婚約破棄された令嬢は、誰にも選ばれずに選び続ける

ふわふわ

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第35話 選ばなかった代償

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第35話 選ばなかった代償

 王都からの報せは、もう“事件”として扱われなくなっていた。

 誰かが失脚することは、珍しくない。
 だが、“判断しない人間が場を失う”という結末は、静かに周囲へ浸透していく。

 午前、レオニスが一枚の簡潔な報告書を持ってきた。

「……エドガー・バルディン伯爵は、
 王都郊外の別邸へ移されました」

「移された、ですか」

「はい。
 公式には“静養”ですが、
 実質的には、判断の場から外された状態です」

 私は頷いた。

 名は残る。
 だが、決める場所がない。

 それは、王都における最も分かりやすい“終わり”だ。

「彼から、連絡は?」

「……ありません」

「そうでしょうね」

 選ばなかった者は、
 最後に“沈黙”を選ぶことが多い。

 午後、私は城内の研修室を訪れた。
 新しく加わった官吏たちが、実務の議論をしている。

「この条件だと、
 短期的な反発は避けられません」

「ですが、基準を明文化すれば――」

 言葉が自然と交わされている。
 上を見ない。
 顔色を読まない。

 判断を、ここで完結させている。

「……いい流れですね」

 私の声に、彼らは一斉に背筋を伸ばす。

「続けてください。
 結論は、あなた方が出すものです」

 それだけ告げて、私は部屋を出た。

 夕刻、城壁の上で、クラウスと風に当たる。

「終わったな」

「ええ」

「同情は?」

「ありません」

 即答だった。

「代償は、
 彼が選ばなかったこと、そのものです」

 エドガーは、
 不運だったのではない。
 裏切られたわけでもない。

 ただ、
 決めないことで、
 すべてを先送りにした。

 夜、私は一通の未開封の封書を取り出す。
 差出人は、エドガー。

 しばらく眺めてから、
 静かに引き出しの奥へ戻した。

「……もう、読む必要はありませんね」

 彼が何を書いたかは、重要ではない。
 重要なのは、
 今、何も選んでいないという事実だ。

 窓の外、灯りは穏やかに続いている。

 ここでは、
 選ばなかった代償が、
 誰かに押し付けられることはない。

 自分で引き受ける。
 それが、最低条件だ。

 私は机に戻り、
 次の案件に目を通す。

 未来は、
 誰かが差し出すものではない。

 選び、
 決め、
 引き受けた者だけが、
 進める。

 選ばなかった代償は、
 静かだ。
 だが、確実だ。

 そして私は、
 もうその代償を、
 肩代わりする立場ではない。

 それでいい。

 それが――
 私が選び続けてきた結果なのだから。
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