石を売る女の意思 ――後にダイヤモンドクイーンと呼ばれる女の威信――

ふわふわ

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第25話 騒ぐ者が消え、残る者が決まる

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第25話 騒ぐ者が消え、残る者が決まる

 

沈黙が価値になる――
その事実が王都に染み渡り始めた頃、
《オーセンティック》を取り巻く空気は、
決定的に変わっていた。

騒ぐ者の声が、
急速に、
目に見えて減っていったのだ。

 

「……最近、
 あの店を
 批判する声、
 聞かなくなりましたわね」

社交界の茶会で、
誰かがそう口にした。

「ええ。
 前は、
 正義だの、
 連帯だの、
 騒がしかったのに」

「皆、
 別の話題に
 移っただけじゃなくて?」

 

その言葉に、
年配の伯爵夫人が
静かに首を振る。

「違いますわ」

「“話題にする価値が
 なくなった”のです」

 

騒ぐことが、
意味を持たなくなった。

それは、
敗北を認めた、
ということではない。

もっと残酷な状態だ。

――存在感を失った。

 

同じ頃。

《オーセンティック》の店内は、
以前にも増して
静かだった。

客数は、
決して多くない。

だが、
誰一人として
迷っていない。

 

扉を開ける前から、
覚悟がある。

入った瞬間に、
比べないと
決めている。

 

「……最近、
 説明を求める方が
 ほとんど
 いなくなりました」

店員が、
小声で言う。

「ええ」

ジェニュインは、
静かに頷いた。

「騒ぐ者が
 消えたからです」

「消えた……?」

「正確には、
 “選ばれる側”から
 降りました」

 

騒いでいた者たちは、
別の場所へ
行ったわけではない。

ただ、
《オーセンティック》という
舞台から、
静かに
姿を消しただけだ。

 

その日の夕方。

一人の若い貴族が
店を訪れた。

彼は、
以前、
声高に
《オーセンティック》を
批判していた人物だった。

 

「……入っても、
 よろしいでしょうか」

その声は、
以前の自信を
すっかり失っている。

「どうぞ」

ジェニュインは、
変わらぬ調子で
迎えた。

 

彼は、
店内を
ゆっくりと歩く。

石を見る目は、
以前とは
まるで違っていた。

評価しない。
比べない。

ただ、
見ている。

 

「……あの頃は」

彼は、
ぽつりと
呟いた。

「選ばれなかったことが
 許せなかった」

「だから、
 おかしいと
 叫びました」

 

ジェニュインは、
何も言わない。

それが、
この店の
唯一の姿勢だ。

 

「……でも」

彼は、
一つの石の前で
立ち止まる。

「今は、
 分かります」

「選ばれなかったんじゃ
 なかった」

「……
 選ぶ覚悟が
 なかっただけだ」

 

彼は、
深く息を吐いた。

「……今さら、
 でしょうか」

「いいえ」

ジェニュインは、
静かに答えた。

「今だから、
 です」

 

彼は、
石を手に取る。

迷いは、
もうない。

「……これを」

「理由は?」

「ありません」

短く、
はっきりと。

 

支払いを終え、
石を受け取った彼は、
深く頭を下げた。

「……騒いでいた頃の
 自分が、
 一番
 恥ずかしい」

 

彼が去ったあと、
店内は
再び静寂に包まれた。

 

夜。

ジェニュインは、
帳簿を閉じ、
一つの事実を
確認する。

この数週間、
《オーセンティック》を
批判する声明は
一つも出ていない。

調査もない。
糾弾もない。
正義もない。

 

残ったのは――
選ぶ者だけ。

 

「……騒ぐ者が消え、
 残る者が
 決まる」

 

それは、
市場原理ではない。

世論でもない。

ましてや、
権力でもない。

 

覚悟のふるいだ。

 

覚悟のない者は、
声を上げ、
集まり、
正しさを振りかざす。

だが、
覚悟のある者は、
黙って
扉を開ける。

 

石は、
そのすべてを
黙って見てきた。

選ばれなかった者の
怒りも、
選び直した者の
沈黙も。

 

ジェニュインは、
灯りを落としながら
静かに思う。

「……ようやく、
 本当に
 残る者が
 見えてきましたわね」

 

《オーセンティック》は、
特別な店ではない。

誰にでも
開かれている。

ただし――
自分で選ぶ者にだけ。

 

騒ぐことで
存在を保とうとした者たちは、
もう
ここには戻らない。

戻れないのではない。

戻る理由を
失ったのだ。

 

それこそが、
この物語において
最も静かで、
最も確実な
“ざまぁ”。

――声を上げ続けた者ほど、
最後に
何も残らなかった。

その事実を、
《オーセンティック》は
今日もまた
一切の言葉を使わずに
証明し続けているのだった。
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