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第二十話 白い手袋
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第二十話 白い手袋
王宮晩餐会の翌日。
公爵邸には山のような贈り物が届いた。
花束、菓子、宝飾品。
そして――縁談の打診。
「増えましたね」
ルークが静かに言う。
「ええ」
エレノアは淡々と封書をめくる。
侯爵家。
伯爵家。
有力公爵家。
どれも格式十分。
“本物の公爵令嬢”としての価値は、事件で証明された。
皮肉なことに。
「王太子殿下からも正式な謝意の品が」
白い箱が差し出される。
中には、純白の手袋。
王家の紋章入り。
象徴的だ。
“過去を清める”
そんな意味合いだろう。
エレノアはそれを一瞥する。
「受領記録を残して保管してください」
着けはしない。
示威でも拒絶でもない。
ただ、距離。
庭では使用人たちが楽しげに働いている。
屋敷は穏やかだ。
叔父一家がいた頃の、張りつめた空気はない。
あのとき。
偽りの笑顔。
偽りの称号。
すべてが消えた。
同じ頃、北部鉱山。
グレゴールの手は包帯だらけだった。
だが作業は止まらない。
「囚人番号七二一、遅い」
鎚が振り下ろされる。
肩が震える。
「私は……」
言いかけて、飲み込む。
もう名乗る資格はない。
夫人は石の山の前で息を切らしている。
かつての白い手袋はない。
ひび割れた指。
血の滲む掌。
彼女はもう、「触らないで」とは言わない。
言葉は意味を失った。
王都。
公爵邸の応接間。
若き侯爵が訪ねてきていた。
「この度の毅然たるご対応、感服いたしました」
「ありがとうございます」
柔らかな応対。
だが媚びない。
侯爵は一歩踏み込む。
「公爵家の未来を、共に築ければと」
遠回しな求婚。
エレノアは微笑む。
「未来は、慎重に選びたいと思います」
即答しない。
急がない。
家は守られた。
今は、選ぶ側。
侯爵は深く礼をして去る。
ルークが小声で言う。
「焦られませんね」
「焦る必要がありません」
静かに返す。
その言葉に揺らぎはない。
夕暮れ。
エレノアは執務室で白い手袋の箱を見つめる。
象徴。
王家の意思。
だが、彼女は理解している。
王家は味方であり、同時に権力だ。
距離を誤れば、また奪われる。
箱を閉じる。
「公爵家は、公爵家の足で立ちます」
独り言のように。
窓の外、空が赤く染まる。
遠い北では、雪解け水が流れている。
鉱山では労役が続く。
娘は異国で、名を失っている。
王都では、新たな舞踏会の準備が進む。
世界は動き続ける。
エレノアはペンを取る。
領地改革の書類に署名する。
白い手袋ではなく、自分の手で。
それが本物。
強ザマァは終わった。
だが、彼女の物語はこれからだ。
守るだけでなく、築く。
公爵として。
揺るがない未来へ。
王宮晩餐会の翌日。
公爵邸には山のような贈り物が届いた。
花束、菓子、宝飾品。
そして――縁談の打診。
「増えましたね」
ルークが静かに言う。
「ええ」
エレノアは淡々と封書をめくる。
侯爵家。
伯爵家。
有力公爵家。
どれも格式十分。
“本物の公爵令嬢”としての価値は、事件で証明された。
皮肉なことに。
「王太子殿下からも正式な謝意の品が」
白い箱が差し出される。
中には、純白の手袋。
王家の紋章入り。
象徴的だ。
“過去を清める”
そんな意味合いだろう。
エレノアはそれを一瞥する。
「受領記録を残して保管してください」
着けはしない。
示威でも拒絶でもない。
ただ、距離。
庭では使用人たちが楽しげに働いている。
屋敷は穏やかだ。
叔父一家がいた頃の、張りつめた空気はない。
あのとき。
偽りの笑顔。
偽りの称号。
すべてが消えた。
同じ頃、北部鉱山。
グレゴールの手は包帯だらけだった。
だが作業は止まらない。
「囚人番号七二一、遅い」
鎚が振り下ろされる。
肩が震える。
「私は……」
言いかけて、飲み込む。
もう名乗る資格はない。
夫人は石の山の前で息を切らしている。
かつての白い手袋はない。
ひび割れた指。
血の滲む掌。
彼女はもう、「触らないで」とは言わない。
言葉は意味を失った。
王都。
公爵邸の応接間。
若き侯爵が訪ねてきていた。
「この度の毅然たるご対応、感服いたしました」
「ありがとうございます」
柔らかな応対。
だが媚びない。
侯爵は一歩踏み込む。
「公爵家の未来を、共に築ければと」
遠回しな求婚。
エレノアは微笑む。
「未来は、慎重に選びたいと思います」
即答しない。
急がない。
家は守られた。
今は、選ぶ側。
侯爵は深く礼をして去る。
ルークが小声で言う。
「焦られませんね」
「焦る必要がありません」
静かに返す。
その言葉に揺らぎはない。
夕暮れ。
エレノアは執務室で白い手袋の箱を見つめる。
象徴。
王家の意思。
だが、彼女は理解している。
王家は味方であり、同時に権力だ。
距離を誤れば、また奪われる。
箱を閉じる。
「公爵家は、公爵家の足で立ちます」
独り言のように。
窓の外、空が赤く染まる。
遠い北では、雪解け水が流れている。
鉱山では労役が続く。
娘は異国で、名を失っている。
王都では、新たな舞踏会の準備が進む。
世界は動き続ける。
エレノアはペンを取る。
領地改革の書類に署名する。
白い手袋ではなく、自分の手で。
それが本物。
強ザマァは終わった。
だが、彼女の物語はこれからだ。
守るだけでなく、築く。
公爵として。
揺るがない未来へ。
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