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第28話 分からないまま、尊重する
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第28話 分からないまま、尊重する
王城の朝は、いつも通り整いすぎていた。
磨かれた床、寸分狂わぬ配置、決められた時間に鳴る鐘。
ディーン王太子は、執務机の前に立ち、窓の外を眺めていた。
王都の屋根が朝日に照らされ、規則正しく並んでいる。
(……分からない)
それは、ここ数日で、はっきり自覚した感情だった。
ガラリアのやっていること。
現場に出て、怒鳴って、笑って、聞いて、去る。
解決策を示すでもなく、命令を下すでもない。
それなのに、結果は出ている。
(どうしてだ)
考えれば考えるほど、答えは遠のく。
---
「殿下、本日の予定ですが――」
近侍が控えめに声をかける。
「午後、ウィンタースイート公爵領の視察が入っております。
……ガラリア様と、ご一緒に」
「……ああ」
ディーンは、頷いた。
最近は、それが自然になっている。
理由は分からない。
だが、彼女と並んで現場に立つ時間は、
王城でのどんな会議よりも、頭が澄む。
---
公爵領の外れ。
二人は、川沿いの工事現場に立っていた。
石を積み上げる作業員たち。
汗と土の匂い。
「止まるな」
ガラリアの声が響く。
「俺たちは見に来ただけだ。
普段通りやれ」
その一言で、空気が落ち着く。
ディーンは、少し離れた場所から、全体を眺めていた。
(……本当に、何もしない)
指示もしない。
質問もしない。
それなのに、
作業員たちは、いつもより動きがいいように見える。
「なあ」
ディーンは、思い切って声をかけた。
「今日は、何を見に来たんだ?」
「川」
「……川?」
「増水した時、どうなるか」
ガラリアは、それ以上説明しない。
ディーンは、しばらく黙って川を眺めた。
確かに、流れは早い。
だが、専門知識があるわけではない。
(……分からない)
口に出したい衝動を、飲み込む。
代わりに、彼は、ただ立ち続けた。
---
工事現場を離れ、馬車に乗り込む。
「……なあ」
ディーンが、再び切り出す。
「俺は、
本当に何も分かっていない」
ガラリアは、窓の外を見たまま、答えた。
「知ってる」
「……なら、なぜ、
同行を許す?」
一瞬、沈黙。
馬車の揺れが、会話の隙間を埋める。
「邪魔しねえからだ」
それだけだった。
「口出ししねえ。
分からねえことを、
分かった顔で決めねえ」
ガラリアは、ちらりとディーンを見る。
「それが、一番、助かる」
ディーンは、息を呑んだ。
王太子として、
何かを決めることが、役目だと思っていた。
だが、
“決めない”という選択も、
時には、必要なのかもしれない。
「……尊重、か」
思わず呟く。
「そうだ」
ガラリアは、豪快に笑った。
「理解できなくても、
尊重はできる」
「それは……」
簡単なようで、
恐ろしく難しい。
---
その夜。
王城に戻ったディーンは、
一人で報告書を眺めていた。
数字が並ぶ。
改善、進捗、評価。
(……尊重)
それは、
口で言うほど、軽い言葉じゃない。
分からないまま、
口出ししない勇気。
責任を持って、
任せる覚悟。
ディーンは、報告書を閉じた。
「……俺は、
まだ、何も分からない」
それでも。
分からないからこそ、
ガラリアの隣に立ち、
余計なことをしない。
それが、
今の自分にできる、唯一の“仕事”なのだと。
---
翌朝。
ガラリアは、いつものように孤児院を訪れていた。
「おらー!
