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第六話 辺境伯の来訪
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第六話 辺境伯の来訪
セオドールが去ったあと、小応接室にはようやく本来の静けさが戻っていた。
扉の向こうで足音が遠ざかり、やがて完全に消える。先ほどまでそこにいた男が王太子であったことさえ、急に現実味を失っていくほど、室内は穏やかだった。
エルミアはその場に立ったまま、しばらく窓辺の薄明るい庭を眺めていた。
霧はすでにほとんど晴れている。白く曇っていた景色に輪郭が戻り、花壇の春花も、剪定された低木も、朝露の残る石畳も、ひとつずつはっきり見えるようになっていた。
まるで今の自分の心のようだ、とエルミアは思った。
あの夜、婚約破棄を告げられた瞬間は、いろいろな感情が一度に押し寄せて、胸の内も見通せなかった。怒り、屈辱、呆れ、悲しみ、そして奇妙な解放感。そのどれがいちばん強いのか、自分でもわからなかった。
けれど今日、セオドール本人と向き合って、ようやくわかった。
もう終わっているのだ。
未練ではなく、確認だったのかもしれない。まだ何か言われれば揺らぐのではないか、まだあの人に対して怒りや情が残っているのではないか。心のどこかで、そんな曖昧なものがあったのだろう。
だが実際に話してみれば、残っていたのは失望だけだった。
しかも、その失望すら、もう熱を持っていない。
「お嬢様」
グラハムの声が、ひどく静かに響く。
「何か温かいものをお持ちいたしましょうか」
エルミアは振り返った。
グラハムはいつものように背筋を伸ばし、控えめに立っている。その姿は変わらないのに、先ほどから何度か、彼がいつもよりほんの少しだけ気を遣っているのが伝わってきていた。
「ええ、お願いするわ」
「紅茶にいたしますか」
「そうね。今度はちゃんと美味しいものを」
するとグラハムは、わずかに目元を和らげた。
「かしこまりました。王太子宮とは違いますので」
「あなた、本当に容赦がないわね」
「事実でございます」
そう言って一礼し、彼は部屋を出ていった。
ひとりになったエルミアは、近くの椅子にゆっくりと腰を下ろす。
疲れていないつもりだったが、実際には少しだけ気が張っていたらしい。肩の力が抜けると、張り詰めていた神経がほどけていくのがわかった。
セオドールは最後まで、自分の不便ばかりを見ていた。
婚約破棄をした。だから関係は変わる。それ自体は理解し始めているのかもしれない。だが彼が本当に困っているのは、失った信頼でも尊厳でもない。茶葉が変わったこと、予算が足りないこと、商会が条件を見直すこと、自分の周囲が以前のように動かないこと――つまり、自分が不便になったことだけだ。
あまりにも身勝手で、あまりにも幼い。
あの人は、最後まで自分が世界の中心にいると思っていたのだろう。
そこへ再び扉が開き、今度は侍女が紅茶を運んできた。
銀のポットから注がれる茶は、淡い琥珀色をしている。立ちのぼる香りは深く、すっきりとしていて、それだけで気持ちが落ち着く。
一口飲むと、思わず息がついた。
「……美味しい」
その一言に、侍女がほっとしたように微笑む。
王太子宮で茶葉が変わって揉めている頃、ヴァレンティア公爵邸ではこうして当たり前のように上質な茶が供される。贅沢と言えば贅沢だ。けれどエルミアにとっては、ただきちんと整えられているという感覚のほうが強い。
それほどまでに、この邸は何もかもが安定していた。
しばらくして、グラハムが戻ってきた。
「旦那様より、お嬢様は本日は無理に来なくてよいとのことです」
「執務室へは顔を出さなくていいの?」
「はい。“今日は娘ではなく令嬢としてではなく、ただ休ませておけ”とのことでした」
