『婚約破棄された令嬢ですが、気づけば王国の基準になっていました』

ふわふわ

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第二十八話 象徴の代償

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第二十八話 象徴の代償

 監査命令が発せられた翌日、王都は妙に静かだった。

 街道整備の入札業者に対する監査は、形式上は淡々と進んでいる。だが、当事者たちにとってはそうではない。

 対象企業は、有力貴族の親族が名を連ねる商会。

 公表されれば、波紋は広がる。

 それでも私は止めなかった。

 午後、財務監督室に追加報告が届く。

「過大請求は明確です。資材単価を二割上乗せ」

 顧問の声は冷静だ。

「意図的ですね」

「証拠は揃っています」

 私は深く息を吐く。

 これを処理すれば、敵は増える。

 だが処理しなければ、基盤が削られる。

「是正命令と、違約金請求」

「公表しますか」

「はい。透明性を守ります」

 夕刻、王宮で緊急評議。

 当該貴族が怒りを露わにする。

「公の場で我が家を晒すのか」

「契約違反です」

 私は静かに返す。

「身分は関係ありません」

「若輩が、我らの慣習を理解しているのか」

「慣習は免罪符ではありません」

 空気が凍る。

 エドガーが口を開く。

「監査は王家の決定だ」

 短いが強い。

 評議は紛糾したが、最終的に是正命令は承認された。

 夜、新聞が号外を出す。

 ――街道整備入札の不正発覚。

 ――財務監督顧問、違約金請求。

 王都はざわめく。

 称賛も、反発も。

 象徴となった私の名は、再び紙面を飾る。

 翌朝、屋敷前に抗議の使者が現れた。

「我が主は不当な扱いを受けたと」

「契約書を読み直すよう伝えてください」

 私は冷静に応じる。

 感情の応酬は無意味。

 午後、商会連盟代表エリアスが訪れる。

「大胆だな」

「契約通りです」

「貴族を敵に回した」

「構造を守りました」

 彼はしばらく沈黙し、言う。

「商人は見ている。身分に関係なく処理したことを」

 それが狙いだった。

 夜、父が庭で静かに言う。

「象徴は矢面に立つ」

「承知しています」

「疲れは」

「ありません」

 嘘ではない。

 だが軽くもない。

 その夜遅く、アルベイン公国から再び書簡が届く。

 ――強い。だが代償は大きい。

 私は読み終え、机に置く。

 代償。

 敵の増加。

 警戒。

 孤立。

 だが。

 翌日の集計で、商会の国内再投資率はさらに上昇していた。

 信頼は、言葉ではなく行動で積まれる。

 夕刻、エドガーが静かに言う。

「君は後戻りできない位置に立った」

「最初から戻る気はありません」

 彼は少しだけ微笑む。

「象徴の代償を払う覚悟があるか」

「覚悟は問いません」

 私は答える。

「必要だから行います」

 窓の外、王都の灯りは変わらず揺れている。

 だがその揺れの中に、確かな芯がある。

 身分に関係なく契約を適用した。

 それが王国の基準になる。

 象徴の代償は重い。

 だがその重さこそが、基盤を固める。

 私は帳簿を閉じる。

 明日もまた、批判は届くだろう。

 だが基準は変わらない。

 王国の構造を守る。

 それが、象徴としての責務。
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