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第十八話 並び立つ影
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第十八話 並び立つ影
王妃教育機関に王太子妃候補が通い始めたという事実は、瞬く間に王都全域へ広がった。
市場でも、港でも、貴族の応接間でも。
「本当に通われているのか?」
「しかも中央の席だそうだ」
「逃げていないのね」
その言葉には、嘲りよりも驚きが混じっていた。
挑まれた者が、逃げずに立つ。
それは想定外だったのだ。
王宮では、空気がわずかに変わっていた。
「殿下、評議会前に教育機関の講義記録が届いております」
ガレインが書類を差し出す。
レオニードは受け取り、目を通す。
そこにはミレーヌの発言も記録されていた。
『危機時の判断は文書化すべき』
彼は目を細める。
その言葉は、自分に向けられたものではない。
だが、どこか胸に刺さる。
「……彼女らしい」
小さく呟く。
否定でも、皮肉でもない。
一方、教育機関。
本日の講義は「外交交渉の実践」。
私は机を二つに分け、模擬交渉を行わせた。
「片方は王国代表。もう片方は隣国商会」
侯爵令嬢が強く主張する。
「関税は下げられません」
対する伯爵令嬢が反論。
「では我が国は他港へ移ります」
議論が熱を帯びる。
その中で、ミレーヌは静かに聞いていた。
やがて、口を開く。
「関税を全面ではなく、段階的に引き下げるのはいかがでしょう」
室内が止まる。
「代わりに港湾使用期間を延長。双方に利益が残ります」
私はわずかに頷いた。
「妥協は敗北ではありません」
彼女の視線は、まっすぐ前を向いている。
優しさだけではない。
考え、選び、言葉にする。
講義後。
廊下で令嬢たちが囁く。
「王太子妃様、思ったより……」
「ええ、意見を持っている」
比較の色が、少しずつ薄れていく。
王宮の庭園。
レオニードはシリウス公爵と向き合っていた。
「教育機関、どう見る」
「制度としては成功」
「彼女は……」
「成長している」
即答だった。
「それをどう思うかは、殿下次第」
レオニードは空を見上げる。
自分が守るべきだと思っていた存在が、歩き始めている。
守るだけでは足りない。
並び立つ。
その意味を、初めて考える。
夜。
教育機関の執務室。
私は講義記録を整理していた。
「参加者の発言、質が上がっております」
「良いことです」
「王太子妃候補様も」
「ええ」
私はペンを置く。
「彼女は、逃げなかった」
それが何より重要だった。
制度は冷たいが、公平。
努力は数字のように積み上がる。
窓の外、王宮の灯りが揺れる。
かつては対立の影が濃かった。
いまは、並び立つ影が見え始めている。
だが、それは完全な和解ではない。
レオニードの誇りはまだ鋭い。
私の理も揺るがない。
均衡は微妙な糸で保たれている。
王妃の席は、空白ではなくなった。
だが、その隣に立つ王もまた、変わらねばならない。
影は二つ。
どちらが前に出るのか。
あるいは、並ぶのか。
王都は、静かにその行方を見つめていた。
王妃教育機関に王太子妃候補が通い始めたという事実は、瞬く間に王都全域へ広がった。
市場でも、港でも、貴族の応接間でも。
「本当に通われているのか?」
「しかも中央の席だそうだ」
「逃げていないのね」
その言葉には、嘲りよりも驚きが混じっていた。
挑まれた者が、逃げずに立つ。
それは想定外だったのだ。
王宮では、空気がわずかに変わっていた。
「殿下、評議会前に教育機関の講義記録が届いております」
ガレインが書類を差し出す。
レオニードは受け取り、目を通す。
そこにはミレーヌの発言も記録されていた。
『危機時の判断は文書化すべき』
彼は目を細める。
その言葉は、自分に向けられたものではない。
だが、どこか胸に刺さる。
「……彼女らしい」
小さく呟く。
否定でも、皮肉でもない。
一方、教育機関。
本日の講義は「外交交渉の実践」。
私は机を二つに分け、模擬交渉を行わせた。
「片方は王国代表。もう片方は隣国商会」
侯爵令嬢が強く主張する。
「関税は下げられません」
対する伯爵令嬢が反論。
「では我が国は他港へ移ります」
議論が熱を帯びる。
その中で、ミレーヌは静かに聞いていた。
やがて、口を開く。
「関税を全面ではなく、段階的に引き下げるのはいかがでしょう」
室内が止まる。
「代わりに港湾使用期間を延長。双方に利益が残ります」
私はわずかに頷いた。
「妥協は敗北ではありません」
彼女の視線は、まっすぐ前を向いている。
優しさだけではない。
考え、選び、言葉にする。
講義後。
廊下で令嬢たちが囁く。
「王太子妃様、思ったより……」
「ええ、意見を持っている」
比較の色が、少しずつ薄れていく。
王宮の庭園。
レオニードはシリウス公爵と向き合っていた。
「教育機関、どう見る」
「制度としては成功」
「彼女は……」
「成長している」
即答だった。
「それをどう思うかは、殿下次第」
レオニードは空を見上げる。
自分が守るべきだと思っていた存在が、歩き始めている。
守るだけでは足りない。
並び立つ。
その意味を、初めて考える。
夜。
教育機関の執務室。
私は講義記録を整理していた。
「参加者の発言、質が上がっております」
「良いことです」
「王太子妃候補様も」
「ええ」
私はペンを置く。
「彼女は、逃げなかった」
それが何より重要だった。
制度は冷たいが、公平。
努力は数字のように積み上がる。
窓の外、王宮の灯りが揺れる。
かつては対立の影が濃かった。
いまは、並び立つ影が見え始めている。
だが、それは完全な和解ではない。
レオニードの誇りはまだ鋭い。
私の理も揺るがない。
均衡は微妙な糸で保たれている。
王妃の席は、空白ではなくなった。
だが、その隣に立つ王もまた、変わらねばならない。
影は二つ。
どちらが前に出るのか。
あるいは、並ぶのか。
王都は、静かにその行方を見つめていた。
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