エルミアはカップを持つ手を少しだけ止めた。
父らしいようでいて、少し珍しい言い方だった。
「……そう」
「加えて、午後の予定もすべてこちらで調整済みです」
「さすがね」
「当然でございます」
相変わらずの返答に、エルミアは小さく笑った。
するとそのとき、廊下の向こうが少しだけ騒がしくなった。
といっても、王太子宮のような落ち着きのない騒ぎではない。整えられた邸における“少しの動き”だ。つまり、普段はない来訪か、それなりの客が来たということだろう。
エルミアが顔を上げると、グラハムもすでに気づいていたらしい。
「確認してまいります」
そう言って彼が部屋を出ていく。
エルミアはカップを置き、窓の外へ目を向けた。
正門側の並木はこの部屋からは見えない。だが、何かが動いている空気は伝わってくる。ほんの数分後、戻ってきたグラハムの表情は、先ほどとは違う意味でわずかに整っていた。
「お客様でございます」
「どなた?」
「カイゼル・ルヴァンシュ辺境伯様です」
エルミアは思わず目を瞬いた。
「カイゼル様が?」
「はい」
「事前のお知らせは?」
「ございません。ただし、王太子殿下のような“私的で無遠慮な突撃”ではなく、正式な来訪として名乗られております」
その言い方に、エルミアは少しだけ口元を緩めた。
わざわざそこを区別するあたり、やはりグラハムも先ほどの訪問にいささか思うところがあったらしい。
「お父様はご存じ?」
「すでに。応接の許可も出ております」
「そう」
一拍置いて、エルミアは立ち上がった。
「では、お通しして」
「お嬢様もご同席なさいますか」
その問いに、彼女は少しだけ考える。
カイゼルは舞踏会の夜にも助け舟を出し、その後も温室を訪れ、必要以上に踏み込みはしないのに、必要な時にはまっすぐ言葉を差し出してくれる人だった。
それに、理由はわからないが、あの人を前にすると妙に呼吸がしやすい。
「ええ。わたくしも伺うわ」
応接室へ向かう廊下を歩きながら、エルミアは少しだけ自分の心が軽くなっていることに気づいた。
セオドールと話した後だというのに、不思議だった。むしろ逆かもしれない。冷え切ったものを確認したあとだからこそ、温度のある人の存在が際立つのかもしれない。
扉の前で一度立ち止まり、軽く呼吸を整える。
グラハムが静かに扉を開けた。
応接室には、父であるヴァレンティア公爵と、カイゼル・ルヴァンシュがいた。
父はいつも通り落ち着いた表情でソファに座り、カイゼルはその向かいで姿勢よく腰を下ろしている。黒を基調とした礼装は簡素だが上質で、余計な装飾がないぶん、彼自身の存在感が際立っていた。
彼はエルミアが入ってきた瞬間、すぐに立ち上がる。
「突然の訪問をお許しください、公爵令嬢」
「ごきげんよう、辺境伯様」
エルミアが一礼すると、彼はほんのわずかに目を細めた。
それは笑みに近いが、誰にでも見せるものではないとわかる程度の小さな変化だった。
父が低く言う。
「カイゼル卿は、近くまで来たついでだとおっしゃるが、私には別の用向きに見える」
なんとも率直である。
普通ならもう少し社交辞令を挟むものだが、父はそういうことをあまりしない。だがカイゼルも気を悪くした様子はなかった。
「公爵閣下のご慧眼には敵いません」
そう答える声音も落ち着いている。
エルミアはそっと席についた。
侍女が新たに茶を用意する間、ほんの短い沈黙が流れる。けれどその沈黙は、セオドールとの時のような重苦しいものではなかった。言葉を探して困る沈黙ではなく、必要ならいつでも話し始められる種類の静けさだ。
やがて父が口を開いた。
「さて、卿の用件を聞こう」
カイゼルはわずかに頷き、エルミアへ視線を向けてから言った。
「まずは、公爵令嬢にご挨拶を」
「挨拶?」
「今朝、王太子がここを訪れたと聞きました」
エルミアは一瞬、まばたきをした。
