二世代の伝説の歌姫〜ラストナンバーは終わらない〜

ふわふわ

文字の大きさ

大中小

25 / 37

第7章-1：学園祭で発表へ

しおりを挟む

第7章-1：学園祭で発表へ

　秋の訪れとともに、学園は文化祭――通称“秋光祭”の準備に沸いていた。
　生徒会と実行委員が奔走し、教室の出し物や模擬店の企画案が次々と掲示されていく。特設ステージでのイベント枠も確定し、毎年恒例の“学生ライブ枠”には、バンド部やダンス部、音楽系の有志たちが名を連ねていた。

　その中で、突如として追加された一枚の申請書が、関係者の間に小さな波紋を呼んでいた。

　その日、職員室の一角。実行委員長である3年の春日が、目を細めて提出されたばかりの書類を読んでいた。

「これ……本物か？」

　その声に、副委員長の南が覗き込む。

「どれどれ……“白河優”……？え、あの地味子の……？」

「いや、問題は名前じゃない。“出演名：白河優（Yuu）”って書いてある」

　南は数秒固まったあと、目を見開いた。

「……え、嘘でしょ。“Yuu”って、あのネットで話題の……！？」

「CMの歌姫とされる“Yuu”本人が、うちの生徒で、顔出しで学園祭ステージに出る……？」

　そこまで言ったところで、他の職員や委員がざわめき始めた。

　「まさか、あのYuuが……」
　「うちの生徒だったのか……？」

　

　数時間後には、噂が教室中に駆け巡っていた。

「ねえねえ、聞いた？学園祭にYuuが来るらしいよ！」

「え、マジで？本物！？どこの芸能人？」

「てかさ、実はうちの学校の生徒だったって噂もあるよ。誰なのかな？」

「“優”って名前らしいよ。“白河優”って……うちのクラスじゃね？」

「えっ……あの……地味子の……白河さん……？」

　一瞬、教室が凍りつくような静けさに包まれる。

　そして、ざわめきが爆発した。

「うっそだろ！？だって、白河さんってさ、ほとんど喋らないし、顔だって……いや、前髪で見えないけど……」

「でも、あの時、体育の時間に……風で前髪めくれてさ、一瞬だけ見えた顔……」

「やばいくらい、美人だったよな。まさか……マジでYuu？」

　噂は瞬く間に広がり、いつの間にか校内掲示板の“出演者リスト”の欄には、赤ペンで大きく囲まれた「白河優（Yuu）」の文字が掲示され、生徒たちがスマホをかざして写真を撮っていた。

　一方、当の本人――白河優は、教室の片隅でうつむいていた。

　前髪は、もはや隠れ蓑にはなっていない。
　先日、体育の授業で偶然顔が露わになり、“Yuu疑惑”が浮上してからというもの、視線を集めることに慣れようと努力してきたつもりだった。

　だけど、いざ公式に出演を申請し、“Yuu”であることを明かすと、注目の熱量は想像以上だった。

　「…………」

　優は、言葉が出せなかった。
　喉が詰まり、息が浅くなる。
　手のひらがじっとりと汗ばんでいる。

　

　「優、平気？」

　小声で話しかけてきたのは、泉だった。優の机のそばにしゃがみ込み、目線を合わせる。

「だ、大丈夫……」

　いつものボソボソとした声だったが、それでも彼女なりにしっかりと口を開いた。

「ちょっと、騒がれるの、慣れてないだけ。すぐに慣れる……たぶん……」

　泉は、そんな優の手をぎゅっと握る。

「大丈夫。ステージに立てば、あの歌声で全部ひっくり返せる。私たち、リハの準備も完璧にするから。ね？」

　

　そこへ明もやってきた。いつも通りの無愛想な顔で、優の机の上にタブレットを置いた。

「舞台演出の草案、組んできた。LEDライトは最小、あくまで“声”で勝負する方向で」

「……ありがとう」

「衣装、どうする？あの白のやつ、似合ってた。おばさんのだったんだろ？」

「……うん。あれで、歌いたい」

　

　明も泉も、優の覚悟を信じていた。
　そして何より、優自身がいま、自分の名前でステージに立つことを“選んだ”。

　

　廊下では、学園祭実行委員たちがバタバタと駆け回っていた。

「なあ、警備増やす？一般人も来るよな？」

「てか、これ本当にテレビ局とか来ちゃうんじゃないの……？」

　そして、校内放送でも告知が行われた。

　

『今年の秋光祭、ステージ部門にて特別追加枠が設けられました。
　出演者は――白河優さん。
　ネット上で“Yuu”として活動し、話題となった生徒です。
　今回は、本校で初の顔出しステージとなります。皆さまのご協力と、静かな鑑賞をお願い申し上げます』

　

　その放送を聞いた瞬間、優の背中に鳥肌が立った。
　いよいよ“Yuu”ではなく、“白河優”として――“自分”の物語を見せる時がやってくる。

　

　翌日。
　ステージリハーサルのために訪れた講堂で、優はマイクを見つめていた。
　かつて舞が立ったのは、プロのレコーディングブース。
　そして、今優が立とうとしているのは、自分の通う学園の講堂。

　けれど、そのどちらも“想いを届ける場所”という意味では同じだった。

「……やってみる」

　小さな声が、誰に聞かれるでもなく、講堂の壁に反響した。

　

　いよいよ、“ラストナンバー”は終わらない。
　白河優の第一歩は、このステージで鳴り響く。

この章では、プロットに基づき以下の要素を網羅しています：

優が正式に“Yuu”名義で学園祭ステージ出演を申請

学校内に噂が広がり、ざわつく生徒たち

優の緊張と葛藤

明と泉が支え、演出や準備に尽力する描写

優自身の「やる」と決意する描写

校内放送で“Yuu＝白河優”が正式に告知されることでのインパクト

本番に向けたリハーサルの入り口

しおりを挟む