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第31話 舞踏会の幕が上がる
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第31話 舞踏会の幕が上がる
王城に、久しぶりに大規模な舞踏会が開かれることになった。
主催は、ディーン王太子。
名目は「諸侯との親睦と情報交換」。
だが、誰もが知っている。
(……本当の意味は、別にある)
ここ最近、王都で囁かれ続けている噂。
――王太子と、ウィンタースイート公爵令嬢ガラリア。
現場に並んで現れ、奇妙な距離感を保ちながら、成果だけを積み上げてきた二人。
その関係が、
舞踏会という“社交の檻”に放り込まれた時、
どうなるのか。
貴族たちは、期待と好奇心、そして少しの悪意を胸に、王城へと集まり始めていた。
---
「……で?」
ガラリアは、公爵邸の応接間で腕を組んだまま言った。
「舞踏会?」
「正式な招待状だ」
父であるウィンタースイート公爵が、書状を差し出す。
「王太子主催。
欠席は、できん」
「だろうな」
ガラリアは、ため息もつかない。
「どうせ、俺が恥をかくのを見たい連中が、山ほど来る」
「理解しているのか?」
「ああ」
にやりと笑う。
「連中は、“現場の女”が、
社交界で転ぶ瞬間を、
今か今かと待ってる」
父は、じっと娘を見つめた。
「……心配は、していない」
「だろ?」
ガラリアは、肩をすくめる。
「俺は、
やるつもりがない場所で、
やらないだけだ」
「舞踏会では?」
「やるしかねえ」
あっさり言った。
「今回は、
王太子の顔を潰すわけにもいかねえ」
父は、小さく笑った。
「……それを聞いて、安心した」
---
一方、王城。
ディーン王太子は、広間の設営を眺めていた。
燭台の配置、音楽隊の位置、動線。
すべてが、入念に整えられていく。
「殿下」
近侍が、控えめに声をかける。
「本当に……よろしいのですか?」
「何がだ」
「この舞踏会。
注目が、あまりにも集まりすぎています」
ディーンは、少し考え、答えた。
「だから、開く」
「……」
「噂は、放っておいても膨らむ。
なら、
こちらで場を用意した方がいい」
近侍は、それ以上何も言わなかった。
王太子は、分かっている。
この舞踏会は、
“試される場”になる。
ガラリアが。
そして、自分自身も。
(……分からない)
彼女が、社交界でどう振る舞うのか。
どんな評価を受けるのか。
だが――
(分からないまま、尊重する)
それが、今の自分の立ち位置だ。
---
舞踏会当日。
王城は、光に包まれていた。
宝石のようなドレス。
磨き上げられた靴。
囁き合う声。
「来るわね」 「ええ、例の公爵令嬢が」
視線は、入口へと集まる。
そして――
静まり返る広間。
現れたのは、
落ち着いた色合いのドレスに身を包んだ、一人の令嬢だった。
派手さはない。
だが、無駄がない。
背筋は伸び、
歩幅は正確。
視線は、必要以上に動かない。
(……誰?)
一瞬、そう思わせるほど、
そこにいたのは、“社交界の令嬢”そのものだった。
「……まさか」
「ガラリア、様……?」
ざわめきが、遅れて広がる。
ディーン王太子は、少し離れた位置から、その姿を見ていた。
(……完璧だ)
だが、驚きはない。
彼女は、
“やる気になれば、やれる”女だ。
ただ、
やる気を出す場所が、
極端に限られているだけで。
ガラリアは、王太子の前で立ち止まる。
「……お待たせしました」
完璧な所作。
完璧な声の抑揚。
ディーンは、一礼した。
「お越しいただき、感謝します」
そのやり取りを、
周囲は、固唾を呑んで見守る。
(……恥をかく?)
(……どこが?)