「ずいぶん耳が早いのですね」
「王都は思ったより狭い」
確かにその通りだ。
特に社交界の上層にいる者たちのあいだでは、何が起きたかよりも、誰がどう動いたかのほうが素早く伝わる。
「それで、挨拶とは?」
エルミアが問うと、カイゼルは静かに言った。
「よく追い返した、ということです」
数秒遅れて、父が低く笑った。
ほんのわずかだが、父が人前でそんな反応を見せるのは珍しい。エルミアも思わず目を瞬いたあと、小さく笑ってしまう。
「追い返したというほどでもありませんわ」
「では、見事に線を引いた」
「そちらのほうが近いかもしれません」
「ならばなおよい」
言い切られると、不思議と胸の奥がすっと軽くなる。
セオドールとの会話のあと、心が冷えたのは事実だった。自分が見てきたものが、本当に何も残っていなかったと確かめてしまったような気がしたからだ。
だがカイゼルの言葉には、その冷えを肯定ではなく整頓に変える力があった。
切るべきものを切った。それでいい。
そう言われた気がした。
父が腕を組んだまま尋ねる。
「卿は我が娘の判断を褒めるためだけに来たのか」
「それもあります」
「それも、か」
「もうひとつは、公爵令嬢にお伝えしたいことがありました」
カイゼルの視線がエルミアへ向く。
その灰色の瞳は相変わらず静かだ。だが、冷たいのではない。よく研がれた刃のように明晰で、しかし向けられる側を切りつけるためではなく、無駄なものを払うためにあるように見える。
「王都では今、王太子宮の乱れが少しずつ話題になっています」
「もう?」
エルミアは思わず問い返した。
「茶葉が変わったとか、商会との条件が怪しいとか、その程度ではございませんの?」
「その程度だからこそ、広がる」
カイゼルは淡々と答えた。
「大きな破綻はすぐには表に出ない。だが、日々の小さな不備は人目につく。侍従の顔色、会計官の慌ただしさ、招待客の延期、商会の再協議。そのすべてが“何かがおかしい”という感触になる」
父も頷く。
「派手な崩壊より、静かな綻びのほうが恐ろしい」
「はい」
カイゼルは続ける。
「そしてその綻びは、公爵令嬢がいなくなったことで表面化した。賢い家ほど、その意味を考え始めています」
エルミアは静かに聞いていた。
自分でも予想していたことではある。けれどこうして第三者、それも社交界と政の両方を冷静に見られる人間の口から聞くと、現実味が違う。
「……では、もう始まっているのですね」
「ええ」
カイゼルは短く答えた。
「向こうの転落が」
その言葉は冷たいようでいて、不思議と残酷には聞こえなかった。
たぶん、それが単なる悪意ではなく、事実の確認だからだろう。
エルミアはカップに指先を添えながら、ふと問う。
「それを、わざわざ知らせに来てくださったのですか」
するとカイゼルは一瞬だけ黙った。
そして、ほんのわずかに表情を和らげた。
「あなたが気に病む必要はないと伝えたかった」
直球だった。
あまりに飾りがなくて、エルミアは少しだけ言葉を失う。
普通なら、もっと回りくどく言うだろう。“念のための情報共有”だとか、“参考までに”だとか、もっともらしい理屈をつけるはずだ。
だがカイゼルはそうしない。
気に病むなと言いたかった。
それだけをそのまま口にする。
「……ありがとうございます」
ようやくそれだけ返すと、彼は頷いた。
「今日のあなたは、朝より少し顔色がいい」
「それは、嫌なものを見切った後だからかもしれませんわ」
「なら結構だ」
会話は短いのに、なぜか十分だった。
セオドールとのやりとりでは、いくら言葉を重ねても空回りするだけだった。けれどカイゼルとの会話は、必要なものだけが残る。
父がそんな二人を見比べるようにして、ふいに言った。
「カイゼル卿」
「はい」
「卿は昔から娘を高く買っていたな」
エルミアは驚いて父を見た。
昔から?
