異世界に突如召喚された、ごく普通の日本人女子――雪月風花(せつげつふうか)。 黒髪というだけで「聖女様!」と崇められ、魔物も災厄もすべて彼女

ふわふわ

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第3章-3:再び疑われる風花

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第3章-3:再び疑われる風花

 

「ねぇ、最近“奇跡”って起きてる?」

 

朝の神殿の中庭、花壇の手入れをしながら、風花は侍女に問いかけた。

 

「えっ? き、奇跡……ですか?」

 

侍女はぎこちなく笑い、曖昧にうなずいた。

 

「そ、それよりこちらのハーブ、虫がついていたので……私、摘んできますね!」

 

「あー、はいはい、どうぞどうぞ。逃げてもいいよ」

 

風花はスコップを置いて、腰に手を当てながら、ため息をついた。

 

「やっぱりね。私の周囲の空気、あからさまに冷たいもん」

 

エルミナが“癒しの力”を披露して以来、王宮も神殿も、民の声までもが変わった。

 

最初こそ、「黒髪の聖女がふたり」という異例の状況に困惑しつつも、王や神殿は“共存”の方針を打ち出していた。

 

だが、変化はすぐに始まった。

 

「風花様がご在位の時は、魔物が現れなかったのに……最近はまた出てくるようになりました」

 

「きっと、エルミナ様の“癒しの光”で、王都の民の苦しみは和らぐでしょう」

 

「奇跡をもたらさなかった風花様は……本当に聖女だったのでしょうか?」

 

そんな囁きが、神殿の壁の向こう側で交わされるようになっていた。

 

それはやがて、正面切った“疑い”となって風花に突きつけられる。

 

 

* * *

 

「風花殿、少々よろしいか」

 

神殿の聖堂で祈りの真似事をしていた風花に、神官長が話しかけてきた。
その背後には、エルミナと王の側近数名が控えている。

 

「なになに? また神託? それとも、また魔力量の測定でも?」

 

風花が軽口を叩くと、神官長は苦々しい表情で口を開いた。

 

「聖女としての“立場”について、改めて確認を行いたく思います」

 

「……ほう」

 

「このところ、王都周辺では再び魔物の出現が増え、土地の気候も不安定になっております。それに伴い、民の間に“風花殿の奇跡は偽りだったのでは”という声が――」

 

「それ、最初から言ってたよね? 私、“奇跡なんて起こしてない”って。都合のいい時だけ“信じてました”みたいな顔しないでよ」

 

風花の声は穏やかだったが、明らかに怒りがこもっていた。

 

「それに、“私がいたから奇跡が起きた”っていうの、証拠ないでしょ? もともと“偶然だったのかも”って話だったんだし」

 

神官長がうろたえた表情を浮かべ、代わりにエルミナが一歩前に出た。

 

「でも……もし“あなたが本当の聖女”ではないなら、それは“嘘”をついていたことになるわ」

 

「“嘘”なんてついてないし。私、ずっと“力ないです”って言い続けてたよね?」

 

「けれど、民は貴女を信じました」

 

「勝手にね!」

 

風花は苛立ちを露わにして振り返り、祭壇の方向を見つめた。

 

「私が黙ってたならまだしも、何度も何度も“聖女じゃない”って言ってきた。それを信じず、奇跡だのなんだのって盛り上がって……今度は“やっぱり偽物でした”って、なにその茶番?」

 

「……風花殿」

 

「ねぇ、王様は? “自分で聖女と認定した”ってドヤ顔してた人は、今はどこに?」

 

「……陛下は、謁見の準備中でございます」

 

(都合が悪くなると、姿を見せないんだよね。そういうとこ、変わらない)

 

風花はひとつ深く息をついてから、静かに言った。

 

「もう、いいよ。私を“偽聖女”って呼びたいなら、そう呼べばいい。どうせ最初から、私はただの黒髪女子高生だもん」

 

「……そのようにお考えであれば、風花殿には、聖女の座を“いったん”お返しいただくのが適切かと……」

 

「“いったん”ってなに? どうせ戻さないくせに」

 

神官長は黙り込んだ。
エルミナは涼しい顔で、ほんのわずかに頭を下げる。

 

「お疲れ様でした、“前”の聖女様」

 

「…………」

 

その一言が、風花の胸に深く突き刺さった。

 

(私、また“役目”から外されたんだ)

 

“何もできない”と言ったら“期待外れ”だと責められ、
“戻って”と言われて帰ったら、また“他にもっと適任がいた”と断罪される。

 

「ねぇ、レオン」

 

その夜、部屋に戻ってから、風花はぼそっとつぶやいた。

 

「なんで私、この世界に来たんだろうね」

 

レオンはすぐには答えなかった。

 

風花は続ける。

 

「力もない。魔法も使えない。勇者でも、聖女でもない。“いるだけで奇跡が起きた”って、そんな偶然、いつまで続くと思ってたのかな。そもそも、あれが偶然じゃなかったら、私の“何”が原因なの?」

 

レオンは静かに、しかしはっきりと言った。

 

「……たぶん、君の存在自体が“鍵”だったんだ。意識してない“何か”を、君が持っている」

 

「でもそれって……自分じゃコントロールできないってことでしょ? そんなん、ただの不運の神様じゃん……」

 

風花は目を閉じた。

 

「こんなもの、“力”でもなんでもないよ。――呪いだよ」

 

その言葉が、レオンの心に重く響いた。

 

そして翌日、王都から“正式な処分”が下る。

 

それは――**「2度目の追放」**という名の、切り捨て。

 
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