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第3話 公爵家という現場
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第3話 公爵家という現場
孤児院と街道工事。
立て続けの“抜き打ち”は、当然ながら公爵家の中にも波紋を広げていた。
ウィンタースイート公爵邸・執務室。
重厚な机の向こうで、ひとりの男が腕を組んでいる。
ガラリアの父――ウィンタースイート公爵その人だった。
その前に、ガラリアは堂々と立っている。
「……で?」
父は、ゆっくりと口を開いた。
「孤児院の園長を事実上更迭。
街道工事の休憩規定と人員配置を独断で変更」
一枚の報告書を、指で叩く。
「説明を聞こうか、ガラリア」
普通の令嬢なら、ここで萎縮する。
言い訳を考え、言葉を選び、父の顔色を窺う。
だが、ガラリアは違った。
「説明?」
首を傾げる。
「現場見て、
おかしいと思ったから直した」
「以上だ」
一瞬、沈黙。
重苦しい空気が流れる――かと思われた、その時。
「……ふ」
公爵が、わずかに口元を緩めた。
「やはり、そう来たか」
「は?」
ガラリアは目を瞬く。
「怒らねぇのか?」
「怒る理由がない」
公爵は、ゆっくりと椅子にもたれた。
「帳簿も、報告書も、
形式上は問題なかった」
「だがな」
視線が鋭くなる。
「現場が回っていなかった」
その言葉に、ガラリアは小さく笑った。
「だろ?」
「お前は……」
公爵は、しばし娘を観察するように見つめてから、言った。
「貴族らしくはない」
「知ってる」
「だが」
机に手を置く。
「領主としては、悪くない」
ガラリアは、一瞬だけ言葉を失った。
「……へぇ」
「意外か?」
「いや」
肩をすくめる。
「親父も、現場派だと思ってた」
公爵は、鼻で笑った。
「私は“書類派”だ」
「だがな」
「書類が正しいかどうかを決めるのは、
結局、現場だ」
立ち上がり、窓の外を見やる。
「お前のやり方は荒っぽい。
敵も作るだろう」
「でもよ」
振り返る。
「結果が出ている」
ガラリアは、腕を組んだ。
「なら、文句ねぇな」
「一つだけ、条件がある」
「なんだ?」
公爵は、低く言った。
「――責任は取れ」
「現場に口を出すということは、
改善できなかった時の責任も、
すべて背負うということだ」
ガラリアは、即答した。
「当たり前だ」
「できねぇなら、
最初から行かねぇ」
その言葉に、公爵は満足そうに頷いた。
「よし」
「なら、好きにやれ」
そして、ぽつりと付け足す。
「……ただし」
「?」
「王都は、黙っていないだろう」
「噂になる」
ガラリアは、にやりと笑った。
「上等だ」
「口だけの連中に、
現場の何が分かる」
その態度に、公爵は苦笑した。
(似ているな……)
若い頃の自分に。
---
その日の午後。
公爵邸では、異例の通達が出された。
・現場からの意見を直接受け取る窓口の設置
・報告書の簡略化
・緊急案件は、階層を飛ばして上申可
役人たちは、目を疑った。
「こんな……前例のない……」
「前例がないなら、作ればいい」
ガラリアは、あっさり言った。
「現場が困ってんのに、
前例待ちしてる暇はねぇ」
役人の一人が、思わず漏らす。
「……本当に、公爵令嬢様とは思えません」
「だろ?」
ガラリアは、にかっと笑った。
「でもな」
「ここは、私の領地だ」
その一言に、誰も反論できなかった。
---
数日後。
孤児院では、食材の納入が増え、
献立が一品増えた。
街道工事では、倒れる者が出なくなり、
工期も、むしろ短縮された。
現場から上がる声は、次第に変わっていく。
「……上が、聞いてくれるぞ」
「言えば、変わる」
「ここは、違う」
その中心に、
ガラリアの名前があることを、
現場の者たちは自然と理解し始めていた。
---
一方、王都。
まだ、噂は小さい。
「ウィンタースイートの令嬢が、
妙なことをしているらしい」
「現場に出入りしているとか」
だが、その噂は、
ゆっくりと、しかし確実に広がっていく。
ガラリアは、それを知らない。
知る必要もない。
「次は、どこだ?」
地図を広げながら、
ただそれだけを考えている。
貴族令嬢としてではなく。
――領地という“現場”を預かる人間として。
こうして。
ガラリア・ウィンタースイートは、
自覚のないまま、