カイゼルもわずかに目を細める。
「……ご記憶でしたか」
「忘れるほど鈍くはない」
父の返答に、室内がほんの少しだけ静まる。
エルミアの頭の中で、いくつかの過去の場面が曖昧に浮かんだ。王宮での年始の式典、狩猟祭の見送り、数年前の夜会。顔を合わせたことはあっても、あくまで“辺境伯と公爵令嬢”としての接点程度だと思っていた。
だが父の言い方では、それ以上の何かがあったように聞こえる。
「お父様、それは……」
問いかけようとすると、父は紅茶を一口飲んでから、平然と言った。
「卿は以前、お前の婚約が正式に進む前に、私へそれとなく打診してきたことがある」
今度こそ、エルミアは完全に言葉を失った。
「……え?」
思わず、ひどく間の抜けた声が出る。
カイゼルは珍しく、ほんの少しだけ気まずそうに目を逸らした。
その反応だけで、父の言葉が事実だとわかってしまう。
「辺境伯様……?」
エルミアが見ると、カイゼルは数秒の沈黙ののち、静かに答えた。
「その頃には、すでに王太子との話が濃厚だった」
「はい……」
「だから、無理に踏み込むつもりはありませんでした」
「では、打診というのは」
「“もし違う未来があるなら”という程度の話です」
父が横からあっさり補足する。
「婉曲だったがな。私には十分伝わった」
エルミアは自分の頬が熱くなるのを感じた。
まさか、そんなことがあったとは。
しかも父はそれを把握していて、今この場であっさり暴露したのである。娘への気遣いがあるのかないのか、だいぶ怪しい。
「お父様……そういうことは、もっと前に」
「必要がなかった」
ごもっともである。
婚約が進んでいた当時にそんな話を聞かされても困るだけだっただろう。理屈ではそうわかる。だがそれにしても、もう少しこう、段階というものがあってもいいのではないか。
エルミアが完全に言葉を失っているあいだに、カイゼルが低く口を開いた。
「困らせるつもりはありませんでした」
その声には、本当に余計な押しつけがなかった。
だから余計に困る。
「……今さら、ずいぶんと大きな事実を知ってしまった気がいたします」
「今さらだから、言えるのだろう」
父がそう言う。
その通りで、反論できない。
応接室に微妙な沈黙が落ちる。だがそれは気まずいだけのものではなかった。どこか、まだ形にならない何かがそこに置かれたような、不思議な静けさだった。
やがてカイゼルが立ち上がった。
「長居をしました」
「もうお帰りに?」
エルミアが思わず聞くと、彼はわずかに目を細めた。
「あなたの顔を見て、少し話せれば十分です」
その言葉に、また胸が小さく揺れる。
父が立ち上がり、形式的な見送りの姿勢を取る。エルミアも続いて席を立った。
カイゼルは退出の前に、ほんの一瞬だけエルミアへ向き直った。
「公爵令嬢」
「はい」
「今朝の訪問者が何を言おうと、あなたが間違っていたわけではない」
その言葉は、ひどく静かだった。
けれど、先ほどセオドールとの会話で胸の奥に残っていた最後の冷たさを、確かに溶かしていく。
「はい」
エルミアは、今度は迷わず頷けた。
カイゼルはそれを見て、ほんのわずかに口元を和らげると、そのまま部屋を出ていった。
扉が閉まり、再び静寂が戻る。
父は紅茶を置き、娘を見た。
「どうした」
「どうした、ではありません」
「何がだ」
「今の話です」
父は一瞬考えるような間を置いたあと、平然と答えた。
「辺境伯の件か」
「それ以外に何があるのですか」
すると父は珍しく、ほんのわずかに目元を緩めた。
「お前に動揺するだけの余裕が戻ったようで何よりだ」
ひどい言い方だが、否定しにくい。
つい先日までの自分なら、そんな話を聞いても顔を赤くする余裕すらなかったかもしれない。
エルミアは小さく息をつき、椅子に腰を下ろした。
窓の外はすっかり明るい。霧は完全に消え、庭の花々もはっきり色を取り戻している。
