『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ

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【第19話 崩れ始める王太子】

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【第19話 崩れ始める王太子】

王都への帰りの船。

甲板には重い空気が流れていた。

カルディオン王太子は海を睨むように立っている。

何も言わない。

誰も話しかけられない。

騎士たちも沈黙していた。

その後ろでエルネスタがゆっくり近づく。

「殿下」

カルディオンは振り返らない。

「……」

「お気を落とさないでください」

カルディオンは低い声で言う。

「落ちていない」

だがその声には怒りが滲んでいた。

「ただ」

彼は拳を握る。

「あの女は何を考えている」

エルネスタは静かに言った。

「誇り高い方なのでしょう」

カルディオンは吐き捨てる。

「誇りだと?」

「王太子妃を断る誇りか」

エルネスタは微笑んだ。

「そういう女性もいます」

カルディオンは黙った。

しばらくして彼は言う。

「……戻ってくると思った」

エルネスタの目が一瞬だけ細くなる。

「殿下?」

カルディオンは海を見る。

「アリアベルは合理的な女だ」

「だから」

「王太子妃を選ぶと思った」

エルネスタは優しく答える。

「殿下」

「女性は必ずしも合理的ではありません」

カルディオンは小さく舌打ちした。

「くだらん」

だが。

彼の心の中では、別の感情が渦巻いていた。

――後悔。

その頃。

北方港。

私は埠頭の事務所で書類を確認していた。

アルフレッドが言う。

「殿下は出航されました」

「そう」

私は淡々と答える。

「思ったより早かったですね」

アルフレッドは少し考えた。

「未練はないのですか」

私はペンを止める。

そして笑った。

「未練?」

「はい」

私は首を横に振る。

「ありません」

そして窓の外を見る。

港には新しい船が入ってきていた。

南方の交易船だ。

荷物は香料と絹。

「ほら」

私は言った。

「忙しいですもの」

アルフレッドは小さく笑った。

「確かに」

その時。

アシュレイが部屋に入ってくる。

「王都の報告だ」

私は顔を上げた。

「早いですね」

「船より早い鳥便だ」

私は報告書を受け取る。

そこには短く書かれていた。

――貴族会議。

――王太子の責任問題。

私は少し眉を上げる。

「もう始まったの?」

アシュレイは頷く。

「王都の港の税収が落ちている」

「貴族たちは不満だ」

私は軽く肩をすくめる。

「当然ですね」

「経済は結果です」

アシュレイは言う。

「王太子は孤立している」

私は少し考える。

そして。

小さく呟いた。

「……終わりが近いですね」

アシュレイは私を見る。

「止めるか?」

私は首を横に振る。

「いいえ」

そして紅茶を飲む。

「私は何もしていません」

「ただ」

窓の外の港を指す。

「仕事をしただけです」

その頃。

王都の王宮。

カルディオンは会議室で怒鳴っていた。

「責任だと!」

「何の責任だ!」

貴族たちは冷静だった。

老侯爵が言う。

「北方港の件です」

「経済政策の失敗」

「王国の税収減」

カルディオンは叫ぶ。

「すべてあの女のせいだ!」

だが。

貴族たちは静かだった。

誰も賛同しない。

老侯爵は言う。

「殿下」

「その女性は」

「もう王家の人間ではありません」

カルディオンは言葉を失った。

そして。

王宮の廊下では、貴族たちが小声で囁いていた。

「王太子はもう駄目だ」

「次の王は誰になる」

「弟殿下だろう」

王国の権力は、静かに動き始めていた。

そして――

カルディオンはまだ気づいていない。

自分が王太子の座から落ち始めていることに。
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