『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ

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第十九話 誇りの重さ

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第十九話 誇りの重さ

 王都に、再び小さな波が立った。

 原因は数字ではない。

 言葉だった。

「王妃教育機関での発言、殿下の判断を牽制しているらしい」

 そんな噂が、いつの間にか広がっていた。

 誰が言い出したのか分からない。

 だが、言葉は独り歩きする。

 王宮、評議会前の控室。

「殿下、外部商会が軍需拡張案の再検討を要請しております」

 ガレインが静かに告げる。

「再検討だと?」

「はい。隣国の動きが活発化しているとの報告」

 レオニードは顎に手を当てる。

 軍を強めるべきだという直感はある。

 だが、いまは制度の下。

「評議会にかける」

「はい」

 会議室。

「軍需費増額案、提出します」

 レオニードの声は落ち着いている。

 だが、その奥に熱がある。

「財源は?」

 即座に問われる。

「港湾収益の一部転用」

「再建事業への影響は?」

 沈黙。

 そこに、私はいない。

 だが、制度は動いている。

「段階的増額ならば」

 大臣の一人が提案する。

「即時ではなく、四半期ごとに見直しを」

 議論は続き、最終的に修正案で可決された。

 全面増額ではない。

 抑制付きの承認。

 会議後。

 レオニードは静かに息を吐く。

 勝ちではない。

 だが、負けでもない。

 一方、教育機関。

 本日の講義は「軍事と財政の均衡」。

 偶然ではない。

「軍は必要です。しかし、財源がなければ維持できません」

 私は黒板に線を引く。

「王妃が担うのは、王の情熱と国の持続の均衡」

 視線が集まる。

 ミレーヌは静かにノートを取っている。

 やがて、彼女が手を挙げる。

「軍の増額は、民の安心にも繋がります」

「その通りです」

「ですが、生活が圧迫されれば、不安は別の形で広がります」

 教室が静まる。

「安心とは、軍だけでは作れない」

 その言葉は、重みを持っていた。

 講義後。

 廊下で侯爵令嬢が囁く。

「王太子妃様、今日は殿下の議題と重なっていましたね」

「偶然かしら」

 偶然ではない。

 だが、私は軍需増額を否定していない。

 均衡を説いただけ。

 夜。

 王宮の書斎。

 レオニードは評議会の議事録と教育機関の講義記録を並べていた。

 そこに書かれた言葉。

『安心は軍だけでは作れない』

 彼はゆっくりと目を閉じる。

「牽制か」

 呟く。

 だが、その声には怒りよりも葛藤が混じる。

 ミレーヌが扉を叩く。

「殿下」

「入れ」

「本日の講義で……」

 彼女は迷いながらも言葉を続ける。

「軍事は大切です。でも、民の生活も」

 レオニードは彼女を見つめる。

「君は私に反対するのか」

「いいえ」

 即答だった。

「支えたいのです」

 沈黙。

 その沈黙の中で、誇りが揺れる。

「私は弱く見えるか」

「いいえ」

 彼女は首を振る。

「強いからこそ、耳を貸してほしいのです」

 その言葉は、真っ直ぐだった。

 夜更け。

 私は書類を閉じ、窓の外を見る。

 王宮の灯りが、静かに瞬く。

 制度は機能している。

 軍需増額は抑制付きで承認された。

 均衡は保たれた。

 だが、いま試されているのは制度ではない。

 誇り。

 王の誇りと、王妃の覚悟。

 並び立つ影は、まだ完全に重なっていない。

 だが、背を向けてもいない。

 私は小さく呟く。

「誇りは、重いものですわね」

 持ち上げるのではない。

 支え合うもの。

 王都は静かだ。

 だが、その静けさの奥で、均衡はさらに深く結び直されようとしている。
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