王太子は去り、辺境伯は来た。
冷たいものを確かめた朝に、温度のある言葉が残った。
それだけで、世界の見え方が少し変わる。
セオドールが失ってから気づく側だとするなら、自分はようやく、気づかずに通り過ぎていたものに目を向け始めたのかもしれない。
そんなことを思いながら、エルミアはまだ少し熱の残る頬にそっと指先を当てた。
セオドールが去ったあと、小応接室にはようやく本来の静けさが戻っていた。
扉の向こうで足音が遠ざかり、やがて完全に消える。先ほどまでそこにいた男が王太子であったことさえ、急に現実味を失っていくほど、室内は穏やかだった。
エルミアはその場に立ったまま、しばらく窓辺の薄明るい庭を眺めていた。
霧はすでにほとんど晴れている。白く曇っていた景色に輪郭が戻り、花壇の春花も、剪定された低木も、朝露の残る石畳も、ひとつずつはっきり見えるようになっていた。
まるで今の自分の心のようだ、とエルミアは思った。
あの夜、婚約破棄を告げられた瞬間は、いろいろな感情が一度に押し寄せて、胸の内も見通せなかった。怒り、屈辱、呆れ、悲しみ、そして奇妙な解放感。そのどれがいちばん強いのか、自分でもわからなかった。
けれど今日、セオドール本人と向き合って、ようやくわかった。
もう終わっているのだ。
未練ではなく、確認だったのかもしれない。まだ何か言われれば揺らぐのではないか、まだあの人に対して怒りや情が残っているのではないか。心のどこかで、そんな曖昧なものがあったのだろう。
だが実際に話してみれば、残っていたのは失望だけだった。
しかも、その失望すら、もう熱を持っていない。
「お嬢様」
グラハムの声が、ひどく静かに響く。
「何か温かいものをお持ちいたしましょうか」
エルミアは振り返った。
グラハムはいつものように背筋を伸ばし、控えめに立っている。その姿は変わらないのに、先ほどから何度か、彼がいつもよりほんの少しだけ気を遣っているのが伝わってきていた。
「ええ、お願いするわ」
「紅茶にいたしますか」
「そうね。今度はちゃんと美味しいものを」
するとグラハムは、わずかに目元を和らげた。
「かしこまりました。王太子宮とは違いますので」
「あなた、本当に容赦がないわね」
「事実でございます」
そう言って一礼し、彼は部屋を出ていった。
ひとりになったエルミアは、近くの椅子にゆっくりと腰を下ろす。
疲れていないつもりだったが、実際には少しだけ気が張っていたらしい。肩の力が抜けると、張り詰めていた神経がほどけていくのがわかった。
セオドールは最後まで、自分の不便ばかりを見ていた。
婚約破棄をした。だから関係は変わる。それ自体は理解し始めているのかもしれない。だが彼が本当に困っているのは、失った信頼でも尊厳でもない。茶葉が変わったこと、予算が足りないこと、商会が条件を見直すこと、自分の周囲が以前のように動かないこと――つまり、自分が不便になったことだけだ。
あまりにも身勝手で、あまりにも幼い。
あの人は、最後まで自分が世界の中心にいると思っていたのだろう。
そこへ再び扉が開き、今度は侍女が紅茶を運んできた。
銀のポットから注がれる茶は、淡い琥珀色をしている。立ちのぼる香りは深く、すっきりとしていて、それだけで気持ちが落ち着く。
一口飲むと、思わず息がついた。
「……美味しい」
その一言に、侍女がほっとしたように微笑む。
王太子宮で茶葉が変わって揉めている頃、ヴァレンティア公爵邸ではこうして当たり前のように上質な茶が供される。贅沢と言えば贅沢だ。けれどエルミアにとっては、ただきちんと整えられているという感覚のほうが強い。
それほどまでに、この邸は何もかもが安定していた。
しばらくして、グラハムが戻ってきた。
「旦那様より、お嬢様は本日は無理に来なくてよいとのことです」
「執務室へは顔を出さなくていいの?」
