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番外編『ラストナンバー』
第2章:動画投稿と反響
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第2章:動画投稿と反響
――三日後の午前4時。
東京の片隅、誰もいないワンルームの室内で、戸川浩一は一人、ノートパソコンの画面と睨み合っていた。
再生ボタンを押すと、スピーカーから彼女の声が流れる。
「♪――」
それは、舞が命を削って歌い上げた“あの曲”。
滑走路で風を受けながら、白いワンピースを翻し、空に向かって放った魂の旋律だった。
映像も音も、すでに完成している。
テロップも最低限。
「演者:非公開」
「タイトル:Untitled」
「Produced by Koichi T」
彼女の希望通り、本名は伏せた。プロフィールも、背景も語らない。
ただ“歌”だけをアップする、それが彼女の望んだ“姿勢”だった。
「……行こうか」
戸川は、マウスをクリックした。
【投稿】
その瞬間、彼女の“声”が、世界に解き放たれた。
*
再生数が100を超えたのは、投稿から4時間後だった。
コメントがついたのは、その直後。
「すごい……誰、この人」
「最初の一声で泣いた」
「名前がわからないけど、本物だってことだけはわかる」
「表に出てこないのが逆に不気味。でも惹かれる」
拡散が始まったのは、翌日。
音楽マニアがX(旧Twitter)で紹介し、YouTuberがリアクション動画を上げた。
「これ聴いてみて。多分無名だけど……多分、ヤバい」
「鳥肌って言葉、軽く使いたくないけど……これは、本物」
やがて、ある有名音楽ブログが“謎の新人”として取り上げた。
『正体不明の女性ボーカル、たった1本のMVでリスナーの心を抉る』
『透き通る声質、極限まで削がれた映像演出――これは、現代における“純粋音楽の再定義”だ』
再生数は一気に10万を突破。
戸川の元には、音楽関係者からの問い合わせが相次いだ。
「この“Koichi T”って、誰なんですか?」
「彼女に会いたい。次の曲はいつですか?」
「これは実在の人物? それともAI……?」
けれど、戸川はすべてに同じ言葉で返した。
「名前は非公開です。歌だけがすべてですから」
*
一方、その頃。
舞は、病室のベッドに座っていた。
医師の許可で持ち込まれたタブレットを膝に置き、無数のコメントを眺めていた。
「……ねぇ先生。人って、知らない人の声だけで、こんなに泣いたりできるんだね」
「そうですね。でも、声って一番“心”が出る場所ですから」
舞は小さく笑った。
その笑みは、充実感と、少しの寂しさが入り混じっていた。
「なんだか、変な気分。
本当はここで寝てるだけの女の子なのに、みんなが“存在してる”って信じてくれてる」
「舞さんは、ちゃんと存在してますよ。声を通して、皆さんの心の中に」
「……だったら、もう少しだけ、頑張ってみようかな」
その言葉には、確かな光が宿っていた。
*
それからさらに一週間後。
myという名前はまだ存在していなかった。
“ラストナンバー”も、まだ生まれていなかった。
だが、その歌声は、
何のプロモーションもなく、
たった一本の映像だけで、
全国の人々の耳と心を打ち抜いた。
“この歌は誰が歌ってるのか?”
“なぜ、こんなにも人の心に残るのか?”
“どうして姿を見せないのか?”
人々は知りたがった。
けれど、誰も知らなかった。
病院の一室で、命を削りながら、
彼女はこうつぶやいていた。
「たとえ、名前を知られなくても。
私の声が、誰かを救えるのなら――それで、いい」
myという歌姫は、まだ“生まれていなかった”。
だが、彼女の歌は、すでに人の心に“存在”していたのだった。
――三日後の午前4時。
東京の片隅、誰もいないワンルームの室内で、戸川浩一は一人、ノートパソコンの画面と睨み合っていた。
再生ボタンを押すと、スピーカーから彼女の声が流れる。
「♪――」
それは、舞が命を削って歌い上げた“あの曲”。
滑走路で風を受けながら、白いワンピースを翻し、空に向かって放った魂の旋律だった。
映像も音も、すでに完成している。
テロップも最低限。
「演者:非公開」
「タイトル:Untitled」
「Produced by Koichi T」
彼女の希望通り、本名は伏せた。プロフィールも、背景も語らない。
ただ“歌”だけをアップする、それが彼女の望んだ“姿勢”だった。
「……行こうか」
戸川は、マウスをクリックした。
【投稿】
その瞬間、彼女の“声”が、世界に解き放たれた。
*
再生数が100を超えたのは、投稿から4時間後だった。
コメントがついたのは、その直後。
「すごい……誰、この人」
「最初の一声で泣いた」
「名前がわからないけど、本物だってことだけはわかる」
「表に出てこないのが逆に不気味。でも惹かれる」
拡散が始まったのは、翌日。
音楽マニアがX(旧Twitter)で紹介し、YouTuberがリアクション動画を上げた。
「これ聴いてみて。多分無名だけど……多分、ヤバい」
「鳥肌って言葉、軽く使いたくないけど……これは、本物」
やがて、ある有名音楽ブログが“謎の新人”として取り上げた。
『正体不明の女性ボーカル、たった1本のMVでリスナーの心を抉る』
『透き通る声質、極限まで削がれた映像演出――これは、現代における“純粋音楽の再定義”だ』
再生数は一気に10万を突破。
戸川の元には、音楽関係者からの問い合わせが相次いだ。
「この“Koichi T”って、誰なんですか?」
「彼女に会いたい。次の曲はいつですか?」
「これは実在の人物? それともAI……?」
けれど、戸川はすべてに同じ言葉で返した。
「名前は非公開です。歌だけがすべてですから」
*
一方、その頃。
舞は、病室のベッドに座っていた。
医師の許可で持ち込まれたタブレットを膝に置き、無数のコメントを眺めていた。
「……ねぇ先生。人って、知らない人の声だけで、こんなに泣いたりできるんだね」
「そうですね。でも、声って一番“心”が出る場所ですから」
舞は小さく笑った。
その笑みは、充実感と、少しの寂しさが入り混じっていた。
「なんだか、変な気分。
本当はここで寝てるだけの女の子なのに、みんなが“存在してる”って信じてくれてる」
「舞さんは、ちゃんと存在してますよ。声を通して、皆さんの心の中に」
「……だったら、もう少しだけ、頑張ってみようかな」
その言葉には、確かな光が宿っていた。
*
それからさらに一週間後。
myという名前はまだ存在していなかった。
“ラストナンバー”も、まだ生まれていなかった。
だが、その歌声は、
何のプロモーションもなく、
たった一本の映像だけで、
全国の人々の耳と心を打ち抜いた。
“この歌は誰が歌ってるのか?”
“なぜ、こんなにも人の心に残るのか?”
“どうして姿を見せないのか?”
人々は知りたがった。
けれど、誰も知らなかった。
病院の一室で、命を削りながら、
彼女はこうつぶやいていた。
「たとえ、名前を知られなくても。
私の声が、誰かを救えるのなら――それで、いい」
myという歌姫は、まだ“生まれていなかった”。
だが、彼女の歌は、すでに人の心に“存在”していたのだった。
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