ガハハと笑う公爵令嬢は、王太子の自由を縛らない ~水戸黄門ムーブでざまぁします~

ふわふわ

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第34話 やればできる女ですので

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第34話 やればできる女ですので

 舞踏会の熱が、少しずつ落ち着き始めた頃。
 それでも、広間の空気は、まだ張りつめたままだった。

 拍手は収まり、音楽は流れ続けている。
 だが、視線は――
 依然として、一点に集まっている。

 ウィンタースイート公爵令嬢、ガラリア。

 “完璧だった”という評価は、もはや疑いようがなかった。
 問題は、その次だ。

(……なぜ、完璧なのか)

 貴族たちは、戸惑っていた。

 努力して身につけた所作なのか。
 隠していただけの才能なのか。
 それとも――
 今日だけの、見せかけなのか。

 その答えを、誰も聞けずにいた。


---

「公爵令嬢様」

 声をかけたのは、王宮内でも特に保守的と知られる伯爵だった。

 その一言で、周囲が静まる。
 皆が、“次”を待っている。

「本日のご振る舞い、
 誠に見事でございました」

「恐れ入ります」

 ガラリアは、軽く一礼する。

 角度も、間も、完璧だ。

「ただ……」

 伯爵は、わずかに間を置いた。

「噂との落差に、
 少々、困惑しております」

 遠回しな言い方だが、
 要するに、こうだ。

 ――どちらが、本当のあなたなのか?

 ガラリアは、伯爵を見返した。
 笑みは浮かべない。

「どちらも、本当です」

 即答だった。

 周囲が、ざわめく。

「現場で怒鳴るのも、私。
 ここで礼を尽くすのも、私」

 伯爵は、眉をひそめる。

「……矛盾しているとは、お思いになりませんか?」

 その問いは、
 挑発に近かった。

 だが、ガラリアは、少しも動じない。

「いいえ」

 きっぱりと答える。

「場所が違えば、
 求められる振る舞いが違うだけです」

 そして、
 ほんの少しだけ、肩をすくめた。

「私は、
 “できない”とは、言っていませんので」


---

 一瞬、広間が凍りつく。

 その言葉は、
 自慢でも、
 開き直りでもなかった。

 ただの、事実の提示。

「……つまり」

 伯爵が、言葉を探す。

「普段、そうなさらないのは……」

「やる必要が、ないからです」

 ガラリアは、穏やかに続けた。

「現場で、
 回りくどい言葉は、邪魔になります」

「……」

「社交界で、
 怒鳴る必要も、ありません」

 その理屈は、
 あまりにも、筋が通っていた。

 誰も、反論できない。


---

 ディーン王太子は、
 少し離れた場所から、そのやり取りを見ていた。

(……見事だ)

 弁明していない。
 正当化もしていない。

 ただ、
 「使い分けている」と言っているだけ。

 それは、
 “二面性”ではなく、
 “適応力”だった。


---

「では……」

 別の貴族が、恐る恐る口を開く。

「本来のご性格は、
 どちらなのでしょうか?」

 広間が、再び静まり返る。

 ガラリアは、少し考える素振りを見せた後、答えた。

「どちらでもありません」

「……?」

「私は、
 状況に合わせて、
 一番、無駄のない自分を使っているだけです」

 その言葉に、
 理解と困惑が、同時に広がる。

「ただ……」

 ガラリアは、視線を巡らせた。

「勘違いしないでいただきたい」

 声は、静かだが、はっきりしている。

「私は、
 社交界で評価されるために、
 現場に立っているわけではありません」

 空気が、変わる。

「今日、ここでこうしているのも」

 一拍、置いて。

「王太子殿下の顔を、
 潰さないためです」

 その名を出した瞬間、
 全員の視線が、ディーンに向いた。


---

 ディーン王太子は、一歩前に出た。

「……それで、十分です」

 静かな声。

「彼女は、
 自分の役割を、
 正確に理解しています」

 ガラリアを、ちらりと見る。

「そして、
 必要な時に、
 必要なことができる」

 それは、
 最大限の評価だった。


---

 ガラリアは、
 ふっと、小さく笑った。

 そして、
 いつもの調子で、
 しかし、音量を抑えて言う。

「ま、そういうことです」

 少しだけ、砕けた口調。

「やれば、できる女ですので」

 その一言で、
 張りつめていた空気が、
 ようやく、ほどけた。

 笑いが、起こる。
 だが、それは嘲笑ではない。

 納得と、敗北と、
 新しい評価が混じった、
 奇妙な笑いだった。


---

 アルバートは、
 その様子を、
 遠くから見ていた。

(……やれば、できる?)

 胸の奥に、
 鈍い痛みが走る。

 自分は、
 彼女が“やらない”理由を、
 知ろうともしなかった。

 ただ、
 「できない女」だと、
 決めつけただけだ。


---

 舞踏会は、続く。

 だが、この瞬間で、
 勝負は、ほぼ決していた。

 ガラリアは、
 何も奪っていない。
 何も誇っていない。

 ただ、
 “できる”という事実を、
 必要な分だけ、
 示したにすぎない。

 それが、
 社交界にとって、
 これ以上ないほどの、
 逆転劇だった。
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