「はい。“今日は娘ではなく令嬢としてではなく、ただ休ませておけ”とのことでした」
エルミアはカップを持つ手を少しだけ止めた。
父らしいようでいて、少し珍しい言い方だった。
「……そう」
「加えて、午後の予定もすべてこちらで調整済みです」
「さすがね」
「当然でございます」
相変わらずの返答に、エルミアは小さく笑った。
するとそのとき、廊下の向こうが少しだけ騒がしくなった。
といっても、王太子宮のような落ち着きのない騒ぎではない。整えられた邸における“少しの動き”だ。つまり、普段はない来訪か、それなりの客が来たということだろう。
エルミアが顔を上げると、グラハムもすでに気づいていたらしい。
「確認してまいります」
そう言って彼が部屋を出ていく。
エルミアはカップを置き、窓の外へ目を向けた。
正門側の並木はこの部屋からは見えない。だが、何かが動いている空気は伝わってくる。ほんの数分後、戻ってきたグラハムの表情は、先ほどとは違う意味でわずかに整っていた。
「お客様でございます」
「どなた?」
「カイゼル・ルヴァンシュ辺境伯様です」
エルミアは思わず目を瞬いた。
「カイゼル様が?」
「はい」
「事前のお知らせは?」
「ございません。ただし、王太子殿下のような“私的で無遠慮な突撃”ではなく、正式な来訪として名乗られております」
その言い方に、エルミアは少しだけ口元を緩めた。
わざわざそこを区別するあたり、やはりグラハムも先ほどの訪問にいささか思うところがあったらしい。
「お父様はご存じ?」
「すでに。応接の許可も出ております」
「そう」
一拍置いて、エルミアは立ち上がった。
「では、お通しして」
「お嬢様もご同席なさいますか」
その問いに、彼女は少しだけ考える。
カイゼルは舞踏会の夜にも助け舟を出し、その後も温室を訪れ、必要以上に踏み込みはしないのに、必要な時にはまっすぐ言葉を差し出してくれる人だった。
それに、理由はわからないが、あの人を前にすると妙に呼吸がしやすい。
「ええ。わたくしも伺うわ」
応接室へ向かう廊下を歩きながら、エルミアは少しだけ自分の心が軽くなっていることに気づいた。
セオドールと話した後だというのに、不思議だった。むしろ逆かもしれない。冷え切ったものを確認したあとだからこそ、温度のある人の存在が際立つのかもしれない。
扉の前で一度立ち止まり、軽く呼吸を整える。
グラハムが静かに扉を開けた。
応接室には、父であるヴァレンティア公爵と、カイゼル・ルヴァンシュがいた。
父はいつも通り落ち着いた表情でソファに座り、カイゼルはその向かいで姿勢よく腰を下ろしている。黒を基調とした礼装は簡素だが上質で、余計な装飾がないぶん、彼自身の存在感が際立っていた。
彼はエルミアが入ってきた瞬間、すぐに立ち上がる。
「突然の訪問をお許しください、公爵令嬢」
「ごきげんよう、辺境伯様」
エルミアが一礼すると、彼はほんのわずかに目を細めた。
それは笑みに近いが、誰にでも見せるものではないとわかる程度の小さな変化だった。
父が低く言う。
「カイゼル卿は、近くまで来たついでだとおっしゃるが、私には別の用向きに見える」
なんとも率直である。
普通ならもう少し社交辞令を挟むものだが、父はそういうことをあまりしない。だがカイゼルも気を悪くした様子はなかった。
「公爵閣下のご慧眼には敵いません」
そう答える声音も落ち着いている。
エルミアはそっと席についた。
侍女が新たに茶を用意する間、ほんの短い沈黙が流れる。けれどその沈黙は、セオドールとの時のような重苦しいものではなかった。言葉を探して困る沈黙ではなく、必要ならいつでも話し始められる種類の静けさだ。
やがて父が口を開いた。
「さて、卿の用件を聞こう」
カイゼルはわずかに頷き、エルミアへ視線を向けてから言った。
「まずは、公爵令嬢にご挨拶を」
「挨拶?」
「今朝、王太子がここを訪れたと聞きました」
