『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ

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【第26話 北方へ向かう船】

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【第26話 北方へ向かう船】

北方の海。

空は青く、風は穏やかだった。

一隻の小さな船が静かに進んでいる。

豪華な王家の船ではない。

商人の船に紛れた、小さな船だ。

その船の甲板に立つ男。

元王太子カルディオン。

彼は北の海を睨んでいた。

「……もうすぐか」

側近が後ろで青ざめている。

「殿下」

「本当に行かれるのですか」

カルディオンは振り返らない。

「当然だ」

「ですが」

側近は震える声で言う。

「北方はクレスト公爵領です」

「警備もあります」

カルディオンは鼻で笑った。

「港は商人の町だ」

「人の出入りも多い」

「潜り込むことはできる」

側近は必死だった。

「ですが」

「もし捕まれば」

カルディオンはゆっくり振り向いた。

その目は冷たい。

「誰が捕まえる」

「俺は王族だ」

側近は言葉を失う。

カルディオンは海を見る。

「アリアベル」

その名前を呟く。

「お前は俺の婚約者だった」

「王太子妃になるはずだった」

「それなのに」

拳が震える。

「あの女」

その頃。

北方港。

朝の港は今日も賑やかだった。

船が並び、荷物が運ばれている。

私は埠頭を歩いていた。

アルフレッドが横で報告する。

「新しい倉庫の工事が進んでおります」

「いいですね」

「交易量が増えていますので」

私は頷く。

港は確実に成長していた。

商人の町も広がっている。

市場には人があふれている。

その時。

アシュレイが近づいてきた。

「忙しそうだ」

「港ですから」

私は笑う。

「王都はどうです?」

アシュレイは肩をすくめた。

「まだ混乱している」

「カルディオンは?」

「屋敷に引きこもっているらしい」

私は少し考えた。

「そうですか」

アシュレイは私を見る。

「安心したか」

私は首を振った。

「いいえ」

「どうして?」

私は海を見る。

「追い詰められた人は」

「何をするかわかりません」

アシュレイは頷いた。

「同感だ」

その時。

港の見張りが叫んだ。

「船だ!」

皆が海を見る。

水平線に小さな船影。

商船のように見える。

私は特に気にしなかった。

北方港には毎日船が来る。

だが――

その船の甲板では。

カルディオンが北方港を見つめていた。

遠くに見える灯台。

港の街。

そして。

「アリアベル」

彼は低く呟く。

「迎えに来たぞ」

歪んだ執念を乗せた船は、静かに北方へ近づいていた。
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