ガハハと笑う公爵令嬢は、王太子の自由を縛らない ~水戸黄門ムーブでざまぁします~

ふわふわ

文字の大きさ
31 / 40

第31話 舞踏会の幕が上がる

しおりを挟む
第31話 舞踏会の幕が上がる

 王城に、久しぶりに大規模な舞踏会が開かれることになった。

 主催は、ディーン王太子。
 名目は「諸侯との親睦と情報交換」。
 だが、誰もが知っている。

(……本当の意味は、別にある)

 ここ最近、王都で囁かれ続けている噂。
 ――王太子と、ウィンタースイート公爵令嬢ガラリア。
 現場に並んで現れ、奇妙な距離感を保ちながら、成果だけを積み上げてきた二人。

 その関係が、
 舞踏会という“社交の檻”に放り込まれた時、
 どうなるのか。

 貴族たちは、期待と好奇心、そして少しの悪意を胸に、王城へと集まり始めていた。


---

「……で?」

 ガラリアは、公爵邸の応接間で腕を組んだまま言った。

「舞踏会?」

「正式な招待状だ」

 父であるウィンタースイート公爵が、書状を差し出す。

「王太子主催。
 欠席は、できん」

「だろうな」

 ガラリアは、ため息もつかない。

「どうせ、俺が恥をかくのを見たい連中が、山ほど来る」

「理解しているのか?」

「ああ」

 にやりと笑う。

「連中は、“現場の女”が、
 社交界で転ぶ瞬間を、
 今か今かと待ってる」

 父は、じっと娘を見つめた。

「……心配は、していない」

「だろ?」

 ガラリアは、肩をすくめる。

「俺は、
 やるつもりがない場所で、
 やらないだけだ」

「舞踏会では?」

「やるしかねえ」

 あっさり言った。

「今回は、
 王太子の顔を潰すわけにもいかねえ」

 父は、小さく笑った。

「……それを聞いて、安心した」


---

 一方、王城。

 ディーン王太子は、広間の設営を眺めていた。

 燭台の配置、音楽隊の位置、動線。
 すべてが、入念に整えられていく。

「殿下」

 近侍が、控えめに声をかける。

「本当に……よろしいのですか?」

「何がだ」

「この舞踏会。
 注目が、あまりにも集まりすぎています」

 ディーンは、少し考え、答えた。

「だから、開く」

「……」

「噂は、放っておいても膨らむ。
 なら、
 こちらで場を用意した方がいい」

 近侍は、それ以上何も言わなかった。

 王太子は、分かっている。

 この舞踏会は、
 “試される場”になる。

 ガラリアが。
 そして、自分自身も。

(……分からない)

 彼女が、社交界でどう振る舞うのか。
 どんな評価を受けるのか。

 だが――

(分からないまま、尊重する)

 それが、今の自分の立ち位置だ。


---

 舞踏会当日。

 王城は、光に包まれていた。

 宝石のようなドレス。
 磨き上げられた靴。
 囁き合う声。

「来るわね」 「ええ、例の公爵令嬢が」

 視線は、入口へと集まる。

 そして――
 静まり返る広間。

 現れたのは、
 落ち着いた色合いのドレスに身を包んだ、一人の令嬢だった。

 派手さはない。
 だが、無駄がない。

 背筋は伸び、
 歩幅は正確。
 視線は、必要以上に動かない。

(……誰?)

 一瞬、そう思わせるほど、
 そこにいたのは、“社交界の令嬢”そのものだった。

「……まさか」

「ガラリア、様……?」

 ざわめきが、遅れて広がる。

 ディーン王太子は、少し離れた位置から、その姿を見ていた。

(……完璧だ)

 だが、驚きはない。

 彼女は、
 “やる気になれば、やれる”女だ。

 ただ、
 やる気を出す場所が、
 極端に限られているだけで。

 ガラリアは、王太子の前で立ち止まる。

「……お待たせしました」

 完璧な所作。
 完璧な声の抑揚。

 ディーンは、一礼した。

「お越しいただき、感謝します」

 そのやり取りを、
 周囲は、固唾を呑んで見守る。

(……恥をかく?)

(……どこが?)

 期待していた“失態”は、
 影も形もない。


---

 音楽が、流れ始める。

 舞踏会の幕が、静かに上がった。

 この夜、
 崩れるのは、
 ガラリアではない。

 ――誤解と、嘲笑と、
 勝手に作られた“像”の方だ。

 そのことに、
 まだ、誰も気づいていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

『選ばれなかった孤児は、同じ時間を生きることを選んだ』

鷹 綾
恋愛
孤児院で育ったウェイフは、いじめられながらも山で芋を掘り、川で魚を捕り、自分の力で生き延びてきた少女。 前世の記憶を取り戻したことで、ただ耐えるだけの孤児ではなくなった彼女は、孤児院の中で静かに居場所を築いていく。 そんなある日、孤児院に寄付をしている男爵家から「養女として引き取る」という話が舞い込む。 だがそれは、三百年以上生きる“化け物公爵”の婚約者として差し出すための、身代わりだった。 厳しい令嬢教育、冷遇される日々、嘲笑する男爵の娘。 それでもウェイフは、逃げずに学び続ける。 やがて公爵邸で出会ったのは、噂とは違う、静かで誠実な青年――そして、年を取らない呪いを背負った公爵本人だった。 孤児であること。 魔法を使えること。 呪いを解く力を持ちながら、あえて使わない選択。 「選ばれる側」だった少女は、自分の人生を自分で選ぶようになる。 これは、派手な復讐ではなく、 声高な正義でもなく、 静かに“立場が逆転していく”ざまぁと、対等な愛を描いた物語。 選ばれなかった孤児が、 同じ時間を生きることを選ぶまでの、 静かで強い恋愛ファンタジー。

婚約破棄されたので、王太子はもう何も決めません

鷹 綾
恋愛
王太子コンラートは、婚約者であった令嬢エマとの婚約を破棄する。 それは恋愛感情によるものではなく、「正しい判断」だと信じての決断だった。 ――だが、その日を境に、彼は“何も決めない王太子”になる。 国の危機。 地方経済の停滞。 民の不満と不安。 これまでなら、王宮が答えを出し、命令し、守ってきた。 しかしコンラートは、あえて決めない。 支えない。 導かない。 「自分で考え、自分で選べ」 そう突き放された現場は、混乱し、迷い、時に怒り、時に失敗する。 だが――それでも、誰かが声を上げ、責任を引き受け、次へと渡していく。 一方、婚約破棄されたエマは、王宮の外から静かに変化を見つめていた。 奪われた立場。 失われた未来。 それでも彼女は、“決められなかった国”が少しずつ自立していく姿を、確かに見届けていく。 これは、派手なざまぁでも、劇的な復讐でもない。 答えを持たないことを選んだ王太子と、 「誰かのせい」にしないことを覚えた人々の物語。 ――王が何も決めなくなったとき、 国は、本当に壊れるのか? 静かで、苦くて、それでも確かな“逆転”の物語。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

病弱令嬢…?いいえ私は…

月樹《つき》
恋愛
 アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。 (ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!) 謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。 このお話は他サイトにも投稿しております。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

処理中です...