エルミアは一瞬、まばたきをした。
「ずいぶん耳が早いのですね」
「王都は思ったより狭い」
確かにその通りだ。
特に社交界の上層にいる者たちのあいだでは、何が起きたかよりも、誰がどう動いたかのほうが素早く伝わる。
「それで、挨拶とは?」
エルミアが問うと、カイゼルは静かに言った。
「よく追い返した、ということです」
数秒遅れて、父が低く笑った。
ほんのわずかだが、父が人前でそんな反応を見せるのは珍しい。エルミアも思わず目を瞬いたあと、小さく笑ってしまう。
「追い返したというほどでもありませんわ」
「では、見事に線を引いた」
「そちらのほうが近いかもしれません」
「ならばなおよい」
言い切られると、不思議と胸の奥がすっと軽くなる。
セオドールとの会話のあと、心が冷えたのは事実だった。自分が見てきたものが、本当に何も残っていなかったと確かめてしまったような気がしたからだ。
だがカイゼルの言葉には、その冷えを肯定ではなく整頓に変える力があった。
切るべきものを切った。それでいい。
そう言われた気がした。
父が腕を組んだまま尋ねる。
「卿は我が娘の判断を褒めるためだけに来たのか」
「それもあります」
「それも、か」
「もうひとつは、公爵令嬢にお伝えしたいことがありました」
カイゼルの視線がエルミアへ向く。
その灰色の瞳は相変わらず静かだ。だが、冷たいのではない。よく研がれた刃のように明晰で、しかし向けられる側を切りつけるためではなく、無駄なものを払うためにあるように見える。
「王都では今、王太子宮の乱れが少しずつ話題になっています」
「もう?」
エルミアは思わず問い返した。
「茶葉が変わったとか、商会との条件が怪しいとか、その程度ではございませんの?」
「その程度だからこそ、広がる」
カイゼルは淡々と答えた。
「大きな破綻はすぐには表に出ない。だが、日々の小さな不備は人目につく。侍従の顔色、会計官の慌ただしさ、招待客の延期、商会の再協議。そのすべてが“何かがおかしい”という感触になる」
父も頷く。
「派手な崩壊より、静かな綻びのほうが恐ろしい」
「はい」
カイゼルは続ける。
「そしてその綻びは、公爵令嬢がいなくなったことで表面化した。賢い家ほど、その意味を考え始めています」
エルミアは静かに聞いていた。
自分でも予想していたことではある。けれどこうして第三者、それも社交界と政の両方を冷静に見られる人間の口から聞くと、現実味が違う。
「……では、もう始まっているのですね」
「ええ」
カイゼルは短く答えた。
「向こうの転落が」
その言葉は冷たいようでいて、不思議と残酷には聞こえなかった。
たぶん、それが単なる悪意ではなく、事実の確認だからだろう。
エルミアはカップに指先を添えながら、ふと問う。
「それを、わざわざ知らせに来てくださったのですか」
するとカイゼルは一瞬だけ黙った。
そして、ほんのわずかに表情を和らげた。
「あなたが気に病む必要はないと伝えたかった」
直球だった。
あまりに飾りがなくて、エルミアは少しだけ言葉を失う。
普通なら、もっと回りくどく言うだろう。“念のための情報共有”だとか、“参考までに”だとか、もっともらしい理屈をつけるはずだ。
だがカイゼルはそうしない。
気に病むなと言いたかった。
それだけをそのまま口にする。
「……ありがとうございます」
ようやくそれだけ返すと、彼は頷いた。
「今日のあなたは、朝より少し顔色がいい」
「それは、嫌なものを見切った後だからかもしれませんわ」
「なら結構だ」
会話は短いのに、なぜか十分だった。
セオドールとのやりとりでは、いくら言葉を重ねても空回りするだけだった。けれどカイゼルとの会話は、必要なものだけが残る。
父がそんな二人を見比べるようにして、ふいに言った。
「カイゼル卿」
「はい」
「卿は昔から娘を高く買っていたな」
エルミアは驚いて父を見た。
昔から?
