婚約破棄されたら、隠しチートが覚醒しました。元婚約者? 今さら後悔しても遅いですよ♪」

ふわふわ

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第6話:覚醒の兆し

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第6話:覚醒の兆し

魔物の群れが森の奥へ消えていくのを確認してから、私はようやく息を吐いた。  
膝が少し震えていたが、なんとか馬車に戻ることができた。

御者が呆然とした顔で私を見つめている。

「お、お嬢様……あれは、いったい何の魔法で……? 火を操るなんて、貴族の魔導師でも難しいのに」

私は軽く微笑んで、首を振った。

「魔法というより、少しの工夫ですわ。薬草の匂いで怯ませて、火で追い払っただけ。ご心配をおかけしました」

セレナは馬車の中で、私の手をぎゅっと握っていた。

「お嬢様、無茶です! 危なかったんですよ! でも……本当にすごかったです……」

彼女の瞳は輝き、恐怖よりも感動が勝っているようだった。

馬車は再び動き出し、夕暮れが近づく頃、ようやく辺境の別邸が見えてきた。  
地平線の向こうに、ぼんやりとした山並み。  
その麓に、古びた石造りの屋敷がぽつんと佇んでいる。  
周囲には小さな村落があるはずだが、まだ遠くて見えない。

(これが、私の新しい家……)

屋敷は想像以上に荒れていた。  
門は錆びつき、庭は雑草が伸び放題。  
窓ガラスは半分割れ、屋根の一部が崩落している。  
王都の華やかな伯爵邸とは、まるで別世界だ。

御者が荷物を降ろし、申し訳なさそうに言った。

「ここまでです。お嬢様、どうかご無事で。私は王都に戻ります」

私は礼を言い、わずかな謝礼を渡した。  
御者は何度も頭を下げ、馬車を走らせて去っていった。

残されたのは、私とセレナだけ。  
夕陽が屋敷を赤く染め、長い影を落としている。

セレナが不安そうに呟いた。

「お嬢様……本当に、ここで暮らすんですか? とても人が住めるとは……」

私は屋敷の扉を押し開けた。  
中は埃とカビの匂いが充満し、家具はほとんど残っていない。  
居間らしき部屋には、古いテーブルと椅子が二脚だけ。

でも、私は笑った。

「セレナ、ここからが本番よ。私たちの力で、きっと素敵な場所に変えてみせるわ」

セレナは少し元気を取り戻し、頷いた。

「はい、お嬢様! 私も全力でお手伝いします!」

まずは掃除から始めた。  
収納空間から、道中で拾った枝と布で即席の箒を作り、埃を払う。  
割れた窓には、収納から出した布を張って仮の目隠し。  
現代知識で、簡単な掃除道具を即興で作りながら、二人で汗を流した。

夜が更け、ようやく一つの部屋を片付けた頃──  
私は疲れ果てて、古いベッドに腰を下ろした。  
セレナは近くで、持ってきた毛布を広げている。

「お嬢様、今日は本当に大変でしたね。でも、無事に着けてよかったです」

私は頷き、そっと胸に手を当てた。  
今日の魔物騒動から、さらに力が強くなっている気がする。

「セレナ、少し試してみたいことがあるの。一緒に見ていてくれる?」

セレナが興味津々に近づいてきた。

私は目を閉じ、収納空間に意識を集中した。  
これまでは小物しか出せなかったが、今は違う。  
現代の記憶を頼りに、具体的なイメージを浮かべる。

──温かいスープ。  
玉ねぎ、にんじん、じゃがいも。  
鶏肉とハーブで煮込んだ、クリーミーなポタージュ。

すると、手のひらに小さな光が集まり、湯気を立てるスープの入った木の碗が現れた。  
香りが部屋に広がる。

セレナが目を丸くした。

「こ、これ……お嬢様が、今作ったんですか!? 匂いが……すごくいい匂いです!」

私は碗をセレナに差し出した。

「食べてみて。熱いから気をつけて」

セレナは恐る恐るスプーンを口に運び──  
次の瞬間、涙目になった。

「お、おいしい……! こんなに温かくて、優しい味……王都の高級レストランより美味しいです!」

彼女は夢中で食べ始めた。  
私も自分の分を作り、一緒に味わう。  
疲れた身体に、染み渡るような温かさ。

(これが……私のチートの本質)

無限収納だけじゃない。  
現代の知識を基に、材料がなくても「イメージ」で再現できる。  
料理だけでなく、薬草、道具、服……おそらく何でも。

しかも、収納空間内では時間が止まる。  
作った料理はいつまでも新鮮なまま。

私は静かに拳を握った。

(これなら、辺境でも生きていける。  
いや、豊かに暮らせる)

セレナが碗を空けて、満面の笑みで言った。

「お嬢様の力、本当に神様の贈り物ですね! 明日から、村の人たちにもこのスープを振る舞ったら、きっとみんな喜びます!」

私は頷いた。

「ええ、そうね。まずは村を見に行きましょう。きっと、みんな苦労しているはずだから」

その夜、私は久しぶりに深く眠れた。  
夢の中で、前世の自分が微笑んでいる気がした。

翌朝、太陽が昇ると同時に、私たちは村へ向かった。  
屋敷から歩いて小一時間の距離。  
村はさらに荒れ果てていた。  
家は半壊したものが多く、畑は不作で枯れている。  
村人たちは痩せ細り、子供たちは元気がない。

村の入り口で、私たちを見た老人が驚いた顔をした。

「ど、どちら様で……? このような辺境に、貴族の方のような方が……」

私は優しく微笑み、一礼した。

「ルーテシア・フォン・エルグランドと申します。この度、別邸に住むことになりました。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

村人たちがざわめいた。  
「エルグランド……王都の伯爵家?」「婚約破棄の噂の……」

噂はすでに届いているらしい。  
でも、私は気にしない。

セレナが持っていた籠を差し出し、私は蓋を開けた。  
中には、昨夜作ったスープと、パン、そして簡単な薬草茶。

「皆さん、お腹が空いていらっしゃるでしょう? 少しですが、どうぞ召し上がってください」

子供たちが最初に寄ってきて、恐る恐るスープを飲む。  
そして──

「お、おいしい……!」

「温かい……お母さん、こんなの初めて!」

村人たちが次々と集まり、籠の中身があっという間になくなった。

老人が涙を浮かべて、私に頭を下げた。

「お嬢様……ありがとうございます。この村は不作続きで、みんな飢えていました。こんな美味しいものを……」

私は微笑んだ。

「これから、もっと作りますわ。皆さんが元気になれるように、私も頑張ります」

村人たちが歓声を上げた。  
その瞬間、胸の奥で力がまた脈打った。

【スキル進化】  
【料理作成レベルアップ】  
【薬草調合スキル獲得】

ステータス画面のようなものが、ちらりと視界をよぎる。

(完全に覚醒した……これが、私のチート)

辺境での生活が、本当に始まる。

誰も知らない、私だけの力で──  
この土地を、豊かに、幸せに変えてみせる。

村人たちの笑顔を見ながら、私は心の中で誓った。

(元婚約者? 王都の噂?  
もう、関係ない。  
私の物語は、ここから)

遠くで、朝陽が輝いていた。

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