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第5章‑4:新たな一歩──学校連れ戻し大作戦
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第5章‑4:新たな一歩──学校連れ戻し大作戦
翌朝、白河優の自室からは小鳥のさえずりだけが聞こえていた。昨夜の作戦会議で決めた「ステップ1:ヘアスタイル変更」を実行する日。優は目覚ましの音も聞かずに、ただパジャマのままベッドに座ったまま動けずにいた。長い前髪は布団にくっついたままで、まるで彼女自身を包み込む鎧のようだった。
当麻明がそっと部屋のドアをノックし、入ってくる。
「優、起きて。今日は大事な日だよ」
明の声はいつもより優しく、しかし決意が滲んでいた。佐々木泉も続いてドアを開け、手にスタイリング用のヘアピンとヘアスプレー、小さなハサミを持って立っていた。
「おはよう、優ちゃん。今日はね、ちょっとだけ前髪を切る練習をするんだよ」
泉は膝まずくようにして優の目線まで寄り、「大丈夫、痛くないからね」と笑いかけた。
優はマスクを外し、かぶっていたフードをそっと外すと、前髪越しの世界を見つめたまま小さくうなずく。やわらかな朝日がカーテン越しに差し込み、彼女の髪を淡く照らす。
リビングへ移動し、三人は母・白河愛が用意した鏡の前に並んだ。愛は朝食の準備をしながらゆっくりと振り向き、「優、きれいよ。そのまま自分のペースでね」と声をかける。優は緊張しつつも、母の笑顔を見ると安心感を得た。
スムーズに作業を進めるため、明がハサミとコームを優の前髪に当て、泉がハサミの使い方を説明する。
「まずは少しずつ、長さを切るよ。無理はしない。全体を見ながら、5ミリずつね」
泉の指示に従い、優はコームで前髪をまとめ、二人が手際よく不要な毛束をカットしていく。その間、優は時折「痛くない?」と問いかけ、二人は微笑みながら「大丈夫だよ」と答える。切り取られた束は小さく、しかし確かな変化を示していた。
仕上げに、前髪をリボンで軽く留め、束感を調整する。優の顔が初めてしっかりと見える幅が生まれ、三人は「かわいい!」とそろって歓声を上げた。優は恥ずかしそうに頬を染めつつも、鏡の中の自分をじっと見つめ、かすかに微笑んだ。
登校時間。三人は自宅を出発し、駅前を経由して学校へ向かう。優の前髪はリボンで留められたまま、いつものように長く垂れているが、視界は完全に開通していた。初めは視線が落ち着かなかったが、明と泉がそっと肩を支え、安心感を与えてくれる。
校門前に到着すると、既に数名の生徒が登校している。スマホをいじりながら話し込む姿、背伸びをしながら校門をくぐる姿──日常の光景だ。優は一瞬ためらったが、明の「行こう」という合図でゆっくりと一歩を踏み出し、泉が反対側から歩調を合わせる。
すると、優の姿を見つけたクラスメイトがざわめき始めた。
「お、おはよう、白河さん……?」
「何か、髪変わった?」
一瞬の緊張が三人を包むが、優は目線を落とさず、小さく「おはようございます」と返した。リボンの先端がゆらりと揺れ、周囲の視線を誘ったが、それでも優は歩き続ける。
教室のドア前では、担任の先生がやさしく微笑んで待っていた。
「白河さん、待っていたよ。ゆっくりでいいから入室してね」
先生のその一言は、優にとって何よりも大きな後押しとなった。
椅子に腰かけると、教室中から小さな拍手が起こった。驚いたように目を見開きながらも、優は微かに頭を下げる。胸に広がる暖かさ、その拍手に込められた「おかえり」の意味を、彼女は全身で受け止めていた。
授業が始まると、先生が黒板に問題を書きながら、「今日からテスト範囲の講義をしますが、質問があればいつでもどうぞ」と優に声をかける。優は前髪越しに先生を見つめ、小さく「はい」と答えた。
放課後、教室を出るときに友人の一人がそっと声をかけた。
「前髪、ちょっとだけ見えたけど、かわいいね」
優は驚きながらも、「ありがとう」と小声で返し、その言葉に背中を押された。
帰り道、三人は無言で歩きながらも、心地よい疲労感に包まれていた。
「最初の一歩、成功だね」
明が笑い、泉も「うん、よく頑張ったよ」と優を見つめた。優は前髪を触りながら、かすかに笑った。
