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第2章-4:しぶしぶ帰還、しかし奇跡が起こる
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第2章-4:しぶしぶ帰還、しかし奇跡が起こる
王都からの再三の使者を断り、風花は再び静かな日常に戻った。
辺境の村の空気は変わらず清らかで、朝露に濡れた野菜は艶やかに光り、夜には満天の星が広がっていた。
「ここでずっと暮らせたらなぁ……」
夕暮れ時、畑の水やりを終えた風花は、そんな風にぽつりと呟いた。
レオンはその隣で鍬を置きながら、静かに頷いた。
「君の笑顔が、こんなに穏やかなのは初めて見る」
「だってね、王都にいたときは……“聖女様”って呼ばれるたびに、心が苦しくなってたの」
風花はそっと胸元に手を置き、小さく息を吐いた。
「ただ、そこにいるだけで“特別”扱いされて、“救世の希望”だなんて持ち上げられて……。違うって言っても聞いてくれなくて、結果、“偽者”扱い」
「……君が何度も“力はない”と叫んでいた姿、今でも覚えてる」
「なのに、今さら戻ってきてくれって。さすがにあれはないよね」
風花は自嘲気味に笑ってみせた。
だが、その翌朝。村に早馬が駆け込んだ。
馬の背に乗っていたのは、王都の緊急連絡を届ける伝令兵。服は泥にまみれ、顔色も悪く、まるで地獄から這い出してきたような形相だった。
「セ、セレティア王国、王都――魔物に囲まれています! 王城にまで……!」
村人たちがどよめき、レオンが即座に前に出た。
「詳細を話せ!」
「三日前から、城壁周辺の森にいた魔物たちが突如として活性化し、群れを成して移動を開始! 昨日には市街にまで突入し、城下町が壊滅状態に……!」
「王と王妃は無事なのか!?」
「はい……ですが、宮廷魔導師団も壊滅、神殿の聖騎士団も持ちこたえられず……! 民衆は“これは聖女追放の呪いだ”と叫び、暴動が……!」
風花はその場で立ちすくんだ。
(やっぱり、また……私がいなくなったから?)
彼女の胸に、焦燥と罪悪感がゆっくりと押し寄せてくる。
「……でも、行かないって決めたじゃない……。もう、あんな目に遭いたくない……」
そう呟く風花の肩に、そっと手を置いたのはレオンだった。
「風花。これは君にしかできないことだ。君がそこにいるだけで、あの国が救われたなら――」
「でも、私は何もしてない! 本当に、ただいた“だけ”なんだよ!? それが力だって言うなら、もう意味がわかんないよ……!」
「それでも、誰かの命が助かるなら。……それでも、君がこの世界に必要とされているなら」
レオンの目はまっすぐだった。押しつけでも、命令でもない。ただ、“信じている”という意思だけがあった。
風花はしばらく黙って、そして――
「……わかった。ただし、“奇跡”を期待しないでって、伝えて。私は、私の意思で行く。それだけだから」
* * *
王都へ向かう道中は、かつての旅とは違っていた。
風花は旅装束に身を包み、髪はきちんと結い上げられている。馬の上ではなく、レオンの馬車の中で静かに揺られながら、時折窓の外の風景を見つめていた。
王都の近くに差しかかった頃、空は不穏な灰色に染まり、風は湿った獣の臭いを運んでくる。
「……やっぱり、本当に……襲われてるんだね」
「ここまで酷いのは久しぶりだ。魔物が群れで行動するのは、普通あり得ない」
「まるで……」
「聖女の不在を“感じ取った”かのように、だな」
王都の城門に着く頃には、町はもはやかつての面影を失っていた。
街道沿いの家屋は瓦礫と化し、焼け焦げた屋根、折れた柵、泣き叫ぶ子どもたちの声、血まみれの騎士……。
「…………」
風花は、震える脚を無理に前に出しながら、門をくぐった。
すると――
その瞬間、空に渦巻いていた黒い雲が、ふっと音もなく晴れていった。
「え……?」
レオンも、伝令兵も、そして迎えに出ていた神官たちも、言葉を失った。
空が青く澄み渡り、風が静かに吹き、どこからか鳥のさえずりが聞こえ始める。
地面に積もっていた魔物の腐臭すら、次第に霧散していく。
「……ば、馬鹿な……風花様が、門をくぐった瞬間に……」
「これは、奇跡……?」
「ち、違う、これは、たまたま……! 偶然だよ!」
風花はそう叫びながら、自分の手を見つめた。
そこに、光も、魔力も、何の力も宿ってなどいなかった。ただ、少しだけ震えているだけ。
「私、何もしてない。ただ、戻ってきただけなのに……」
それでも、王都の人々は彼女を見た。
「……聖女様だ……」
「聖女様が……お戻りになった……!」
「救われた……!」
一斉に地に膝をつき、祈るように手を合わせる人々。その中心に立つ黒髪の少女は、何も言えず、ただ困ったように笑っていた。
「……だから言ったじゃん、力なんてないってば……」
