモノなんかが新しい基準に適合できていない、なんてこともあるだろう」
いわゆる既存不適格というやつだ。と笹井は言う。だが水野は首を振った。
「そう言う問題じゃないんです。私鉄からの直通車や旧来車などを含めたとしても、国鉄線上には存在しないはずの構造なんです」
「なんだって!?」
笹井はそこでやっと事実の大きさに気が付く。そんな時、騒ぎを聞きつけた鍛冶職人がやってきた。
「昨日は見事なお手並みで。本当に助かったよ……。 それで、この貨車だけれども、やっぱ気になるかい」
職人は礼もそこそこに切り込んだ。井関が頷くと、職人はまたしても渋い顔になる。
「ここらへんはね、もうわかんないよ」
「と、申しますと」
「C13を見ておくれ」
昨日、まさに台風の目であったヤミ機関車、C13。それを見て、笹井は何かを察する。
「ヤミ貨車も、存在するんですね」
「当然」
ここは北海道北部。小さな小さなローカル線が、周辺集落数千人の生命を握っている。一つ貨車が欠落しただけで、誰かが命を落とすかもしれない。貨車の中身は、開拓地の人間が無事に冬を越すための食料・薬品・暖房・燃料だ。
誰かの命を危険にさらさないため。使えるものは何でも使う。それが、開拓地を任された鉄道員の責務だと、彼は言った。
「正直、どこでどう改造したのか、それともどこかから流れてきたのか。こうなってしまってはわからない」
「そうですか……」
井関はしゃがみ込み、車輛の下回りをよく観察する。
「しかし、こんな構造の足回りを履きますか」
井関はそう言う。それは、国鉄では採用したことのない技術が使われていた。とはいえ、目新しいものではない。かといって古臭くもない。
まるで、どこか違う世界からやってきた貨車のようだ。
「これは、おそらく私鉄から流れてきたんだろう」
「私鉄から……」
「だが、それだけじゃあない。ベアリングを装着した貨車も流れてきたことがある」
「なんですって!?」
水野が飛び上がった。だが、それ以上に驚きを隠せないのが井関だ。
「それは、今どこに?」
「ああ……。もうかなり前だが、丁度検査官が来るタイミングと重なったもんだから、どっかの山に捨てちまったよ」
「どこの山ですか!?」
井関は職人に詰め寄った。彼は面食らいながら、それを教えてくれた。
「飛行場前の、山林だ」
オホーツク海の流氷の向こうからやってくる朝日を拝みながら、井関は背伸びをした。
「さて、これからどうしようか」
とっくに目を覚ましていた笹井が、そう後ろから声をかけてきた。見ると、他の二人もとっくに起きていた。
「ああそうだ。検査の件でうやむやになってしまっていたが、なにか重大なことが発見されたんじゃないのか?」
「ああ、そうそう。ちょいとこれを見てくれ」
井関は、思い出したとばかりに三人を倉の中に呼び出した。
「ここで面倒を見ている貨車なんだが、ここがおかしいんだ」
「うわっ! えっ。うわあ!」
井関が、倉庫の端に止まっていた一両の貨車を指し示す。すると、全てを悟った水野が百面相をしながら飛び上がった。
「えっと、例のごとく説明してもらっていいかい」
「もちろん。結論から言えば、この貨車は現行の国鉄の規格に無いものだ」
そう言われて小林は驚いた顔になるが、笹井はまだ事態を呑み込めていない。
「それがどうおかしいんだ? たとえば、私鉄やなんかから乗り入れてくる貨車はあるだろうし、もしくは古いモノなんかが新しい基準に適合できていない、なんてこともあるだろう」
いわゆる既存不適格というやつだ。と笹井は言う。だが水野は首を振った。
「そう言う問題じゃないんです。私鉄からの直通車や旧来車などを含めたとしても、国鉄線上には存在しないはずの構造なんです」
「なんだって!?」
笹井はそこでやっと事実の大きさに気が付く。そんな時、騒ぎを聞きつけた鍛冶職人がやってきた。
「昨日は見事なお手並みで。本当に助かったよ……。 それで、この貨車だけれども、やっぱ気になるかい」
職人は礼もそこそこに切り込んだ。井関が頷くと、職人はまたしても渋い顔になる。
「ここらへんはね、もうわかんないよ」
「と、申しますと」
「C13を見ておくれ」
昨日、まさに台風の目であったヤミ機関車、C13。それを見て、笹井は何かを察する。
「ヤミ貨車も、存在するんですね」
「当然」
ここは北海道北部。小さな小さなローカル線が、周辺集落数千人の生命を握っている。一つ貨車が欠落しただけで、誰かが命を落とすかもしれない。貨車の中身は、開拓地の人間が無事に冬を越すための食料・薬品・暖房・燃料だ。
誰かの命を危険にさらさないため。使えるものは何でも使う。それが、開拓地を任された鉄道員の責務だと、彼は言った。
「正直、どこでどう改造したのか、それともどこかから流れてきたのか。こうなってしまってはわからない」
「そうですか……」
井関はしゃがみ込み、車輛の下回りをよく観察する。
「しかし、こんな構造の足回りを履きますか」
井関はそう言う。それは、国鉄では採用したことのない技術が使われていた。とはいえ、目新しいものではない。かといって古臭くもない。
まるで、どこか違う世界からやってきた貨車のようだ。
「これは、おそらく私鉄から流れてきたんだろう」
「私鉄から……」
「だが、それだけじゃあない。ベアリングを装着した貨車も流れてきたことがある」
「なんですって!?」
水野が飛び上がった。だが、それ以上に驚きを隠せないのが井関だ。
「それは、今どこに?」
「ああ……。もうかなり前だが、丁度検査官が来るタイミングと重なったもんだから、どっかの山に捨てちまったよ」
「どこの山ですか!?」
井関は職人に詰め寄った。彼は面食らいながら、それを教えてくれた。
「飛行場前の、山林だ」
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