ガハハと笑う公爵令嬢は、王太子の自由を縛らない ~水戸黄門ムーブでざまぁします~

ふわふわ

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第10話 いつも通り、現場へ だ

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第10話 いつも通り、現場へ

 朝は、いつもと同じだった。

 ウィンタースイート公爵邸の廊下を、ガラリア・ウィンタースイートは大股で歩いていく。
 侍女が差し出した外套を受け取り、肩に引っかけるように羽織った。

「お嬢様、本日のご予定ですが……」

「ああ」

 立ち止まることもなく、答える。

「午前中は南区の倉庫」
「昼過ぎに川沿いの道」
「夕方、孤児院」

 淀みない。

 婚約破棄があった翌日とは、到底思えない段取りだ。

 侍女は一瞬、言葉を選ぶように口を開いた。

「……本日は、王都で正式な発表があるかと」

「あるだろ」

 即答。

「勝手にやらせとけ」

 それだけ言って、歩みを再開する。

 その背中には、迷いも、躊躇もない。


---

 南区の倉庫街は、朝から慌ただしかった。

 荷の積み下ろし、馬車の往来、作業員の怒鳴り声。
 いつもと変わらない、現場の音。

「おう!」

 ガラリアが姿を現した瞬間、何人かが顔を上げる。

「お嬢様!」
「今日は、早いですね!」

「遅ぇと困るだろ」

 そう言って、さっさと中へ入っていく。

 責任者が、慌てて後を追った。

「昨日お話しした照明の件ですが……」

「どうなった」

「手配は済みました。明日から工事に入れます」

「よし」

 それだけで、話は終わる。

 ガラリアは、倉庫の奥まで歩き、床を踏み鳴らした。

「……ここ、滑るな」

「え?」

「昨日、雨降っただろ」

「水、残ってる」

 責任者は、慌てて確認する。

「本当だ……」

「転ぶ前に直せ」

「はい!」

 現場は、即座に動く。

 誰も、余計なことを聞かない。
 誰も、噂を口にしない。

 ここでは、
 彼女は“婚約破棄された令嬢”ではない。

 ただの、
 口うるさい公爵様だ。


---

 昼過ぎ、川沿いの道。

 整備途中の道を見下ろしながら、ガラリアは腕を組む。

「……幅、足りねぇな」

「予算の都合で……」

「言い訳すんな」

「馬車がすれ違えねぇ道は、
 結局、使われなくなる」

「余計な改修費が出るだけだ」

 冷静で、容赦がない。

 だが、声を荒らげることはない。

 現場責任者は、真剣な顔で頷いた。

「……設計、見直します」

「最初からそうしろ」

 それだけ言って、次へ向かう。


---

 その頃、王都では。

 社交界で、正式な発表が出回り始めていた。

 ――ウィンタースイート公爵令嬢と
   フィリックス公爵令息の婚約は、円満に解消された。

 “円満”。

 その言葉に、誰もが勝手な意味を付け足す。

「やはり、あの方が……」
「仕方ありませんわね」

 だが、ガラリアは、その場にいない。

 知る必要もない。


---

 夕方。

 孤児院の門が、勢いよく開く。

「おらー!ガキどもー!」

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、子どもたちが一斉に飛び出してくる。

「お嬢様だ!」
「きたー!」

「押すなって言ってんだろ!」

 怒鳴り声と笑い声が、混ざり合う。

 ガラリアは、腰に手を当てて辺りを見回した。

「全員いるな?」

「はーい!」

「喧嘩してるやつ、後で話聞く」

「えー!」

「文句言うな」

 いつも通りだ。

 配膳の準備が進む中、
 年長の子どもが、そっと声をかけてきた。

「……ねえ」

「ん?」

「お嬢様、
 王都で色々言われてるけど……」

 ガラリアは、手を止めた。

 だが、表情は変わらない。

「ああ、噂だろ」

「気にすんな」

 子どもは、不安そうに眉を下げる。

「でも……」

「いいか」

 ガラリアは、しゃがみ込み、目線を合わせる。

「私は、
 ここに来る」

「明日も」
「明後日も」

「それだけだ」

 子どもは、しばらく考えた後、
 小さく頷いた。

「……うん」

 ガラリアは、立ち上がり、周囲を見回す。

「ほら、飯だ!」

「冷めるぞ!」

 声が弾む。

 子どもたちは、安心したように笑った。


---

 夜。

 公爵邸に戻ったガラリアは、外套を脱ぎ捨て、椅子に腰を下ろした。

「……今日も終わったな」

 呟いて、深く息を吐く。

 婚約が終わった。
 噂が広がっている。

 だが。

「だからって、
 明日やることが変わるわけじゃねぇ」

 そう言って、立ち上がる。

「さて」

「明日は、どこだ」

 書類に目を通し、
 次の現場を確認する。

 ガラリア・ウィンタースイートの一日は、
 ただ、それだけで回っている。

 社交界の評価も、
 王都の噂も、
 彼女の足を止める理由にはならない。

 ――いつも通り、現場へ。

 それが、彼女の日常だった。
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