期待していた“失態”は、
影も形もない。
---
音楽が、流れ始める。
舞踏会の幕が、静かに上がった。
この夜、
崩れるのは、
ガラリアではない。
――誤解と、嘲笑と、
勝手に作られた“像”の方だ。
そのことに、
まだ、誰も気づいていなかった。
王城に、久しぶりに大規模な舞踏会が開かれることになった。
主催は、ディーン王太子。
名目は「諸侯との親睦と情報交換」。
だが、誰もが知っている。
(……本当の意味は、別にある)
ここ最近、王都で囁かれ続けている噂。
――王太子と、ウィンタースイート公爵令嬢ガラリア。
現場に並んで現れ、奇妙な距離感を保ちながら、成果だけを積み上げてきた二人。
その関係が、
舞踏会という“社交の檻”に放り込まれた時、
どうなるのか。
貴族たちは、期待と好奇心、そして少しの悪意を胸に、王城へと集まり始めていた。
---
「……で?」
ガラリアは、公爵邸の応接間で腕を組んだまま言った。
「舞踏会?」
「正式な招待状だ」
父であるウィンタースイート公爵が、書状を差し出す。
「王太子主催。
欠席は、できん」
「だろうな」
ガラリアは、ため息もつかない。
「どうせ、俺が恥をかくのを見たい連中が、山ほど来る」
「理解しているのか?」
「ああ」
にやりと笑う。
「連中は、“現場の女”が、
社交界で転ぶ瞬間を、
今か今かと待ってる」
父は、じっと娘を見つめた。
「……心配は、していない」
「だろ?」
ガラリアは、肩をすくめる。
「俺は、
やるつもりがない場所で、
やらないだけだ」
「舞踏会では?」
「やるしかねえ」
あっさり言った。
「今回は、
王太子の顔を潰すわけにもいかねえ」
父は、小さく笑った。
「……それを聞いて、安心した」
---
一方、王城。
ディーン王太子は、広間の設営を眺めていた。
燭台の配置、音楽隊の位置、動線。
すべてが、入念に整えられていく。
「殿下」
近侍が、控えめに声をかける。
「本当に……よろしいのですか?」
「何がだ」
「この舞踏会。
注目が、あまりにも集まりすぎています」
ディーンは、少し考え、答えた。
「だから、開く」
「……」
「噂は、放っておいても膨らむ。
なら、
こちらで場を用意した方がいい」
近侍は、それ以上何も言わなかった。
王太子は、分かっている。
この舞踏会は、
“試される場”になる。
ガラリアが。
そして、自分自身も。
(……分からない)
彼女が、社交界でどう振る舞うのか。
どんな評価を受けるのか。
だが――
(分からないまま、尊重する)
それが、今の自分の立ち位置だ。
---
舞踏会当日。
王城は、光に包まれていた。
宝石のようなドレス。
磨き上げられた靴。
囁き合う声。
「来るわね」 「ええ、例の公爵令嬢が」
視線は、入口へと集まる。
そして――
静まり返る広間。
現れたのは、
落ち着いた色合いのドレスに身を包んだ、一人の令嬢だった。
派手さはない。
だが、無駄がない。
背筋は伸び、
歩幅は正確。
視線は、必要以上に動かない。
(……誰?)
一瞬、そう思わせるほど、
そこにいたのは、“社交界の令嬢”そのものだった。
「……まさか」
「ガラリア、様……?」
ざわめきが、遅れて広がる。
ディーン王太子は、少し離れた位置から、その姿を見ていた。
(……完璧だ)
だが、驚きはない。
彼女は、
“やる気になれば、やれる”女だ。
ただ、
やる気を出す場所が、
極端に限られているだけで。
ガラリアは、王太子の前で立ち止まる。
「……お待たせしました」
完璧な所作。
完璧な声の抑揚。
ディーンは、一礼した。
「お越しいただき、感謝します」
そのやり取りを、
周囲は、固唾を呑んで見守る。
(……恥をかく?)
(……どこが?)
期待していた“失態”は、
影も形もない。
---
音楽が、流れ始める。
舞踏会の幕が、静かに上がった。
この夜、
崩れるのは、
ガラリアではない。
――誤解と、嘲笑と、
勝手に作られた“像”の方だ。
そのことに、
まだ、誰も気づいていなかった。
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