『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

文字の大きさ
21 / 41

第21話 焦りは、理屈の仮面を被る

しおりを挟む
第21話 焦りは、理屈の仮面を被る

孤児院への圧力が始まってから、
王都では奇妙な沈黙が続いていた。

声高な非難は減った。
だが、それは沈静化ではない。

調整が始まっただけだ。


---

貴族会の一角。
閉ざされた小会議室に、数名の貴族が集められていた。

共通点は一つ。

――孤児院を危険視してきた者たち。

「……包囲が、効いていない」

誰かが、苛立ちを隠さず口にする。

「仕事が止まった程度で、
彼女は一歩も動かない」

「孤児院内部も、
混乱していない」

「むしろ……」

言葉が途切れる。

「“正しい”ように見え始めている」

その言葉が、
最も場の空気を悪くした。


---

「感情論では勝てない」

年配の貴族が、低い声で言う。

「ならば、
理屈で縛る」

「理屈?」

「“子供の安全”だ」

誰も、否定しなかった。

それは、
最も使いやすい大義だった。


---

「彼女は、
孤児を“人材”として扱っている」

「それは事実だ」

「ならば、
そこを突く」

「教育と労働の境界を、
曖昧にしていると」

言葉は、
慎重に選ばれている。

だが、
狙いは明確だった。


---

「……証拠は?」

若い貴族が問う。

一瞬の沈黙。

「“可能性”でいい」

誰かが答えた。

「調査中、
という形で止める」

「止めてしまえば」

「現場が回らず、
評価は落ちる」

「彼女も、
折れるだろう」

その読みは、
致命的に甘かった。


---

同じ頃、
孤児院では、
静かな変化が起きていた。

「……戻ってきた子たちが、
増えています」

執事の報告に、
ノエリアは頷く。

「居場所が、
なくなったのですね」

「はい」

「受け入れます」

理由は、
それだけだった。


---

戻ってきた若者たちは、
不満を口にしない。

むしろ、
落ち着いていた。

「……外は、
判断が遅い」

「決める人が、
いない」

「責任を、
誰も持たない」

それが、
彼らの感想だった。


---

ノエリアは、
彼らに何も指示しない。

「ここでは、
今まで通りでいい」

それだけ。

だが、
その“今まで通り”が、
外では成立しなくなっていた。


---

王城では、
補佐官たちが頭を抱えていた。

「……孤児院出身者の件、
各所で影響が出ています」

「直接、
制限はしていないはずだ」

「ですが、
“調査中”という噂が広がり」

「判断が、
止まっています」

王太子クラウスは、
黙って聞いていた。

彼は、
理解し始めていた。

(止められない)

問題は、
孤児院ではない。

人が育ってしまったことだ。


---

一方、
敵対派は焦っていた。

「王家が、
動かない」

「世論も、
割れてきた」

「ならば――」

声が低くなる。

「こちらから、
“決定”を作る」

それが、
第22話へと繋がる
致命的な判断だった。


---

その夜、
ノエリアは、
書類を整理していた。

机の上には、
過去の帳簿。

育てた人材の履歴。

誰が、
どこで、
何をしているか。

すべて、
把握している。

「……来るわね」

独り言のように呟く。

執事が、
静かに問う。

「何が、
でしょうか」

「理屈を、
武器にした人たちです」


---

「怖くは?」

「いいえ」

即答だった。

「理屈は、
崩せます」

「でも」

一拍。

「感情は、
放っておくと
暴走します」

それを、
彼女は知っていた。


---

中庭で、
猫が月を見ている。

子猫たちは、
眠っている。

「……ここは、
守る場所じゃない」

ノエリアは、
静かに言う。

「育てたら、
外に出す」

「だから、
壊されない」

建物を止められても、
意味はない。

人は、
もう散っている。


---

翌朝、
一通の“非公式な噂”が、
王都を巡り始めた。

> 「孤児院に、
深刻な問題があるらしい」



その言葉が、
どこから出たかは、
誰も言わない。

だが、
ノエリアは確信した。

(……選んだわね)

敵対派は、
もう引き返せない。

そしてその選択が、
彼ら自身を壊すことになる。

静かに。
確実に。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

処理中です...