元気か!」
子供たちが、笑いながら集まってくる。
そこに、
少し離れた場所から、
一人の男が、その様子を見ていた。
ディーンだった。
彼は、何も言わない。
何も、しない。
ただ、
ガラリアの背中を、
静かに見守っている。
(……分からないままでいい)
そう、初めて思えた。
理解できなくても、
隣に立ち、
尊重する。
それは、
王太子としてではなく、
一人の人間としての、
新しい立ち位置だった。
ガラリアの笑い声が、
青空に響く。
ディーンは、
その音を、
邪魔しない距離で、
受け止めていた。
王城の朝は、いつも通り整いすぎていた。
磨かれた床、寸分狂わぬ配置、決められた時間に鳴る鐘。
ディーン王太子は、執務机の前に立ち、窓の外を眺めていた。
王都の屋根が朝日に照らされ、規則正しく並んでいる。
(……分からない)
それは、ここ数日で、はっきり自覚した感情だった。
ガラリアのやっていること。
現場に出て、怒鳴って、笑って、聞いて、去る。
解決策を示すでもなく、命令を下すでもない。
それなのに、結果は出ている。
(どうしてだ)
考えれば考えるほど、答えは遠のく。
---
「殿下、本日の予定ですが――」
近侍が控えめに声をかける。
「午後、ウィンタースイート公爵領の視察が入っております。
……ガラリア様と、ご一緒に」
「……ああ」
ディーンは、頷いた。
最近は、それが自然になっている。
理由は分からない。
だが、彼女と並んで現場に立つ時間は、
王城でのどんな会議よりも、頭が澄む。
---
公爵領の外れ。
二人は、川沿いの工事現場に立っていた。
石を積み上げる作業員たち。
汗と土の匂い。
「止まるな」
ガラリアの声が響く。
「俺たちは見に来ただけだ。
普段通りやれ」
その一言で、空気が落ち着く。
ディーンは、少し離れた場所から、全体を眺めていた。
(……本当に、何もしない)
指示もしない。
質問もしない。
それなのに、
作業員たちは、いつもより動きがいいように見える。
「なあ」
ディーンは、思い切って声をかけた。
「今日は、何を見に来たんだ?」
「川」
「……川?」
「増水した時、どうなるか」
ガラリアは、それ以上説明しない。
ディーンは、しばらく黙って川を眺めた。
確かに、流れは早い。
だが、専門知識があるわけではない。
(……分からない)
口に出したい衝動を、飲み込む。
代わりに、彼は、ただ立ち続けた。
---
工事現場を離れ、馬車に乗り込む。
「……なあ」
ディーンが、再び切り出す。
「俺は、
本当に何も分かっていない」
ガラリアは、窓の外を見たまま、答えた。
「知ってる」
「……なら、なぜ、
同行を許す?」
一瞬、沈黙。
馬車の揺れが、会話の隙間を埋める。
「邪魔しねえからだ」
それだけだった。
「口出ししねえ。
分からねえことを、
分かった顔で決めねえ」
ガラリアは、ちらりとディーンを見る。
「それが、一番、助かる」
ディーンは、息を呑んだ。
王太子として、
何かを決めることが、役目だと思っていた。
だが、
“決めない”という選択も、
時には、必要なのかもしれない。
「……尊重、か」
思わず呟く。
「そうだ」
ガラリアは、豪快に笑った。
「理解できなくても、
尊重はできる」
「それは……」
簡単なようで、
恐ろしく難しい。
---
その夜。
王城に戻ったディーンは、
一人で報告書を眺めていた。
数字が並ぶ。
改善、進捗、評価。
(……尊重)
それは、
口で言うほど、軽い言葉じゃない。
分からないまま、
口出ししない勇気。
責任を持って、
任せる覚悟。
ディーンは、報告書を閉じた。
「……俺は、
まだ、何も分からない」
それでも。
分からないからこそ、
ガラリアの隣に立ち、
余計なことをしない。
それが、
今の自分にできる、唯一の“仕事”なのだと。
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翌朝。
ガラリアは、いつものように孤児院を訪れていた。
「おらー!
元気か!」
子供たちが、笑いながら集まってくる。
そこに、
少し離れた場所から、
一人の男が、その様子を見ていた。
ディーンだった。
彼は、何も言わない。
何も、しない。
ただ、
ガラリアの背中を、
静かに見守っている。
(……分からないままでいい)
そう、初めて思えた。
理解できなくても、
隣に立ち、
尊重する。
それは、
王太子としてではなく、
一人の人間としての、
新しい立ち位置だった。
ガラリアの笑い声が、
青空に響く。
ディーンは、
その音を、
邪魔しない距離で、
受け止めていた。
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