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第十八話 選ばれなかった側
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第十八話 選ばれなかった側
王都で新たな噂が流れ始めたのは、秋の終わり頃だった。
「ルクセリア公爵家が、北方の大規模事業に参入するらしい」 「複数の商会が共同出資だとか」
名が挙がる。
中心にいるのは、エルミリア。
かつて“帳簿を握る商人のような令嬢”と評された彼女だ。
だが今、その呼び名は変わっていた。
「堅実で信頼できる」 「金の扱いが確実だ」
評価は、静かに積み上がっている。
一方、ラトゥール侯爵邸では。
「北方の件、我が家にも打診はなかったのか」
ギヨームは不機嫌に問う。
ヴィオレーヌは淡々と答える。
「ございません」
「なぜだ」
「資金的余裕と、信用の問題でございます」
冷静な事実。
「我が家は安定しているはずだ」
「再編中でございます」
彼女は帳簿を閉じる。
「大規模な新規事業に乗る段階ではございません」
つまり――選ばれなかった。
ギヨームは言葉を失う。
かつては、自然と声がかかった。
侯爵家の名だけで。
今は違う。
名だけでは足りない。
「ルクセリア家は……」
彼は低く呟く。
「資金も、信用も十分でございます」
ヴィオレーヌは否定しない。
「そして、決断が早い」
その一言が重い。
ギヨームは窓の外を見る。
選ばれなかった側。
その言葉が頭に浮かぶ。
夜。
王宮の小さな集まりで、エルミリアは静かに会話を交わしていた。
「大胆な決断ですね」 「いえ、準備を重ねただけでございます」
彼女の周囲には、自然と人が集まる。
媚びない。
誇らない。
ただ、責任を語る。
「ルクセリア家と組めば安心だ」
そんな声が聞こえる。
彼女はそれを聞いても表情を変えない。
信用は、目的ではない。
結果だ。
帰路につく馬車の中で、エルミリアは窓の外を見つめる。
「ラトゥール家は安定しております」
執事が報告する。
「ええ」
「奥様が手堅く管理しておられます」
「それは何よりですわ」
穏やかな返答。
破滅してほしいわけではない。
ただ、選択の結果が現れているだけだ。
翌日。
ラトゥール侯爵邸。
ギヨームは久しぶりに一人で社交の場へ出た。
だが会話は浅い。
「奥様は?」 「今日はお越しでないのですか」
質問は、常に彼女を前提としている。
彼は笑顔を作る。
「忙しい」
それだけ言う。
だがその瞬間、理解する。
自分はもう“選ばれる側”ではない。
選ばれるのは、信用と決断力を持つ者。
名だけでは足りない。
帰邸後、彼は書斎で一人座る。
机の上には、未開封の招待状がいくつか。
数は少ない。
彼はゆっくりと目を閉じる。
「価値観の違いだ」
あの日の言葉が蘇る。
違ったのは、確かだ。
だが。
選ばれなかったのは、自分の考えだったのかもしれない。
窓の外、王都の灯りが揺れる。
エルミリアは前へ進む。
ヴィオレーヌは家を守る。
そして自分は――
立ち止まっている。
選ばれなかった側の静けさが、胸に重く沈んだ。
王都で新たな噂が流れ始めたのは、秋の終わり頃だった。
「ルクセリア公爵家が、北方の大規模事業に参入するらしい」 「複数の商会が共同出資だとか」
名が挙がる。
中心にいるのは、エルミリア。
かつて“帳簿を握る商人のような令嬢”と評された彼女だ。
だが今、その呼び名は変わっていた。
「堅実で信頼できる」 「金の扱いが確実だ」
評価は、静かに積み上がっている。
一方、ラトゥール侯爵邸では。
「北方の件、我が家にも打診はなかったのか」
ギヨームは不機嫌に問う。
ヴィオレーヌは淡々と答える。
「ございません」
「なぜだ」
「資金的余裕と、信用の問題でございます」
冷静な事実。
「我が家は安定しているはずだ」
「再編中でございます」
彼女は帳簿を閉じる。
「大規模な新規事業に乗る段階ではございません」
つまり――選ばれなかった。
ギヨームは言葉を失う。
かつては、自然と声がかかった。
侯爵家の名だけで。
今は違う。
名だけでは足りない。
「ルクセリア家は……」
彼は低く呟く。
「資金も、信用も十分でございます」
ヴィオレーヌは否定しない。
「そして、決断が早い」
その一言が重い。
ギヨームは窓の外を見る。
選ばれなかった側。
その言葉が頭に浮かぶ。
夜。
王宮の小さな集まりで、エルミリアは静かに会話を交わしていた。
「大胆な決断ですね」 「いえ、準備を重ねただけでございます」
彼女の周囲には、自然と人が集まる。
媚びない。
誇らない。
ただ、責任を語る。
「ルクセリア家と組めば安心だ」
そんな声が聞こえる。
彼女はそれを聞いても表情を変えない。
信用は、目的ではない。
結果だ。
帰路につく馬車の中で、エルミリアは窓の外を見つめる。
「ラトゥール家は安定しております」
執事が報告する。
「ええ」
「奥様が手堅く管理しておられます」
「それは何よりですわ」
穏やかな返答。
破滅してほしいわけではない。
ただ、選択の結果が現れているだけだ。
翌日。
ラトゥール侯爵邸。
ギヨームは久しぶりに一人で社交の場へ出た。
だが会話は浅い。
「奥様は?」 「今日はお越しでないのですか」
質問は、常に彼女を前提としている。
彼は笑顔を作る。
「忙しい」
それだけ言う。
だがその瞬間、理解する。
自分はもう“選ばれる側”ではない。
選ばれるのは、信用と決断力を持つ者。
名だけでは足りない。
帰邸後、彼は書斎で一人座る。
机の上には、未開封の招待状がいくつか。
数は少ない。
彼はゆっくりと目を閉じる。
「価値観の違いだ」
あの日の言葉が蘇る。
違ったのは、確かだ。
だが。
選ばれなかったのは、自分の考えだったのかもしれない。
窓の外、王都の灯りが揺れる。
エルミリアは前へ進む。
ヴィオレーヌは家を守る。
そして自分は――
立ち止まっている。
選ばれなかった側の静けさが、胸に重く沈んだ。
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