働いたら負けって、もう負けてますわ。 ―お小遣い制侯爵様は、奥様が怖い―』

ふわふわ

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第三十一話 噂の終わり

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第三十一話 噂の終わり

 王都の噂は、静かに消えていく。

 燃え上がるような話題ではないからだ。

 没落もしない。

 破産もしない。

 王に泣きつきもしない。

 ただ、立て直した。

 それだけ。

「ラトゥール侯爵家、落ち着いたそうよ」 「もう面白くないわね」

 誰かが笑う。

 その笑いは、悪意ではない。

 関心を失っただけ。

 それが何よりの証だった。

 噂の対象でなくなった家は、安定している。

 ラトゥール侯爵邸の朝は、いつも通りだ。

 ギヨームは書斎で報告を受けている。

「今期は黒字でございます」

「無理はしていないな」

「しておりません」

 ヴィオレーヌは即答する。

 派手な増収ではない。

 だが確実な積み上げ。

 彼は頷く。

 以前なら、この数字に物足りなさを感じただろう。

 今は違う。

「……十分だ」

 その一言に、重みがある。

 午後、王宮での小さな集まり。

 ギヨームは若い貴族たちと話している。

「侯爵様、最近は徳政令の話も出ませんね」

「出ぬほうがよい」

「ですが、困ったときは?」

「困る前に見る」

 短い答え。

「帳簿を」

 若い貴族たちは顔を見合わせる。

 笑わない。

 馬鹿にしない。

 ただ、考える。

 夜。

 侯爵邸の食堂。

 質素だが、整った食卓。

「旦那様」

 ヴィオレーヌが静かに言う。

「噂は終わりました」

「終わった?」

「はい。もはや、話題ではございません」

 彼は一瞬だけ目を閉じる。

 胸の奥が静かに軽くなる。

 称賛もない。

 喝采もない。

 だが、笑い者でもない。

 それで十分だ。

 一方。

 ルクセリア公爵邸。

「ラトゥール家、完全に安定」

 報告を受けたエルミリアは、淡く頷く。

「よろしいことですわ」

 彼女の関心は、もう別の未来へ向いている。

 それぞれの道。

 交わらない。

 だが、敵でもない。

 夜の庭。

 ギヨームは灯りを見つめる。

 豪奢ではない。

 だが消えない。

「噂の終わり、か」

 呟く。

 かつては、話題でいることが存在証明だった。

 今は違う。

 話題にならないことが、安定の証。

 ヴィオレーヌが隣に立つ。

「家は立っております」

「ああ」

「それがすべてでございます」

 彼は静かに頷く。

 派手な逆転もない。

 劇的な崩壊もない。

 ただ、選択の結果。

 ラトゥール侯爵家は、今日もそこにある。

 噂の外で。

 静かに。
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