その日。
聖女・雪月風花は、“二度目の奇跡”を起こした存在として、再び王都に迎え入れられた。
王都からの再三の使者を断り、風花は再び静かな日常に戻った。
辺境の村の空気は変わらず清らかで、朝露に濡れた野菜は艶やかに光り、夜には満天の星が広がっていた。
「ここでずっと暮らせたらなぁ……」
夕暮れ時、畑の水やりを終えた風花は、そんな風にぽつりと呟いた。
レオンはその隣で鍬を置きながら、静かに頷いた。
「君の笑顔が、こんなに穏やかなのは初めて見る」
「だってね、王都にいたときは……“聖女様”って呼ばれるたびに、心が苦しくなってたの」
風花はそっと胸元に手を置き、小さく息を吐いた。
「ただ、そこにいるだけで“特別”扱いされて、“救世の希望”だなんて持ち上げられて……。違うって言っても聞いてくれなくて、結果、“偽者”扱い」
「……君が何度も“力はない”と叫んでいた姿、今でも覚えてる」
「なのに、今さら戻ってきてくれって。さすがにあれはないよね」
風花は自嘲気味に笑ってみせた。
だが、その翌朝。村に早馬が駆け込んだ。
馬の背に乗っていたのは、王都の緊急連絡を届ける伝令兵。服は泥にまみれ、顔色も悪く、まるで地獄から這い出してきたような形相だった。
「セ、セレティア王国、王都――魔物に囲まれています! 王城にまで……!」
村人たちがどよめき、レオンが即座に前に出た。
「詳細を話せ!」
「三日前から、城壁周辺の森にいた魔物たちが突如として活性化し、群れを成して移動を開始! 昨日には市街にまで突入し、城下町が壊滅状態に……!」
「王と王妃は無事なのか!?」
「はい……ですが、宮廷魔導師団も壊滅、神殿の聖騎士団も持ちこたえられず……! 民衆は“これは聖女追放の呪いだ”と叫び、暴動が……!」
風花はその場で立ちすくんだ。
(やっぱり、また……私がいなくなったから?)
彼女の胸に、焦燥と罪悪感がゆっくりと押し寄せてくる。
「……でも、行かないって決めたじゃない……。もう、あんな目に遭いたくない……」
そう呟く風花の肩に、そっと手を置いたのはレオンだった。
「風花。これは君にしかできないことだ。君がそこにいるだけで、あの国が救われたなら――」
「でも、私は何もしてない! 本当に、ただいた“だけ”なんだよ!? それが力だって言うなら、もう意味がわかんないよ……!」
「それでも、誰かの命が助かるなら。……それでも、君がこの世界に必要とされているなら」
レオンの目はまっすぐだった。押しつけでも、命令でもない。ただ、“信じている”という意思だけがあった。
風花はしばらく黙って、そして――
「……わかった。ただし、“奇跡”を期待しないでって、伝えて。私は、私の意思で行く。それだけだから」
* * *
王都へ向かう道中は、かつての旅とは違っていた。
風花は旅装束に身を包み、髪はきちんと結い上げられている。馬の上ではなく、レオンの馬車の中で静かに揺られながら、時折窓の外の風景を見つめていた。
王都の近くに差しかかった頃、空は不穏な灰色に染まり、風は湿った獣の臭いを運んでくる。
「……やっぱり、本当に……襲われてるんだね」
「ここまで酷いのは久しぶりだ。魔物が群れで行動するのは、普通あり得ない」
「まるで……」
「聖女の不在を“感じ取った”かのように、だな」
王都の城門に着く頃には、町はもはやかつての面影を失っていた。
街道沿いの家屋は瓦礫と化し、焼け焦げた屋根、折れた柵、泣き叫ぶ子どもたちの声、血まみれの騎士……。
「…………」
風花は、震える脚を無理に前に出しながら、門をくぐった。
すると――
その瞬間、空に渦巻いていた黒い雲が、ふっと音もなく晴れていった。
「え……?」
レオンも、伝令兵も、そして迎えに出ていた神官たちも、言葉を失った。
空が青く澄み渡り、風が静かに吹き、どこからか鳥のさえずりが聞こえ始める。
地面に積もっていた魔物の腐臭すら、次第に霧散していく。
「……ば、馬鹿な……風花様が、門をくぐった瞬間に……」
「これは、奇跡……?」
「ち、違う、これは、たまたま……! 偶然だよ!」
風花はそう叫びながら、自分の手を見つめた。
そこに、光も、魔力も、何の力も宿ってなどいなかった。ただ、少しだけ震えているだけ。
「私、何もしてない。ただ、戻ってきただけなのに……」
それでも、王都の人々は彼女を見た。
「……聖女様だ……」
「聖女様が……お戻りになった……!」
「救われた……!」
一斉に地に膝をつき、祈るように手を合わせる人々。その中心に立つ黒髪の少女は、何も言えず、ただ困ったように笑っていた。
「……だから言ったじゃん、力なんてないってば……」
その日。
聖女・雪月風花は、“二度目の奇跡”を起こした存在として、再び王都に迎え入れられた。
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