婚約破棄されたら、隠しチートが覚醒しました。元婚約者? 今さら後悔しても遅いですよ♪」

ふわふわ

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第3話:公開処刑の宣言

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第3話:公開処刑の宣言

夜会の音楽が、突然遠のいた気がした。

大広間の中央、王族専用の高い階段の上。  
レオニード国王と王妃が並び、その少し下にエティオス殿下が立っている。  
燭台の光が彼の金髪を輝かせ、まるで絵画のような美しさだった。  
しかし、その表情はいつもと違っていた。  
真剣で、どこか決意に満ちている。

私は会場の一角で、ヴァーソや他の令嬢たちと軽く会話をしていた。  
ソアラはエティオスのすぐそばに控えていて、少しおどおどしながらも、満面の笑みを浮かべている。  
周囲の貴族たちは、すでに二人の様子に気づき、ざわめき始めていた。

(来たわね……これが、あのシーン)

前世の記憶が鮮明に蘇る。  
ゲーム『プリンセス・オブ・スターズ』の最大の山場──  
王太子が夜会でヒロインを「運命の相手」と宣言し、悪役令嬢を公開で婚約破棄するイベント。  
原作では、ここでルーテシアが激昂してヒステリーを起こし、完全に悪役の道を突き進む。  
でも、私は違う。絶対に感情を爆発させない。

国王が軽く咳払いをして、会場が静まり返った。

「皆の者よ。今夜は特別な夜だ。わが子、エティオスが重要な発表がある」

レオニード国王の声が響く。  
貴族たちが息を呑み、私に同情の視線を向ける者もいれば、好奇心に目を輝かせる者もいる。

エティオスが一歩前に出た。

「父上、王宮の皆様。そして、ルーテシア・フォン・エルグランド嬢」

彼は私の名前を呼んだ瞬間、私の方をまっすぐ見た。  
碧い瞳に、罪悪感と決意が混じっている。

「私は、長年ルーテシア嬢と婚約を結んでおりました。彼女は完璧な令嬢であり、誰もが認める美しさと教養をお持ちです」

最初は好意的な言葉。  
周囲から「さすが殿下」「お似合いでしたのに」との囁きが聞こえる。  
しかし、私はすでに次の言葉を予想していた。

「しかし……私は、真の運命の相手に出会いました」

会場がどよめいた。  
貴族たちが一斉にソアラを見る。  
彼女は俯き、頬を赤らめながらも、ちらりとエティオスを見上げた。  
その仕草が、計算され尽くしているように見えて、私は内心で冷ややかに笑った。

エティオスはソアラの手を取った。

「この娘、ソアラ・リンドール。平民出身ながら、癒しの魔法を操り、多くの人を救ってきました。彼女の純粋さと優しさに、私は心を奪われました。彼女こそが、私の真の伴侶です」

ざわめきが爆発した。  
「平民が王妃に?」「前代未聞だ」「しかし癒しの力は本物……」

私は静かに、グラスを置いた。  
セレナが後ろで小さく息を呑むのがわかった。

エティオスが私に向き直った。

「ルーテシア嬢。私は、あなたとの婚約を、ここに正式に破棄いたします。申し訳ない」

公開処刑。  
まさにその言葉がぴったりな場面だった。  
周囲の視線がすべて私に集中する。  
同情、嘲笑、好奇心、蔑み──さまざまな感情が刺さるように感じられた。

ヴァーソが、そっと私の袖を引いた。

「お姉様……大丈夫ですか?」

その声は心配そうだが、瞳の奥に喜びが光っているのがわかった。

私はゆっくりと息を吸い、優雅に一歩前に出た。  
全員が私の反応を待っている。  
原作なら、ここで「どうして!」「この平民女が!」と叫んで、取り返しのつかない悪役フラグを立てる場面。

でも、私は微笑んだ。

「殿下のご決断、承知いたしました」

会場が凍りついた。

私は深く礼をし、穏やかな声で続けた。

「エティオス殿下とソアラ様が、運命の出会いをされたとお聞きし、心からお慶び申し上げます。殿下のお幸せを、遠くからお祈りいたしますわ」

静寂。  
誰もが息を止めて、私を見ている。

エティオスが、戸惑ったように目を丸くした。

「ルーテシア……君は、怒らないのか?」

私は首を振った。

「怒る理由などございませんわ。私たちは幼なじみとして長い時間を過ごしましたが、殿下のお心が変わられたのであれば、それを受け入れるのが礼儀かと存じます。どうか、ソアラ様を大切になさってくださいませ」

ソアラが、驚いたように私を見た。  
おそらく、原作通り私が激昂することを期待していたのだろう。

私はさらに一礼し、セレナに目配せした。

「セレナ、そろそろお屋敷に戻りましょうか。夜も更けてまいりましたわ」

セレナが慌てて「はい、お嬢様!」と答える。

私は誰にも声をかけられぬまま、ゆっくりと会場を後にした。  
背中に無数の視線を感じながらも、表情は崩さない。

王宮の長い廊下を歩き、外に出た瞬間──  
冷たい夜風が頬を撫でた。

馬車に乗り込む直前、セレナが震える声で言った。

「お嬢様……本当に、大丈夫なんですか? あんなにひどいことを……」

私は馬車に乗り込み、窓から星空を見上げた。

「大丈夫よ、セレナ。むしろ……少し、ほっとしているわ」

セレナが目を丸くする。

「なぜなら、これで私は自由になれたのですもの。殿下の婚約者という重い鎖から、解き放たれたのよ」

内心では、別の感情が渦巻いていた。

(これで、ゲームの悪役令嬢ルートは完全に回避できたはず。  
でも……この先、どうなるのかしら)

前世の知識では、婚約破棄後にルーテシアは家族からも見放され、辺境へ追放される。  
そこからさらに転落し、処刑エンドへ。

(でも、私はもう原作のルーテシアじゃない。  
どんな困難が来ても、必ず生き延びてみせる)

馬車がエルグランド邸へ向かって走り出す。  
王宮の灯りが遠ざかっていく。

その時、ふと胸の奥に熱いものが広がった。  
まるで、何かが目覚めようとしているような……。

(この違和感……まさか)

私はそっと胸に手を当てた。  
まだ、はっきりとはわからない。  
けれど、何かが変わり始めている予感がした。

婚約破棄の夜。  
私の新しい人生が、本当に始まる夜。

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