異世界に突如召喚された、ごく普通の日本人女子――雪月風花(せつげつふうか)。 黒髪というだけで「聖女様!」と崇められ、魔物も災厄もすべて彼女

ふわふわ

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第1章-2:過大な期待と“過去の日本人”への怒り

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第1章-2:過大な期待と“過去の日本人”への怒り

 

「それでは、次の試験に参りましょう。こちらが“聖女の杖”です」

 

白銀に輝く細長い杖が、神官の手から風花の前へと差し出された。装飾は控えめながら、中心には淡く光る青い宝玉が埋め込まれている。いかにもそれっぽい。というかRPGの聖女ポジション装備である。

 

だが、当の風花は眉をひそめたままだ。

 

「……さっきから思うんですけど。試験とか言って、どれもこれも“魔法的な何か”ですよね?」

 

「その通りです。聖女様の“神聖な力”は、主に治癒と祝福を司ると伝えられております。過去、召喚された聖女様も、皆様高い魔力をお持ちで……」

 

「それ、まさか日本人ですよね? 過去の“召喚された聖女”って」

 

神官はこくりと頷いた。

 

「ええ、百年前に一人、五十年前に一人、そして三十年前には勇者と共に三名が召喚されました」

 

「三人同時!?」

 

初耳である。完全に“前例の壁”が分厚すぎる。風花はじわじわと怒りが込み上げてきた。

 

「で、その人たちって、ちゃんと聖女だったんですか」

 

「もちろんです。どなたも高い神聖力を持ち、戦場を癒し、国の救済に多大なる功績を……」

 

「……その人たち、何してくれてるのよおおおお!!」

 

叫びたい。いっそ目の前にタイムマシンがあったら文句言いに行きたい。

 

「ごめん、私、何の力もないんだけど!? ただのモブなんだけど!? 黒髪ってだけで“聖女様”とか過大評価にも程がある!!」

 

神官がオロオロしながらなだめにかかる。

 

「い、いえ、もしかしたら覚醒しておられないだけで……!?」

 

「都合のいいフラグ立てないでよ!? 魔力量測定ゼロだったじゃん! なんでまだ“覚醒してないだけ説”が生きてるの!?」

 

風花は頭を抱えて床に突っ伏したい衝動に駆られた。

 

 

* * *

 

「ふむ……次は“聖水への適応”を確認する」

 

場所を移しての第三試験。透明なガラスのような聖水が満ちた小さな泉の前に立たされ、杖を持った神官長らしき人物が宣言する。

 

「本来、聖水は穢れた者には拒絶反応を示す。聖女であれば、触れるだけで水が輝くはずだ」

 

「それ、ちゃんとした反応なんですか……?」

 

「さあ、どうぞ」

 

促されるままに、風花はそっと水面に手を伸ばした。冷たい。けど――

 

「………………無反応、ですね」

 

神官たちがざわつく。誰かがメモを取り、誰かが首をかしげる。

 

「この反応は……」

 

「穢れている、というわけでは……ない……が……?」

 

「いや、純度が高すぎて逆に反応しないのかも――」

 

「そんな無理やりな擁護しないで!? 自然に受け入れてよ、聖女じゃないってことを!!」

 

風花が絶叫しても、周囲は戸惑ったままの顔で、未だに“可能性”にすがっている。

 

(なんなのこの世界……ブラック企業並に現実を受け入れないな……)

 

 

* * *

 

日が傾き始めたころ、神殿内の食堂でようやく昼食にありついた風花は、スープをすくいながら、うんざりした顔でぼやいた。

 

「はぁ……私って、なに? 黒髪ってだけで伝説にされて、試されて、追い詰められて。やってらんないよ……」

 

その正面に座るのは、例の騎士団長――レオンハルト。騎士の鎧を脱いだ彼は意外にも食事中は寡黙だった。だが、ふと手を止めて口を開く。

 

「君は、本当に……何もできないのか?」

 

その言葉に、風花の眉がぴくりと跳ねた。

 

「なにそれ……まさか、あんたも疑ってるの?」

 

「……質問に答えてくれ」

 

「掃除、洗濯、料理……あと、だし巻き卵はきれいに巻けるよ。聖女の力はないけど、女子力は高いほうかと?」

 

「……我々の求めているのは、女子力ではない」

 

風花は、スプーンをカチャンと置いて無言になった。

 

「知ってるよ……そんなの、わかってる。けどね、こっちは勝手に期待されて、勝手に“聖女様”とか言われて、何もできないとわかると“使えない”って顔されて……。どこに納得すればいいの?」

 

レオンはそれを聞いて何も言わなかった。ただ、静かに風花の言葉を受け止めていた。

 

やがて風花はため息をつくと、スープを口に運びながらつぶやいた。

 

「本当にもう、“過去の召喚日本人”は何してくれてるのよ……。あんまりハイスペックなことしないでよ……後に続くのがツラいんだから」

 

その呟きには誰も返せなかった。

 

けれど――それでも、誰かが言った。

 

「それでも、君はきっと……」

 

風花は、耳を疑った。

 

(なに? また“覚醒するかもしれない”とか言うつもり? やめてよ、ほんとに……)

 

だけど、その先の言葉は、まだ届かない。

 

なぜなら、その直後に――

 

王から「聖女認定延期」の通告が届いたからだった。

 
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