『婚約破棄された令嬢ですが、気づけば王国の基準になっていました』

ふわふわ

文字の大きさ
30 / 40

第三十話 選ばれる側

しおりを挟む
第三十話 選ばれる側

 小規模商会への門戸開放から一週間。

 王都の経済は、目に見えない形で再編され始めていた。

 大商会の比率はわずかに下がり、地方や新興の商会が再投資の一角を占める。

 資金は分散され、流出率は五%台に戻った。

 数字だけを見れば、安定。

 だが、安定は選択の結果だ。

 そして今、王国は「選ぶ側」ではなく、「選ばれる側」に立ちつつある。

 午前、財務監督室に異国の使者が訪れた。

 アルベイン公国ではない。

 西方同盟都市からの代表団。

「王国の再投資制度を視察したい」

 丁寧な申し出。

 私は一瞬、沈黙する。

 評価が外へ広がっている。

「公開可能な範囲で」

 私は答える。

 午後、視察団との会合。

「王国は大商会への依存を減らした」

 代表が言う。

「段階制拘束と分散投資」

「安定を優先しました」

 私は淡々と説明する。

「短期利益ではなく、構造」

 代表は小さく頷く。

「我々の都市も、同様の揺らぎを抱えている」

 王国の制度が、他国の参考になる。

 それは評価であり、同時に責任だ。

 夕刻、エドガーが言う。

「王国は模倣される側に立った」

「持続可能なら歓迎です」

「だが、失敗すれば嘲笑もされる」

「だから崩せません」

 その夜、予期せぬ報告。

 南部街道整備の資材供給が遅延。

「原因は」

「中間卸業者の契約停止」

 背後に、先日是正された貴族家の影。

 露骨ではない。

 だが意図は明白。

 私は即座に代替ルートを指示する。

「地方小規模商会に緊急発注」

「単価は上がります」

「一時的です」

 構造を守るための即応。

 翌日、遅延は最小限に抑えられた。

 だが代償はある。

 予算圧迫。

 私は再び配分を見直す。

 夜、書斎で数字を整理する。

 選ばれる側。

 王国は、商会にも、他国にも、評価される立場になった。

 それは誇りではない。

 試される位置。

 その時、アルベインから短い書簡が届く。

 ――選ばれる側は、常に完璧を求められる。

 私は静かに笑う。

 リカルドは正しい。

 完璧など存在しない。

 だが崩れない構造は作れる。

 翌朝、新聞が西方同盟の視察を報じる。

 王都の世論は誇らしげだ。

 だが同時に期待も高まる。

 期待は、失望の裏返し。

 私は深く息を吐く。

 父が庭で言う。

「今や王国は、選ぶだけでは済まぬ」

「ええ」

「選ばれ続けねばならぬ」

「だから構造を整えます」

 窓の外、王都の灯りが揺れる。

 王国は今、試される立場にある。

 商会も、地方も、他国も、王家も。

 全てが見ている。

 選ばれる側。

 それは受動ではない。

 持続することで、選ばれ続ける。

 私は帳簿を閉じる。

 明日もまた、誰かが判断する。

 王国を選ぶか否か。

 その選択に応え続ける。

 それが今の役割。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

全てを疑う婚約者は運命の番も疑う

夏見颯一
恋愛
疑ってかかる婚約者は全てを疑ってかかる。 タイトル通りです。 何かが起こっているようで、疑った所為で結果的には何も起きなかった。そんな話です。 5話+番外編。 【彼の両親の運命】だけは死にネタです。ご注意下さい。 一話完結型。 運命の番の話を書いてみたかったので書いてみました。 番に関して少し独自解釈があります。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

あの素晴らしい愛をもう一度

仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは 33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。 家同士のつながりで婚約した2人だが 婚約期間にはお互いに惹かれあい 好きだ!  私も大好き〜! 僕はもっと大好きだ! 私だって〜! と人前でいちゃつく姿は有名であった そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった はず・・・ このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。 あしからず!

【完結】 嘘と後悔、そして愛

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……

処理中です...