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第3章-1:聖女としての不自由な生活
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第3章-1:聖女としての不自由な生活
王都に“戻ってきただけ”で天災も魔物の襲来もおさまり、王と民から再び「聖女様!」と祭り上げられた雪月風花。
しかしその実、彼女自身にはいまだに一切の魔力も奇跡も備わっていない――ただ、“なぜか彼女がいると何もかもが好転する”という、それだけの事実がひとり歩きしていた。
そして今――
「……はぁ。完全に神殿の飾りになってるじゃん、私」
風花は広すぎる部屋の中心で、ぼやいていた。
白を基調とした部屋には、豪華な天蓋付きのベッド、ふかふかの絨毯、果物と花が飾られた金の盆、窓際には警護の騎士、ドアの外には侍女と神官が控えている。
「お食事は温かいうちにお召し上がりくださいませ、聖女様」
「お背中をお流しいたしますので、どうぞお脱ぎくださいませ、聖女様」
「ご祈祷の時間でございます、聖女様」
朝から晩まで“聖女様”尽くし。
まるで豪華な鳥かごの中に閉じ込められた気分だ。
「いや、ありがたいんだよ? 衣食住、完璧で。部屋も清潔、食事は美味しい、お風呂はバラの香り。でもさ……」
風花はスプーンをつつきながら、小声で続けた。
「私って、ここに“いるだけ”でいいわけ? それって、私じゃなくてもよくない?」
本当に、ただ神殿の“象徴”になっているだけだった。
民は“聖女様が戻ってきてくださったから国が救われた”と信じ、王もそれを全面的に支持していた。
国王グラディウスは、以前よりもずっと柔和な態度を見せるようになり、頻繁に「風花様の御意向に従いましょう」と頭を下げるようになった。
……けれど、それは同時に“あなたはもう国の精神的支柱なんですから、黙ってそこにいてください”という意味でもあった。
(完全に“御神体”扱い……!)
風花はスープを飲み干し、ベッドに転がって大きくため息をついた。
* * *
そして夜――
王宮のバルコニーに出て、静かな夜風を浴びていた風花の隣に、誰かの足音が近づく。
「ここにいたのか、風花」
振り返ると、レオンがいた。
「お仕事終わり? 騎士団長さんは夜も忙しいのね」
「王城内の警備体制を見直していたところだ。おかげで、聖女様のいる神殿周辺は警護が三重になった」
「いや、それ過剰警備すぎない? 私、ただ座ってるだけだよ?」
風花は思わず肩をすくめた。
レオンは彼女の隣に並び、夜の王都を見下ろす。
下では、町のあちこちに灯りがともり、人々が賑やかに祭りの準備をしている様子が見えた。
「……明日は“聖女帰還記念祭”だそうだ」
「記念祭? なにそれ、私が戻ってきた記念でお祭りするの?」
「ああ。民が自主的に企画したらしい。神殿も王宮も全面協力する形だ」
「うわぁ……私、そこに座って“にこにこしてるだけ”でまた役目果たしたことになるの?」
「そうなるな」
風花は小さく笑った。
その笑みには、少し疲れもにじんでいた。
「ねぇ、レオン。こんなのって、おかしくない?」
「おかしいさ。でも、君がそこにいるだけで、国が立ち直っているのも事実だ」
「……だったら、私の代わりに、等身大パネルでも置いといてくれないかな」
「それでは空が晴れないだろう」
「そういう問題!?」
思わず突っ込んだ風花だったが、すぐに笑ってしまった。
「……でも、わかってるんだよ。みんな、“私が何かをした”って信じたいんだよね」
「信じることで、救われる人がいる。それは決して悪いことではない」
「……私は救われてないよ」
ぽつりと、風花は呟いた。
「期待されて、奇跡って言われて……でも、私自身は、何もしてない。ただ、怖いだけ。何もできないまま、“また”裏切ってしまうんじゃないかって」
レオンはしばらく黙っていたが、やがて優しい声で告げた。
「誰かを救う力がある者が、必ずしも“何かをする”必要はない。君の存在そのものが、この国の希望なんだ」
「……でも、私は“ただのモブ市民”なんだよ?」
「君の“ただの”は、この世界にとっては特別だ」
風花は、そっと風に髪をなびかせながら、夜空を見上げた。
星が静かにまたたいていた。
まるで「あなたはここにいていいんだよ」と語りかけるように。
(そっか……私、今、無理してない)
王都に戻ってきたときとは違う。
あの頃は、“聖女”の肩書が重くて仕方なかった。
でも今は、その重みを少しずつ受け入れつつある自分がいた。
「……私、がんばってる?」
「十分すぎるほどにな」
レオンの言葉に、風花は照れくさそうに笑った。
「じゃあ、明日は“祭りの聖女様”として、最高の笑顔で手を振るか。誰にもバレないように、“女子力スマイル”でね」
「……それは、いい笑顔だ」
そして風花は、もう一度空を見上げた。
(私は何もできない“はず”だった。けど……もしかして、“いるだけでいい”っていうのも、力の一種なのかもしれない)
