働いたら負けって、もう負けてますわ。 ―お小遣い制侯爵様は、奥様が怖い―』

ふわふわ

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第二十四話 面子の値段

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第二十四話 面子の値段

 王都の大夜会。

 久々に、ラトゥール侯爵家にも正式な招待状が届いた。

 かつてなら当然の席。

 だが最近は、どこか距離を置かれていた。

「出席なさいますか?」

 ヴィオレーヌの問いは落ち着いている。

 ギヨームは招待状を見つめる。

 豪奢な紋章、重厚な紙。

 面子。

 それを守る場。

「……行こう」

 逃げるわけにはいかない。

 会場は華やかだった。

 煌めく燭台、音楽、笑い声。

 そして――

 金の匂い。

 派手な衣装を纏う若い貴族が、ギヨームの前で誇らしげに語る。

「新規投資で大きく勝ちましたよ」 「一気に広げねば、面子が立ちませんからね」

 その言葉に、胸の奥がざわめく。

 かつての自分の声だ。

 彼は静かに杯を持ち上げる。

「広げることが、面子か?」

「当然でしょう」

 若い貴族は笑う。

「地味では舐められます」

 舐められる。

 その恐れ。

 それが、どれほど高くつくか。

「面子の値段を、考えたことはあるか」

 ギヨームの声は低い。

「値段?」

「無理な拡張の末に失う信用。  それは高い」

 若い貴族は首を傾げる。

 まだ理解していない。

 かつての自分のように。

 その時、背後から柔らかな声。

「旦那様」

 ヴィオレーヌだ。

「ご挨拶を」

 王宮関係者が近づいている。

 彼女は自然に話題を引き取り、場を整える。

 過不足なく。

 誇張もなく。

 ギヨームは隣に立ち、必要な言葉だけを添える。

 過剰な約束はしない。

 見栄も張らない。

 夜会が進むにつれ、視線が変わる。

「落ち着いた」 「無茶をしない」

 それは地味な評価。

 だが、確かな評価。

 一方。

 会場の反対側。

 エルミリアは別の貴族と静かに話している。

 投資の話ではない。

 領地の安定、物流の改善。

 派手ではないが、聞く者は真剣だ。

 彼女の周囲には、自然と人が集まる。

 強引にではなく。

 信用に引き寄せられるように。

 ふと、視線が交わる。

 ギヨームはわずかに頷く。

 エルミリアもまた、微笑みで返す。

 それだけ。

 夜会の終盤。

 若い貴族が再び近づく。

「侯爵様、先ほどの“面子の値段”とは?」

 真剣な顔だ。

 笑っていない。

 ギヨームは少し考え、答える。

「失ってからでは、払えぬ代金のことだ」

 若い貴族は黙る。

 理解は、すぐには来ない。

 だが種は落ちる。

 帰りの馬車。

 静かな夜道。

「本日は、見事でございました」

 ヴィオレーヌが言う。

「派手ではなかった」

「それで十分でございます」

 彼は窓の外を見る。

 かつては豪華な馬車を並べることが面子だった。

 今は違う。

 崩れないこと。

 信用を削らないこと。

 それが面子。

 値段は、払わずに済むならそのほうがいい。

 ギヨームは小さく呟く。

「面子とは、見せるものではなく、保つものか」

 ヴィオレーヌは微笑む。

 夜は静かに更けていく。

 派手な花火はない。

 だが、確実に。

 崩れない家の灯りが、そこにあった。
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