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第二十話 数字の告白
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第二十話 数字の告白
王都に、久しぶりの雨が降った。
石畳を打つ雨音は、どこか静かな緊張を洗い流すように響いている。再開発区画の足場は濡れ、職人たちは屋根の下で工程表を確認していた。
止まっていた歯車は動き始めた。
だが、回り続けるためには、もう一段の設計が必要だ。
財務監督室で、私は新たな報告書に目を通していた。
「税制段階調整の第一段階、実施可能です」
新任財務顧問が言う。
「交易量が想定より早く回復しています」
「保証料の再再調整は」
「ローデン商会から前向きな回答を得ています」
私は頷く。
構造は、確実に整いつつある。
だが問題は、ここからだ。
「税率を一律で戻すのではなく、段階的に」
私は指示する。
「庶民層の負担軽減を優先。贅沢品税は据え置き」
「財源は」
「再開発区画の装飾費をさらに圧縮」
数字を書き換える。
国は、感情ではなく、優先順位で動く。
午後、王太子エドガーが監督室を訪れた。
「調整案を見せてくれ」
私は資料を差し出す。
彼は真剣な表情で読み進める。
「……税率を戻せば、世論は落ち着く」
「はい」
「だが財源が減る」
「短期的には」
私は続ける。
「交易回復が進めば、税率を戻しても歳入は維持可能です」
彼はしばらく沈黙する。
「以前の君は、ここまで具体的に前に出なかった」
「立場が違います」
「いや」
彼は顔を上げる。
「私が、聞いていなかった」
その言葉は、静かな告白だった。
私は目を伏せる。
「数字は常にありました」
「だが私は、別のものを優先した」
「それもまた、選択です」
彼は小さく息を吐く。
「選択には、代償がある」
雨音が強まる。
窓の外が白く煙る。
「……君は、私を恨んでいるか」
不意の問い。
私は即答しない。
「恨みは、収支に影響しません」
「感情の話だ」
「感情も、整理しました」
彼は苦笑する。
「君らしい」
だが、その瞳にはまだ迷いが残る。
「私は、愛を選んだ」
「はい」
「だが今は、責任を選んでいる」
私は静かに彼を見る。
「両立は可能です」
「本当に?」
「可能にするのが、立場です」
それは挑発ではない。
事実だ。
彼はしばらく私を見つめ、やがて頷いた。
「税制段階調整を承認する」
「ありがとうございます」
形式的な言葉。
だが、その裏には重みがある。
雨が止み、王都の空に薄い光が差す。
夕刻、税率調整案が正式に発表された。
市場は即座に反応する。
物価上昇の鈍化予測。
国債利回り、さらに安定。
小さな波紋が、今度は穏やかに広がる。
夜。
私は書斎で一人、今日の数字を整理する。
安定は回復しつつある。
だが、完全ではない。
王太子の告白は、帳簿には載らない。
だが、意味はある。
彼は、理解し始めている。
愛と責任の両立は、感情ではなく設計で成り立つことを。
窓の外、濡れた石畳が月光を反射している。
揺れは収まり、静かな夜が戻った。
数字の告白は、私たちの距離を明確にした。
過去は戻らない。
だが未来は、設計できる。
私は帳簿を閉じ、静かに灯りを落とした。
王国は、少しずつだが、正しい位置へ戻り始めている。
王都に、久しぶりの雨が降った。
石畳を打つ雨音は、どこか静かな緊張を洗い流すように響いている。再開発区画の足場は濡れ、職人たちは屋根の下で工程表を確認していた。
止まっていた歯車は動き始めた。
だが、回り続けるためには、もう一段の設計が必要だ。
財務監督室で、私は新たな報告書に目を通していた。
「税制段階調整の第一段階、実施可能です」
新任財務顧問が言う。
「交易量が想定より早く回復しています」
「保証料の再再調整は」
「ローデン商会から前向きな回答を得ています」
私は頷く。
構造は、確実に整いつつある。
だが問題は、ここからだ。
「税率を一律で戻すのではなく、段階的に」
私は指示する。
「庶民層の負担軽減を優先。贅沢品税は据え置き」
「財源は」
「再開発区画の装飾費をさらに圧縮」
数字を書き換える。
国は、感情ではなく、優先順位で動く。
午後、王太子エドガーが監督室を訪れた。
「調整案を見せてくれ」
私は資料を差し出す。
彼は真剣な表情で読み進める。
「……税率を戻せば、世論は落ち着く」
「はい」
「だが財源が減る」
「短期的には」
私は続ける。
「交易回復が進めば、税率を戻しても歳入は維持可能です」
彼はしばらく沈黙する。
「以前の君は、ここまで具体的に前に出なかった」
「立場が違います」
「いや」
彼は顔を上げる。
「私が、聞いていなかった」
その言葉は、静かな告白だった。
私は目を伏せる。
「数字は常にありました」
「だが私は、別のものを優先した」
「それもまた、選択です」
彼は小さく息を吐く。
「選択には、代償がある」
雨音が強まる。
窓の外が白く煙る。
「……君は、私を恨んでいるか」
不意の問い。
私は即答しない。
「恨みは、収支に影響しません」
「感情の話だ」
「感情も、整理しました」
彼は苦笑する。
「君らしい」
だが、その瞳にはまだ迷いが残る。
「私は、愛を選んだ」
「はい」
「だが今は、責任を選んでいる」
私は静かに彼を見る。
「両立は可能です」
「本当に?」
「可能にするのが、立場です」
それは挑発ではない。
事実だ。
彼はしばらく私を見つめ、やがて頷いた。
「税制段階調整を承認する」
「ありがとうございます」
形式的な言葉。
だが、その裏には重みがある。
雨が止み、王都の空に薄い光が差す。
夕刻、税率調整案が正式に発表された。
市場は即座に反応する。
物価上昇の鈍化予測。
国債利回り、さらに安定。
小さな波紋が、今度は穏やかに広がる。
夜。
私は書斎で一人、今日の数字を整理する。
安定は回復しつつある。
だが、完全ではない。
王太子の告白は、帳簿には載らない。
だが、意味はある。
彼は、理解し始めている。
愛と責任の両立は、感情ではなく設計で成り立つことを。
窓の外、濡れた石畳が月光を反射している。
揺れは収まり、静かな夜が戻った。
数字の告白は、私たちの距離を明確にした。
過去は戻らない。
だが未来は、設計できる。
私は帳簿を閉じ、静かに灯りを落とした。
王国は、少しずつだが、正しい位置へ戻り始めている。
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