──前髪の壁は、確かに壊れかけている。
しかし、壊れた先にあったのは、“本当の私”としての小さな自信だった。
翌朝、白河優の自室からは小鳥のさえずりだけが聞こえていた。昨夜の作戦会議で決めた「ステップ1:ヘアスタイル変更」を実行する日。優は目覚ましの音も聞かずに、ただパジャマのままベッドに座ったまま動けずにいた。長い前髪は布団にくっついたままで、まるで彼女自身を包み込む鎧のようだった。
当麻明がそっと部屋のドアをノックし、入ってくる。
「優、起きて。今日は大事な日だよ」
明の声はいつもより優しく、しかし決意が滲んでいた。佐々木泉も続いてドアを開け、手にスタイリング用のヘアピンとヘアスプレー、小さなハサミを持って立っていた。
「おはよう、優ちゃん。今日はね、ちょっとだけ前髪を切る練習をするんだよ」
泉は膝まずくようにして優の目線まで寄り、「大丈夫、痛くないからね」と笑いかけた。
優はマスクを外し、かぶっていたフードをそっと外すと、前髪越しの世界を見つめたまま小さくうなずく。やわらかな朝日がカーテン越しに差し込み、彼女の髪を淡く照らす。
リビングへ移動し、三人は母・白河愛が用意した鏡の前に並んだ。愛は朝食の準備をしながらゆっくりと振り向き、「優、きれいよ。そのまま自分のペースでね」と声をかける。優は緊張しつつも、母の笑顔を見ると安心感を得た。
スムーズに作業を進めるため、明がハサミとコームを優の前髪に当て、泉がハサミの使い方を説明する。
「まずは少しずつ、長さを切るよ。無理はしない。全体を見ながら、5ミリずつね」
泉の指示に従い、優はコームで前髪をまとめ、二人が手際よく不要な毛束をカットしていく。その間、優は時折「痛くない?」と問いかけ、二人は微笑みながら「大丈夫だよ」と答える。切り取られた束は小さく、しかし確かな変化を示していた。
仕上げに、前髪をリボンで軽く留め、束感を調整する。優の顔が初めてしっかりと見える幅が生まれ、三人は「かわいい!」とそろって歓声を上げた。優は恥ずかしそうに頬を染めつつも、鏡の中の自分をじっと見つめ、かすかに微笑んだ。
登校時間。三人は自宅を出発し、駅前を経由して学校へ向かう。優の前髪はリボンで留められたまま、いつものように長く垂れているが、視界は完全に開通していた。初めは視線が落ち着かなかったが、明と泉がそっと肩を支え、安心感を与えてくれる。
校門前に到着すると、既に数名の生徒が登校している。スマホをいじりながら話し込む姿、背伸びをしながら校門をくぐる姿──日常の光景だ。優は一瞬ためらったが、明の「行こう」という合図でゆっくりと一歩を踏み出し、泉が反対側から歩調を合わせる。
すると、優の姿を見つけたクラスメイトがざわめき始めた。
「お、おはよう、白河さん……?」
「何か、髪変わった?」
一瞬の緊張が三人を包むが、優は目線を落とさず、小さく「おはようございます」と返した。リボンの先端がゆらりと揺れ、周囲の視線を誘ったが、それでも優は歩き続ける。
教室のドア前では、担任の先生がやさしく微笑んで待っていた。
「白河さん、待っていたよ。ゆっくりでいいから入室してね」
先生のその一言は、優にとって何よりも大きな後押しとなった。
椅子に腰かけると、教室中から小さな拍手が起こった。驚いたように目を見開きながらも、優は微かに頭を下げる。胸に広がる暖かさ、その拍手に込められた「おかえり」の意味を、彼女は全身で受け止めていた。
授業が始まると、先生が黒板に問題を書きながら、「今日からテスト範囲の講義をしますが、質問があればいつでもどうぞ」と優に声をかける。優は前髪越しに先生を見つめ、小さく「はい」と答えた。
放課後、教室を出るときに友人の一人がそっと声をかけた。
「前髪、ちょっとだけ見えたけど、かわいいね」
優は驚きながらも、「ありがとう」と小声で返し、その言葉に背中を押された。
帰り道、三人は無言で歩きながらも、心地よい疲労感に包まれていた。
「最初の一歩、成功だね」
明が笑い、泉も「うん、よく頑張ったよ」と優を見つめた。優は前髪を触りながら、かすかに笑った。
──前髪の壁は、確かに壊れかけている。
しかし、壊れた先にあったのは、“本当の私”としての小さな自信だった。
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