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ふわふわ

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第十三話 運び出される栄華

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第十三話 運び出される栄華

 午前中の王宮は、いつもなら来客も少なく、静寂に包まれている時間帯だった。だがその日、正門前には数台の馬車と荷車が並び、普段とは明らかに異なる空気が漂っていた。

「次は東翼の応接間です」

 記録官の指示に従い、作業員たちが動き出す。彼らの手つきは慎重で、乱暴さは一切ない。それでも、王宮にとっては十分すぎるほど異様な光景だった。

 応接間の中央に据えられていた長机が、ゆっくりと持ち上げられる。重厚な木材に、金細工を施した脚部。王家の象徴のように扱われてきた家具だ。

「それも対象なのですか……?」

 立ち会っていた若い官吏が、思わず口にする。

 ローレンスは帳簿を確認し、淡々と答えた。

「はい。王太子妃候補の公式応接用として発注されたものです。費用はすべて公爵家から支払われています」

 官吏は唇を噛んだ。理屈は理解している。だが感情が、ついてこない。

 机が運び出されると、床には長年隠れていた傷と色褪せが露わになった。そこに残るのは、かつての栄華の痕跡だけだ。

 別の部屋では、壁一面を覆っていたタペストリーが外されていた。狩猟の情景を織り込んだ大作で、来客の目を引くために飾られていたものだ。

「これがなくなると……随分、殺風景ですね」

 王宮付きの老女官が、ぽつりと呟く。

「元々、この壁はこういう色でした」

 記録官の言葉は、必要以上に事実を突きつけるものだった。

 タペストリーが外されると、石壁の冷たい灰色が姿を現す。王宮が持つ厳格さだけが残り、華やかさは消え失せていく。

 回廊では、シャンデリアの撤去作業が始まっていた。水晶の一つ一つが丁寧に包まれ、箱に収められていく。その光を失った天井は、驚くほど暗く見える。

「照明を増やさねばなりませんね」

 会計官が呟くと、隣にいた財務担当官が苦笑した。

「予算があれば、ですが」

 その言葉に、誰も返事をしなかった。

 カタリナは、少し離れた場所から作業の進行を確認していた。彼女の視線は、物ではなく、人の表情を追っている。

 驚き、戸惑い、焦り、そして遅れて訪れる理解。

 王宮に仕える者たちは、ようやく気づき始めていた。これが一時的な措置ではなく、取り消せない現実であることを。

「思った以上に、王宮は広いですわね」

 カタリナのその言葉に、同行していた法務官が小さく頷く。

「……物が減ると、余計に」

「ええ。広さだけが残る」

 それは、彼女自身の境遇とも重なる言葉だった。

 王太子の執務室の前を通りかかったとき、中から荒い声が聞こえてきた。何かを叩きつける音もする。

 だが、誰も足を止めなかった。

 今、この王宮で優先されているのは感情ではない。契約と記録だ。

 荷車が正門を通り抜けるたび、王宮から一つずつ「飾り」が消えていく。そのたびに、門前の空気が少しずつ変わっていくのを、誰もが感じていた。

 夕方、作業が一段落した頃には、王宮の内部は見違えるほど簡素になっていた。かつて客人を圧倒していた豪奢さは、影も形もない。

 カタリナは、正門前で最後の荷車を見送る。

「本日は、ここまでですわ」

 記録官が確認を取る。

「明日は西翼と、宝物庫前室の確認を予定しています」

「承知しました」

 彼女は頷き、王宮を振り返った。

 そこにあるのは、崩れた建物ではない。だが、確実に“栄華だけ”が失われた空間だった。

 この日、王宮は理解する。

 力とは、積み上げた装飾ではなく、それを支える信用の上にしか成り立たないのだということを。

 そしてその信用は、すでに静かに、運び出されてしまった後だった。
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