『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ

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第22話 翌日の試金石

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第22話 翌日の試金石

 祝祭の余韻が、王都から引くのは早かった。
 即位の翌朝、王宮の回廊には拍手も音楽もない。あるのは、紙の擦れる音と、控えめな足音だけだ。

 アルベルトは夜明け前に執務室へ入った。
 机の上には、すでに三つの急報が置かれている。

「……来たな」

 小さく呟き、最初の封を切る。

 ――港湾組合より。
 昨夜の祝祭に乗じた価格操作の疑い。即応を要す。

 次の封。

 ――隣国使節より。
 即位祝辞に添えられた、曖昧な但し書き。解釈次第で火種。

 三つ目。

 ――地方からの報告。
 水害対策の補助金申請が、手続き不明瞭で滞留。

(翌日の試金石、か)

 祝祭の翌日に現れる問題は、派手ではない。
 だが、見逃せば必ず拡大する。

 アルベルトは、呼び鈴を鳴らした。

「各担当を。十五分で」

 集まった官たちに、彼は簡潔に指示を出す。

「港湾は、条件付き是正。数値基準を即時公開し、監督を強化」
「外交は、但し書きの解釈を三案用意。最悪の誤解を先に否定する文言を入れる」
「補助金は、手続きを簡略化。申請書式を一本化し、暫定執行を認める」

 誰も反論しない。
 必要な確認だけが飛び、答えが返る。

「責任は?」

「最終責任は、私が負う」

 短い言葉が、場を締めた。

 午前中のうちに、三件すべてが“動き出す”。
 完全解決ではない。だが、止まらない。

(これでいい)

 王であるとは、完璧を装うことではない。
 誤解が広がる前に、流れを正すことだ。

 一方、領地。
 エレノアは、昨夜の雨で増水した川の様子を見に来ていた。

「水位は?」

「警戒線の下です。水路が効いています」

 頷き、彼女は次の指示を出す。

「念のため、仮堤を。資材は倉から」

 判断は早い。
 理由は単純だ。迷わない仕組みが、ここにはある。

 昼頃、王都から使いが来た。
 急ぎの用件ではない、定期連絡だ。

「陛下より。新体制の初動は問題なし、と」

 エレノアは、短く返す。

「承知しました」

 それだけで十分だった。

 午後、王宮。
 港湾の是正が公表され、価格は落ち着く。
 外交文書は、相手の不満を刺激せずに差し替えられた。
 補助金は暫定執行が始まり、現場が動く。

「派手ではないが、効いている」
「翌日にこれができるなら、信頼は積み上がる」

 評価は、静かに広がる。

 夕刻、アルベルトは一人、窓辺に立った。

(誰にも頼らなかった)

 その事実に、誇りはない。
 あるのは、安堵だけだ。

 同じ夕刻、エレノアは堤を確認し、頷いた。

(必要なことを、必要な分だけ)

 それが、自由の使い方だ。

 夜。
 王宮では灯りが落ち、領地でも人々が家路につく。

 即位の翌日は、無事に終わった。
 試金石は、合格だ。

 祝祭の翌日に、国は試される。
 そしてこの日、王は答えを出し、
 公爵令嬢は自分の場を守った。

 交わらぬ道は、互いを邪魔しない。
 それぞれの場所で、未来は確かに前へ進んでいた。
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