『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

文字の大きさ
29 / 41

第29話 理解できないものとは、組めない

しおりを挟む
第29話 理解できないものとは、組めない

二人目の面会は、
最初から違和感を伴っていた。

時間は、指定より十分早い。
場所は、同じ応接室。

だが、
空気が違う。

「……随分、
早いですね」

ノエリアがそう言うと、
男は自信ありげに笑った。

「機会は、
早く掴むべきだと思いまして」

――セドリック・フォルカー侯爵。

年齢は三十代半ば。
家格は十分。
人脈も広い。

書類上は、
申し分のない相手だ。


---

着席するや否や、
セドリックは語り始めた。

「あなたの活躍は、
以前から注目していました」

「孤児院の件――」

「見事な手腕です」

ノエリアは、
静かに紅茶に手を伸ばす。

(……評価から入るのね)


---

「正直に言いましょう」

セドリックは、
少し身を乗り出す。

「あなたは、
非常に“使える”」

その言葉が、
空気を変えた。

「孤児院出身者の人材」

「制度設計の経験」

「貴族社会への影響力」

「これらを、
我が家と組み合わせれば」

ノエリアは、
紅茶を置いた。


---

「“使える”と
おっしゃいましたね」

「ええ」

セドリックは、
悪びれず頷く。

「賛辞です」

「能力は、
活用されるべきでしょう?」

ノエリアは、
視線を上げる。

「確認します」

「私を、
“個人”として
見ていますか?」


---

セドリックは、
一瞬だけ考え、
笑った。

「もちろん」

だが、
その答えは軽い。

「あなたは、
非常に優秀な個人だ」

「だからこそ、
組む価値がある」

ノエリアは、
内心で結論を出した。

(……見ていない)


---

それでも、
形式は続ける。

「婚姻後の居住地は?」

「同居を前提に」

即答だった。

「別居は、
統率が取りにくい」

「生活への干渉は?」

「必要に応じて」

「孤児院への関与は?」

この問いに、
セドリックは微笑む。

「もちろん、
管理下に置く」


---

「理由を」

ノエリアは、
感情を挟まず問う。

「効率です」

「自由裁量は、
必ず歪みを生む」

「統制こそ、
安定を生む」

その言葉は、
理屈としては整っている。

だが――
ノエリアの世界とは、真逆だった。


---

「感情的な関係について」

最後の確認。

「期待は?」

セドリックは、
当然のように答える。

「妻である以上、
それは義務だ」

「愛情は、
後から育てればいい」

その瞬間、
ノエリアの中で
何かが完全に切れた。


---

「……理解しました」

彼女は、
静かに立ち上がる。

セドリックが、
怪訝な顔をする。

「まだ、
話の途中ですが」

「十分です」

ノエリアは、
はっきり言った。


---

「あなたは、
合理的です」

「有能でもあります」

「ですが」

一拍。

「私の人生を、
目的の一部に
組み込もうとする方とは、
組めません」

セドリックは、
驚いた顔をした。

「……感情論ですか?」

「いいえ」

即答だった。

「条件論です」


---

「私は、
判断を委ねない」

「裁量を奪われない」

「義務以上を
要求されない」

「それが、
私の条件です」

セドリックは、
一瞬、言葉を失う。

「……それでは、
政略結婚の意味がない」

ノエリアは、
小さく首を横に振った。


---

「あります」

「私が、
政略結婚を
飲める理由が」

その言葉に、
セドリックは理解出来ない顔をした。

それで、十分だった。


---

面会は、
予定より早く終わった。

廊下を歩きながら、
ノエリアは思う。

(……比べる必要すらなかった)


---

屋敷に戻ると、
猫が中庭にいた。

「……却下」

そう告げると、
猫は尻尾を振る。


---

夜。

ノエリアは、
書類を整理する。

候補者二名。

一人は、
理解者。

一人は、
管理者。

選択は、
ほぼ決まっていた。

だが――
まだ、決断はしない。


---

「……第三の選択肢が、
あるかもしれない」

そう思った瞬間、
違和感は確信に変わる。

政略結婚は、
義務。

だが、
人生の全てではない。


---

猫が、
欠伸をする。

子猫たちは、
静かに眠っている。

ノエリアは、
窓を閉めた。

明日は、
静かなはずだ。

だが、
この静けさは、
嵐の前ではない。

選択の前だ。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

処理中です...