カイゼルもわずかに目を細める。
「……ご記憶でしたか」
「忘れるほど鈍くはない」
父の返答に、室内がほんの少しだけ静まる。
エルミアの頭の中で、いくつかの過去の場面が曖昧に浮かんだ。王宮での年始の式典、狩猟祭の見送り、数年前の夜会。顔を合わせたことはあっても、あくまで“辺境伯と公爵令嬢”としての接点程度だと思っていた。
だが父の言い方では、それ以上の何かがあったように聞こえる。
「お父様、それは……」
問いかけようとすると、父は紅茶を一口飲んでから、平然と言った。
「卿は以前、お前の婚約が正式に進む前に、私へそれとなく打診してきたことがある」
今度こそ、エルミアは完全に言葉を失った。
「……え?」
思わず、ひどく間の抜けた声が出る。
カイゼルは珍しく、ほんの少しだけ気まずそうに目を逸らした。
その反応だけで、父の言葉が事実だとわかってしまう。
「辺境伯様……?」
エルミアが見ると、カイゼルは数秒の沈黙ののち、静かに答えた。
「その頃には、すでに王太子との話が濃厚だった」
「はい……」
「だから、無理に踏み込むつもりはありませんでした」
「では、打診というのは」
「“もし違う未来があるなら”という程度の話です」
父が横からあっさり補足する。
「婉曲だったがな。私には十分伝わった」
エルミアは自分の頬が熱くなるのを感じた。
まさか、そんなことがあったとは。
しかも父はそれを把握していて、今この場であっさり暴露したのである。娘への気遣いがあるのかないのか、だいぶ怪しい。
「お父様……そういうことは、もっと前に」
「必要がなかった」
ごもっともである。
婚約が進んでいた当時にそんな話を聞かされても困るだけだっただろう。理屈ではそうわかる。だがそれにしても、もう少しこう、段階というものがあってもいいのではないか。
エルミアが完全に言葉を失っているあいだに、カイゼルが低く口を開いた。
「困らせるつもりはありませんでした」
その声には、本当に余計な押しつけがなかった。
だから余計に困る。
「……今さら、ずいぶんと大きな事実を知ってしまった気がいたします」
「今さらだから、言えるのだろう」
父がそう言う。
その通りで、反論できない。
応接室に微妙な沈黙が落ちる。だがそれは気まずいだけのものではなかった。どこか、まだ形にならない何かがそこに置かれたような、不思議な静けさだった。
やがてカイゼルが立ち上がった。
「長居をしました」
「もうお帰りに?」
エルミアが思わず聞くと、彼はわずかに目を細めた。
「あなたの顔を見て、少し話せれば十分です」
その言葉に、また胸が小さく揺れる。
父が立ち上がり、形式的な見送りの姿勢を取る。エルミアも続いて席を立った。
カイゼルは退出の前に、ほんの一瞬だけエルミアへ向き直った。
「公爵令嬢」
「はい」
「今朝の訪問者が何を言おうと、あなたが間違っていたわけではない」
その言葉は、ひどく静かだった。
けれど、先ほどセオドールとの会話で胸の奥に残っていた最後の冷たさを、確かに溶かしていく。
「はい」
エルミアは、今度は迷わず頷けた。
カイゼルはそれを見て、ほんのわずかに口元を和らげると、そのまま部屋を出ていった。
扉が閉まり、再び静寂が戻る。
父は紅茶を置き、娘を見た。
「どうした」
「どうした、ではありません」
「何がだ」
「今の話です」
父は一瞬考えるような間を置いたあと、平然と答えた。
「辺境伯の件か」
「それ以外に何があるのですか」
すると父は珍しく、ほんのわずかに目元を緩めた。
「お前に動揺するだけの余裕が戻ったようで何よりだ」
ひどい言い方だが、否定しにくい。
つい先日までの自分なら、そんな話を聞いても顔を赤くする余裕すらなかったかもしれない。
エルミアは小さく息をつき、椅子に腰を下ろした。
窓の外はすっかり明るい。霧は完全に消え、庭の花々もはっきり色を取り戻している。
王太子は去り、辺境伯は来た。
冷たいものを確かめた朝に、温度のある言葉が残った。
それだけで、世界の見え方が少し変わる。
セオドールが失ってから気づく側だとするなら、自分はようやく、気づかずに通り過ぎていたものに目を向け始めたのかもしれない。
そんなことを思いながら、エルミアはまだ少し熱の残る頬にそっと指先を当てた。
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