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第23話 名を持つ責任
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第23話 名を持つ責任
変化が進むほど、
名前は力を持ち始める。
ジェシカは、そのことを痛感していた。
彼女の名は、今や王都で知らぬ者のないものとなっている。
制度に疑問を投げかけた女。
白の誓約を揺るがした存在。
――そして、
象徴。
それは、決して望んだ役割ではなかった。
「ジェシカ様に、推薦状が届いています」
アルヴィンが差し出した封筒は、三通。
いずれも重みのある家名が記されていた。
「評議会の外部顧問、ですって?」
ジェシカは、思わず眉をひそめる。
「表向きは“中立的意見の聴取”」
アルヴィンは肩をすくめた。
「実際には、君の名前を使いたいだけだろう」
改革派にとっても、
保守派にとっても。
ジェシカという存在は、
“都合よく掲げられる旗”になりつつあった。
(利用される)
その感覚は、
かつての結婚生活を思い起こさせる。
選ばれ、飾られ、
意味を与えられる。
――本人の意思とは無関係に。
その日の午後。
ジェシカは、あえて一人で外出した。
向かった先は、王都の南区。
華やかな社交界から、最も遠い場所。
石畳は荒れ、
貴族の馬車はほとんど通らない。
そこで、彼女は一人の女性と向き合っていた。
「……ジェシカ様、ですよね」
年若い女性だった。
質素な服装。
だが、背筋は伸びている。
「はい」
「私、白の誓約を結ばなかったんです」
それは、告白というより、報告だった。
「でも……
あなたの言葉があったから、決められました」
ジェシカは、すぐには返事をしなかった。
「後悔は?」
女性は、少しだけ笑った。
「あります。
怖いですし、孤独です」
正直な答え。
「でも」
彼女は、はっきりと言った。
「私の人生を選んだのは、私です」
その言葉に、
ジェシカの胸が、わずかに痛んだ。
(この人は、私よりも――)
(ずっと、勇気がある)
屋敷に戻った夜。
ジェシカは、机に向かい、白紙を前にしていた。
推薦状は、まだ開いていない。
代わりに、彼女は一枚の紙に、こう書いた。
「私の名を、何に使うのか」
誰かの盾になるのか。
誰かの剣になるのか。
それとも――
ただの飾りか。
アルヴィンが、静かに言った。
「逃げてもいい」
ジェシカは、首を振る。
「逃げない」
ただし、と彼女は続けた。
「名を貸すなら、条件をつける」
翌日。
ジェシカは、三通の推薦状すべてに返書を送った。
内容は、同じ。
――
私は、いかなる派閥の“正しさ”も保証しない。
語るのは、事実と、選択の重さのみ。
それでも必要なら、席に着く。
――
強気な条件だった。
返答は、すぐには来ないだろう。
だが。
ジェシカは、確信していた。
名前を持つとは、
誰かに従うことではない。
それは、
問われ続ける覚悟を持つことだ。
白い仮面を外した後に残るのは、
自由ではない。
――責任だ。
ジェシカは、灯りを消し、窓辺に立った。
王都の夜は、静かだった。
だがその静けさの中で、
確かに、新しい問いが息づいている。
名を持つ者は、
何を語り、
何を語らないのか。
その答えを、
彼女はこれから、自分の言葉で刻んでいく。
変化が進むほど、
名前は力を持ち始める。
ジェシカは、そのことを痛感していた。
彼女の名は、今や王都で知らぬ者のないものとなっている。
制度に疑問を投げかけた女。
白の誓約を揺るがした存在。
――そして、
象徴。
それは、決して望んだ役割ではなかった。
「ジェシカ様に、推薦状が届いています」
アルヴィンが差し出した封筒は、三通。
いずれも重みのある家名が記されていた。
「評議会の外部顧問、ですって?」
ジェシカは、思わず眉をひそめる。
「表向きは“中立的意見の聴取”」
アルヴィンは肩をすくめた。
「実際には、君の名前を使いたいだけだろう」
改革派にとっても、
保守派にとっても。
ジェシカという存在は、
“都合よく掲げられる旗”になりつつあった。
(利用される)
その感覚は、
かつての結婚生活を思い起こさせる。
選ばれ、飾られ、
意味を与えられる。
――本人の意思とは無関係に。
その日の午後。
ジェシカは、あえて一人で外出した。
向かった先は、王都の南区。
華やかな社交界から、最も遠い場所。
石畳は荒れ、
貴族の馬車はほとんど通らない。
そこで、彼女は一人の女性と向き合っていた。
「……ジェシカ様、ですよね」
年若い女性だった。
質素な服装。
だが、背筋は伸びている。
「はい」
「私、白の誓約を結ばなかったんです」
それは、告白というより、報告だった。
「でも……
あなたの言葉があったから、決められました」
ジェシカは、すぐには返事をしなかった。
「後悔は?」
女性は、少しだけ笑った。
「あります。
怖いですし、孤独です」
正直な答え。
「でも」
彼女は、はっきりと言った。
「私の人生を選んだのは、私です」
その言葉に、
ジェシカの胸が、わずかに痛んだ。
(この人は、私よりも――)
(ずっと、勇気がある)
屋敷に戻った夜。
ジェシカは、机に向かい、白紙を前にしていた。
推薦状は、まだ開いていない。
代わりに、彼女は一枚の紙に、こう書いた。
「私の名を、何に使うのか」
誰かの盾になるのか。
誰かの剣になるのか。
それとも――
ただの飾りか。
アルヴィンが、静かに言った。
「逃げてもいい」
ジェシカは、首を振る。
「逃げない」
ただし、と彼女は続けた。
「名を貸すなら、条件をつける」
翌日。
ジェシカは、三通の推薦状すべてに返書を送った。
内容は、同じ。
――
私は、いかなる派閥の“正しさ”も保証しない。
語るのは、事実と、選択の重さのみ。
それでも必要なら、席に着く。
――
強気な条件だった。
返答は、すぐには来ないだろう。
だが。
ジェシカは、確信していた。
名前を持つとは、
誰かに従うことではない。
それは、
問われ続ける覚悟を持つことだ。
白い仮面を外した後に残るのは、
自由ではない。
――責任だ。
ジェシカは、灯りを消し、窓辺に立った。
王都の夜は、静かだった。
だがその静けさの中で、
確かに、新しい問いが息づいている。
名を持つ者は、
何を語り、
何を語らないのか。
その答えを、
彼女はこれから、自分の言葉で刻んでいく。
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