“普通ではない領主像”を形作り始めていた。
水戸黄門ムーブは、
すでに一過性のものではなくなっていた。
孤児院と街道工事。
立て続けの“抜き打ち”は、当然ながら公爵家の中にも波紋を広げていた。
ウィンタースイート公爵邸・執務室。
重厚な机の向こうで、ひとりの男が腕を組んでいる。
ガラリアの父――ウィンタースイート公爵その人だった。
その前に、ガラリアは堂々と立っている。
「……で?」
父は、ゆっくりと口を開いた。
「孤児院の園長を事実上更迭。
街道工事の休憩規定と人員配置を独断で変更」
一枚の報告書を、指で叩く。
「説明を聞こうか、ガラリア」
普通の令嬢なら、ここで萎縮する。
言い訳を考え、言葉を選び、父の顔色を窺う。
だが、ガラリアは違った。
「説明?」
首を傾げる。
「現場見て、
おかしいと思ったから直した」
「以上だ」
一瞬、沈黙。
重苦しい空気が流れる――かと思われた、その時。
「……ふ」
公爵が、わずかに口元を緩めた。
「やはり、そう来たか」
「は?」
ガラリアは目を瞬く。
「怒らねぇのか?」
「怒る理由がない」
公爵は、ゆっくりと椅子にもたれた。
「帳簿も、報告書も、
形式上は問題なかった」
「だがな」
視線が鋭くなる。
「現場が回っていなかった」
その言葉に、ガラリアは小さく笑った。
「だろ?」
「お前は……」
公爵は、しばし娘を観察するように見つめてから、言った。
「貴族らしくはない」
「知ってる」
「だが」
机に手を置く。
「領主としては、悪くない」
ガラリアは、一瞬だけ言葉を失った。
「……へぇ」
「意外か?」
「いや」
肩をすくめる。
「親父も、現場派だと思ってた」
公爵は、鼻で笑った。
「私は“書類派”だ」
「だがな」
「書類が正しいかどうかを決めるのは、
結局、現場だ」
立ち上がり、窓の外を見やる。
「お前のやり方は荒っぽい。
敵も作るだろう」
「でもよ」
振り返る。
「結果が出ている」
ガラリアは、腕を組んだ。
「なら、文句ねぇな」
「一つだけ、条件がある」
「なんだ?」
公爵は、低く言った。
「――責任は取れ」
「現場に口を出すということは、
改善できなかった時の責任も、
すべて背負うということだ」
ガラリアは、即答した。
「当たり前だ」
「できねぇなら、
最初から行かねぇ」
その言葉に、公爵は満足そうに頷いた。
「よし」
「なら、好きにやれ」
そして、ぽつりと付け足す。
「……ただし」
「?」
「王都は、黙っていないだろう」
「噂になる」
ガラリアは、にやりと笑った。
「上等だ」
「口だけの連中に、
現場の何が分かる」
その態度に、公爵は苦笑した。
(似ているな……)
若い頃の自分に。
---
その日の午後。
公爵邸では、異例の通達が出された。
・現場からの意見を直接受け取る窓口の設置
・報告書の簡略化
・緊急案件は、階層を飛ばして上申可
役人たちは、目を疑った。
「こんな……前例のない……」
「前例がないなら、作ればいい」
ガラリアは、あっさり言った。
「現場が困ってんのに、
前例待ちしてる暇はねぇ」
役人の一人が、思わず漏らす。
「……本当に、公爵令嬢様とは思えません」
「だろ?」
ガラリアは、にかっと笑った。
「でもな」
「ここは、私の領地だ」
その一言に、誰も反論できなかった。
---
数日後。
孤児院では、食材の納入が増え、
献立が一品増えた。
街道工事では、倒れる者が出なくなり、
工期も、むしろ短縮された。
現場から上がる声は、次第に変わっていく。
「……上が、聞いてくれるぞ」
「言えば、変わる」
「ここは、違う」
その中心に、
ガラリアの名前があることを、
現場の者たちは自然と理解し始めていた。
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一方、王都。
まだ、噂は小さい。
「ウィンタースイートの令嬢が、
妙なことをしているらしい」
「現場に出入りしているとか」
だが、その噂は、
ゆっくりと、しかし確実に広がっていく。
ガラリアは、それを知らない。
知る必要もない。
「次は、どこだ?」
地図を広げながら、
ただそれだけを考えている。
貴族令嬢としてではなく。
――領地という“現場”を預かる人間として。
こうして。
ガラリア・ウィンタースイートは、
自覚のないまま、
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