この夜、風花はようやく“聖女”という肩書きを、自分の一部として受け入れ始めていた。
王都に“戻ってきただけ”で天災も魔物の襲来もおさまり、王と民から再び「聖女様!」と祭り上げられた雪月風花。
しかしその実、彼女自身にはいまだに一切の魔力も奇跡も備わっていない――ただ、“なぜか彼女がいると何もかもが好転する”という、それだけの事実がひとり歩きしていた。
そして今――
「……はぁ。完全に神殿の飾りになってるじゃん、私」
風花は広すぎる部屋の中心で、ぼやいていた。
白を基調とした部屋には、豪華な天蓋付きのベッド、ふかふかの絨毯、果物と花が飾られた金の盆、窓際には警護の騎士、ドアの外には侍女と神官が控えている。
「お食事は温かいうちにお召し上がりくださいませ、聖女様」
「お背中をお流しいたしますので、どうぞお脱ぎくださいませ、聖女様」
「ご祈祷の時間でございます、聖女様」
朝から晩まで“聖女様”尽くし。
まるで豪華な鳥かごの中に閉じ込められた気分だ。
「いや、ありがたいんだよ? 衣食住、完璧で。部屋も清潔、食事は美味しい、お風呂はバラの香り。でもさ……」
風花はスプーンをつつきながら、小声で続けた。
「私って、ここに“いるだけ”でいいわけ? それって、私じゃなくてもよくない?」
本当に、ただ神殿の“象徴”になっているだけだった。
民は“聖女様が戻ってきてくださったから国が救われた”と信じ、王もそれを全面的に支持していた。
国王グラディウスは、以前よりもずっと柔和な態度を見せるようになり、頻繁に「風花様の御意向に従いましょう」と頭を下げるようになった。
……けれど、それは同時に“あなたはもう国の精神的支柱なんですから、黙ってそこにいてください”という意味でもあった。
(完全に“御神体”扱い……!)
風花はスープを飲み干し、ベッドに転がって大きくため息をついた。
* * *
そして夜――
王宮のバルコニーに出て、静かな夜風を浴びていた風花の隣に、誰かの足音が近づく。
「ここにいたのか、風花」
振り返ると、レオンがいた。
「お仕事終わり? 騎士団長さんは夜も忙しいのね」
「王城内の警備体制を見直していたところだ。おかげで、聖女様のいる神殿周辺は警護が三重になった」
「いや、それ過剰警備すぎない? 私、ただ座ってるだけだよ?」
風花は思わず肩をすくめた。
レオンは彼女の隣に並び、夜の王都を見下ろす。
下では、町のあちこちに灯りがともり、人々が賑やかに祭りの準備をしている様子が見えた。
「……明日は“聖女帰還記念祭”だそうだ」
「記念祭? なにそれ、私が戻ってきた記念でお祭りするの?」
「ああ。民が自主的に企画したらしい。神殿も王宮も全面協力する形だ」
「うわぁ……私、そこに座って“にこにこしてるだけ”でまた役目果たしたことになるの?」
「そうなるな」
風花は小さく笑った。
その笑みには、少し疲れもにじんでいた。
「ねぇ、レオン。こんなのって、おかしくない?」
「おかしいさ。でも、君がそこにいるだけで、国が立ち直っているのも事実だ」
「……だったら、私の代わりに、等身大パネルでも置いといてくれないかな」
「それでは空が晴れないだろう」
「そういう問題!?」
思わず突っ込んだ風花だったが、すぐに笑ってしまった。
「……でも、わかってるんだよ。みんな、“私が何かをした”って信じたいんだよね」
「信じることで、救われる人がいる。それは決して悪いことではない」
「……私は救われてないよ」
ぽつりと、風花は呟いた。
「期待されて、奇跡って言われて……でも、私自身は、何もしてない。ただ、怖いだけ。何もできないまま、“また”裏切ってしまうんじゃないかって」
レオンはしばらく黙っていたが、やがて優しい声で告げた。
「誰かを救う力がある者が、必ずしも“何かをする”必要はない。君の存在そのものが、この国の希望なんだ」
「……でも、私は“ただのモブ市民”なんだよ?」
「君の“ただの”は、この世界にとっては特別だ」
風花は、そっと風に髪をなびかせながら、夜空を見上げた。
星が静かにまたたいていた。
まるで「あなたはここにいていいんだよ」と語りかけるように。
(そっか……私、今、無理してない)
王都に戻ってきたときとは違う。
あの頃は、“聖女”の肩書が重くて仕方なかった。
でも今は、その重みを少しずつ受け入れつつある自分がいた。
「……私、がんばってる?」
「十分すぎるほどにな」
レオンの言葉に、風花は照れくさそうに笑った。
「じゃあ、明日は“祭りの聖女様”として、最高の笑顔で手を振るか。誰にもバレないように、“女子力スマイル”でね」
「……それは、いい笑顔だ」
そして風花は、もう一度空を見上げた。
(私は何もできない“はず”だった。けど……もしかして、“いるだけでいい”っていうのも、力の一種なのかもしれない)
この夜、風花はようやく“聖女”という肩書きを、自分の一部として受け入れ始めていた。
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