『公爵家を乗っ取った男爵一家は、家系図から消えました』 ―偽令嬢は王太子妃を夢見て国外追放、私は公爵として責務を果たします―

ふわふわ

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第三十二話 公爵の未来

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第三十二話 公爵の未来

王都に、祝鐘が鳴り響いた。

王太子と公爵エレノアの正式な婚礼。

王宮は華やかに装飾され、貴族も商人も平民も、その日を祝っている。

だが――

花嫁の表情は、浮かれてはいなかった。

静かで、強い。

王宮の回廊を歩くエレノアの背は、まっすぐ伸びている。

ヴェールの下の瞳は、迷いがない。

王太子がそっと声をかける。

「緊張しているか」

「いいえ」

穏やかな微笑み。

「責務を果たすだけです」

王家の大広間。

神官が誓いを問いかける。

王太子が誓う。

そして、エレノア。

「王家と国を守ることを誓います」

一瞬、言葉を区切る。

「公爵として」

ざわめきが走る。

だが王太子は微笑んでいる。

それでいい。

それが彼女だ。

誓いは成立する。

歓声が広がる。

だがその歓声は、夢物語への祝福ではない。

秩序と均衡への祝福。

式の後、バルコニーに二人が立つ。

王都を見下ろす高み。

かつて偽物が夢見た場所。

今は、本物が立っている。

王太子が言う。

「これであなたは王妃だ」

エレノアは首を振る。

「王妃になります」

訂正。

まだ“なる”。

今は、公爵。

その順番は変わらない。

遠く、北部鉱山の煙が空に細く上る。

異国の海は静かに波を打つ。

名を失った者たちは、完全に歴史から消えた。

救済はない。

物語はそこに情を残さない。

エレノアはゆっくりと息を吸う。

薔薇が風に揺れている。

「公爵は、情より責務です」

小さく呟く。

だが今は、それだけではない。

王太子が手を差し出す。

「共に行こう」

エレノアはその手を取る。

握るが、寄りかからない。

並ぶ。

王家と公爵家。

対等。

強ザマァは完全に終わった。

欺瞞は消え、偽物は消え、秩序は戻った。

そして残ったのは――

誇り。

責務。

未来。

エレノアは王都を見渡す。

「守ります」

それは宣言ではない。

決意。

彼女はもう、奪われる側ではない。

守る側。

公爵として。

そして、未来の王妃として。

薔薇の花びらが舞う。

新しい時代が始まる。

偽物のいない、まっすぐな未来が。
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