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第3章-2:もう一人の黒髪登場
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第3章-2:もう一人の黒髪登場
「――まさか、本当に黒髪がもう一人現れるなんて」
その知らせが届いたのは、“聖女帰還記念祭”の翌朝だった。
風花は神殿の奥、専用の私室でふかふかの朝食パンをもぐもぐしながら、その報告を受けた。報告に来たのは神殿付きの神官で、いつもは無表情で事務的な彼が、今日ばかりは明らかに困惑していた。
「……黒髪? 私以外に?」
「は……はい。民の間では“第二の聖女”とも、“真なる御方”とも囁かれております」
「またそれ?」
風花はスプーンを置いて、肩をがっくりと落とした。
「ほんと……もうやめようよそういうの。どこまで“聖女枠”空席なんだこの国……」
「で、その子はなんなの? 召喚された異世界人?」
「い、いえ、それが……」
神官は眉をひそめ、声をひそめる。
「確認の結果、国の戸籍に存在しない人物であることは確かですが、召喚の儀式記録にも該当なし。突如、王都の神殿門前に現れ、“自分こそが真の聖女である”と名乗ったそうです」
「自分で言ったの?」
「はい、堂々と」
「いや、もう、それ“自称聖女”じゃん」
風花は机に額を突っ伏した。
「まーたややこしいことになる……!」
* * *
同日午後、風花は王城内の謁見室に呼ばれていた。
そこには、王グラディウス、神殿の高位神官たち、そして……見慣れない少女がひとり。
年の頃は風花と同じくらいか、やや年下。
目を惹くのは、艶やかな漆黒のロングヘア。
風花と同じ――いや、それ以上に意図的に“神秘的な美”をまとっていた。
(うわ、黒髪美少女……しかも服が白と金のレースたっぷりで、いかにも“聖女見習い”っぽい……)
その少女は、風花が現れた瞬間、にっこりと笑みを浮かべた。
「あなたが、今の“聖女様”ね?」
声は優雅で、まるでどこかの貴族令嬢のような口調だった。
「そうだけど……誰?」
「わたくしは、エルミナ。黒髪を持つ者。そして、真の聖女です」
宣言と共に、部屋にざわめきが走る。
「エルミナ殿は、自身に神聖な癒しの力が宿っていると証言されました。そして、実際に王都郊外の難民収容所にて、数十名の病人を回復させた実績があります」
高位神官が神妙な面持ちで補足する。
(え……“実績”? いや、ちょっと待って……私、そんな実績ないよ!?)
「癒しの力が使えるって……まさか、本当に“聖女パワー”あるの?」
風花が警戒しつつ尋ねると、エルミナは微笑んだ。
「試してみる?」
そう言って、彼女は手を差し出した。
立ち上がって近づくと、エルミナの手のひらが淡く光りはじめ――
「っ……!」
神官のひとりの肩に触れた瞬間、その男が驚いたように体を起こした。
「腰の痛みが……消えた……!」
「まさか……本物の、聖なる癒し……!?」
部屋の空気が一気に変わる。
風花は後ずさりながら、視線を宙に泳がせた。
(これ……まさか、マジで“本物”……!?)
王もまた口を開く。
「……風花殿。我々は、貴女を聖女と仰ぎ、国を託した。しかし、ここに“神の力を持つもう一人”が現れた以上、その真偽を確認せねばならぬ」
「ちょ、ちょっと待って! 私、力なんてないって最初から言ってるじゃん!」
「で、でも奇跡は起きました! 国を襲っていた災厄が、あなたが帰還した日から静まったのは事実!」
「たまたまだってばー!」
「それに比べて、エルミナ殿は明確に神聖術を使用できております。王都の治療院にも協力しており、評判も高く――」
「それ、私じゃなくてもできるじゃん! ていうか、私以外の誰かができるなら、そっちがやればいいじゃん!!」
風花はとうとう、声を上げて叫んでしまった。
だが、彼女の悲鳴にも似た訴えは、もう誰の心にも届いていないようだった。
「風花殿……」
国王が重々しく言った。
「しばし、“聖女の資格”の再審を行いたいと思う。エルミナ殿には、その間、王都の守護を依頼することとする」
「…………」
風花は俯いた。
(また……はじまるんだ)
“期待”という名の押し付け。
“信仰”という名の依存。
「……あのさ。そっちの子、本当に癒せるなら、もう私いらないでしょ?」
静かにそう言い残して、風花は部屋を後にした。
(また、私は“偽物”にされるんだ――)
だが、誰も知らない。
この“もう一人の黒髪聖女”が、本当は“本物”ではないことを。
