『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ

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第二十話 選ばれる側から、選ぶ側へ

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第二十話 選ばれる側から、選ぶ側へ

 王都に初夏の風が吹き始めた。

 再建区画の石壁はほぼ完成し、足場は外され、真新しい窓枠が陽を反射している。市場の声は以前より明るく、港湾の積荷も順調だ。

 数字は、確かに回復している。

 だが、王宮の奥では、別の議論が静かに進んでいた。

「王太子殿下の地方視察を提案いたします」

 ガレインが評議会で告げる。

「視察?」

 レオニードが眉を上げる。

「はい。再建が進む現場を直接ご覧いただくことで、民の信頼を可視化できます」

 国王が頷く。

「制度の上で動いていることを、民に示せ」

 それは命令ではなく、機会だった。

 レオニードはしばらく沈黙し、やがて言う。

「行こう」

 その一言で、流れが決まった。

 一方、教育機関。

 本日の講義は「視察と公的発言」。

「王妃は、王の言葉の重さを知っていなければなりません」

 私は壇上で言う。

「視察で何を語るか。それが市場を動かします」

 ミレーヌは真剣な表情で耳を傾けている。

「励ましだけでは不十分です」

 私は黒板に二つの言葉を書く。

『感情』と『具体策』。

「この二つが揃って、初めて信用になります」

 講義後、彼女は私に近づいた。

「殿下が地方視察に行かれます」

「存じております」

「わたくしも同行します」

 その声は、以前より強い。

「よろしいのですか」

「隣に立つと決めました」

 私は一瞬、目を細める。

「ならば、準備を」

「準備?」

「数字を把握してください。再建率、雇用回復率、税収推移」

 彼女は頷く。

「はい」

 王宮。

 視察当日。

 再建区画に王家の馬車が到着する。

 民衆が集まり、ざわめく。

「殿下だ」

「王太子妃様も」

 レオニードは石壁に触れ、職人と言葉を交わす。

「工事は順調か」

「おかげさまで」

 そのやり取りは穏やかだ。

 だが、民が待っているのは言葉。

 彼は振り返り、集まった人々を見る。

「再建は進んでいる」

 一瞬、言葉が途切れる。

 そこで、ミレーヌが一歩前に出た。

「本区画の再建率は八割を超えました」

 民がどよめく。

「残る二割も、来月中には完了予定です」

 具体的な数字。

 安心が、形を持つ。

 レオニードは彼女を横目で見る。

 そして続ける。

「王家は、制度の下で再建を支える。皆の生活を守る」

 拍手が起きる。

 それは大きくはない。

 だが、確かな音。

 夜。

 王宮へ戻った後。

「……助かった」

 レオニードが小さく言う。

「数字は力です」

 ミレーヌは答える。

「君は変わったな」

「学びましたから」

 その言葉に、彼はふっと笑う。

 一方、私は報告を受けていた。

「視察、成功と見られます」

「市場反応は?」

「好意的」

 私は窓の外を見る。

 王宮の灯りは、以前より安定している。

 今日、初めて。

 王太子は“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”として言葉を発した。

 制度に従い、数字を把握し、理を受け入れた上で。

 その横に、学んだ者が立っていた。

 均衡は崩れていない。

 むしろ、強くなった。

 だが、私は忘れない。

 これは終わりではない。

 信用は積み重ね。

 そして、選択は続く。

 玉座の隣は、空白ではなくなった。

 だが、その席に立ち続けるには、理を持ち続けねばならない。

 私は静かに書類を閉じる。

「さて……」

 次は、王家が自ら制度を提案できるかどうか。

 均衡は、いま新たな段階へ入ろうとしている。
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