その髪の色の正体も、
その“癒しの力”の秘密も、
まだ誰にも知られてはいない――
「――まさか、本当に黒髪がもう一人現れるなんて」
その知らせが届いたのは、“聖女帰還記念祭”の翌朝だった。
風花は神殿の奥、専用の私室でふかふかの朝食パンをもぐもぐしながら、その報告を受けた。報告に来たのは神殿付きの神官で、いつもは無表情で事務的な彼が、今日ばかりは明らかに困惑していた。
「……黒髪? 私以外に?」
「は……はい。民の間では“第二の聖女”とも、“真なる御方”とも囁かれております」
「またそれ?」
風花はスプーンを置いて、肩をがっくりと落とした。
「ほんと……もうやめようよそういうの。どこまで“聖女枠”空席なんだこの国……」
「で、その子はなんなの? 召喚された異世界人?」
「い、いえ、それが……」
神官は眉をひそめ、声をひそめる。
「確認の結果、国の戸籍に存在しない人物であることは確かですが、召喚の儀式記録にも該当なし。突如、王都の神殿門前に現れ、“自分こそが真の聖女である”と名乗ったそうです」
「自分で言ったの?」
「はい、堂々と」
「いや、もう、それ“自称聖女”じゃん」
風花は机に額を突っ伏した。
「まーたややこしいことになる……!」
* * *
同日午後、風花は王城内の謁見室に呼ばれていた。
そこには、王グラディウス、神殿の高位神官たち、そして……見慣れない少女がひとり。
年の頃は風花と同じくらいか、やや年下。
目を惹くのは、艶やかな漆黒のロングヘア。
風花と同じ――いや、それ以上に意図的に“神秘的な美”をまとっていた。
(うわ、黒髪美少女……しかも服が白と金のレースたっぷりで、いかにも“聖女見習い”っぽい……)
その少女は、風花が現れた瞬間、にっこりと笑みを浮かべた。
「あなたが、今の“聖女様”ね?」
声は優雅で、まるでどこかの貴族令嬢のような口調だった。
「そうだけど……誰?」
「わたくしは、エルミナ。黒髪を持つ者。そして、真の聖女です」
宣言と共に、部屋にざわめきが走る。
「エルミナ殿は、自身に神聖な癒しの力が宿っていると証言されました。そして、実際に王都郊外の難民収容所にて、数十名の病人を回復させた実績があります」
高位神官が神妙な面持ちで補足する。
(え……“実績”? いや、ちょっと待って……私、そんな実績ないよ!?)
「癒しの力が使えるって……まさか、本当に“聖女パワー”あるの?」
風花が警戒しつつ尋ねると、エルミナは微笑んだ。
「試してみる?」
そう言って、彼女は手を差し出した。
立ち上がって近づくと、エルミナの手のひらが淡く光りはじめ――
「っ……!」
神官のひとりの肩に触れた瞬間、その男が驚いたように体を起こした。
「腰の痛みが……消えた……!」
「まさか……本物の、聖なる癒し……!?」
部屋の空気が一気に変わる。
風花は後ずさりながら、視線を宙に泳がせた。
(これ……まさか、マジで“本物”……!?)
王もまた口を開く。
「……風花殿。我々は、貴女を聖女と仰ぎ、国を託した。しかし、ここに“神の力を持つもう一人”が現れた以上、その真偽を確認せねばならぬ」
「ちょ、ちょっと待って! 私、力なんてないって最初から言ってるじゃん!」
「で、でも奇跡は起きました! 国を襲っていた災厄が、あなたが帰還した日から静まったのは事実!」
「たまたまだってばー!」
「それに比べて、エルミナ殿は明確に神聖術を使用できております。王都の治療院にも協力しており、評判も高く――」
「それ、私じゃなくてもできるじゃん! ていうか、私以外の誰かができるなら、そっちがやればいいじゃん!!」
風花はとうとう、声を上げて叫んでしまった。
だが、彼女の悲鳴にも似た訴えは、もう誰の心にも届いていないようだった。
「風花殿……」
国王が重々しく言った。
「しばし、“聖女の資格”の再審を行いたいと思う。エルミナ殿には、その間、王都の守護を依頼することとする」
「…………」
風花は俯いた。
(また……はじまるんだ)
“期待”という名の押し付け。
“信仰”という名の依存。
「……あのさ。そっちの子、本当に癒せるなら、もう私いらないでしょ?」
静かにそう言い残して、風花は部屋を後にした。
(また、私は“偽物”にされるんだ――)
だが、誰も知らない。
この“もう一人の黒髪聖女”が、本当は“本物”ではないことを。
その髪の色の正体も、
その“癒しの力”の秘密も、
まだ誰にも知られてはいない――
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