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第39話 王家が価値を借りに来る夜
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第39話 王家が価値を借りに来る夜
その夜、王都は静まり返っていた。
祝祭でもなく、警鐘でもない。
ただ――準備の沈黙が街を覆っていた。
王宮の奥、外部の目から隔てられた小広間に、
限られた者だけが集められていた。
王。
財務卿。
外務卿。
そして――第二王子。
議題は一つ。
「……ジェニュイン・オーセンティック」
その名が口にされた瞬間、
誰も反論しない。
もはや、
彼女の名を議論の俎上に載せること自体が、
遅すぎるという空気すらあった。
「国王陛下」
財務卿が静かに言う。
「宝石市場は、
もはや王家の管轄を
超えています」
「我々が
“王権の象徴”として
扱ってきた宝飾は、
彼女の基準を
通過しなければ
意味を持たない」
王は、
しばらく黙っていた。
「……王家が、
誰かの基準を
借りねばならぬ時代が
来るとはな」
それは、
敗北宣言ではない。
現実確認だった。
第二王子が、
一歩前に出る。
「……私が、
行こう」
高官たちが
一斉に視線を向ける。
「陛下、
王子殿下自ら
出向くのは……」
「違う」
第二王子は、
はっきりと言った。
「これは、
命令でも
交渉でもない」
「……お願いだ」
王は、
ゆっくりと
息を吐いた。
「……分かった」
「だが一つ、
忘れるな」
王は、
息子を
まっすぐに見る。
「我々は、
“選ぶ側”ではない」
「選ばれる側だ」
その言葉を胸に、
第二王子は
王宮を出た。
同じ夜。
《オーセンティック》では、
いつも通り
灯りが落とされていた。
閉店後の店内。
静まり返った空間で、
ジェニュインは
帳簿を閉じていた。
「……本日は、
これで終わりです」
その瞬間。
――コン、コン。
控えめな
扉を叩く音。
店員が
驚いたように
振り向く。
「……この時間に?」
ジェニュインは、
少しだけ
目を細めた。
「……通してください」
扉が開く。
そこに立っていたのは、
豪奢な装いを
あえて抑えた
第二王子だった。
「……夜分に
失礼する」
「いえ」
ジェニュインは
軽く一礼する。
「ですが、
本日は
営業しておりません」
第二王子は、
頷いた。
「承知している」
「今日は、
“買い物”ではない」
沈黙。
「……座ろう」
二人は、
応接室の
向かい合う席に
腰を下ろした。
王子は、
言葉を
慎重に選ぶ。
「……我々は、
宝石を
“支配”してきた」
「だが今、
その支配が
意味を
持たなくなっている」
「それは、
貴女のせいではない」
「……我々が、
価値を
軽く扱ってきた
結果だ」
ジェニュインは、
何も言わない。
王子は、
深く
頭を下げた。
「……教えてほしい」
「王家が、
この時代に
何を
身に纏うべきかを」
それは、
交渉ではない。
嘆願だった。
ジェニュインは、
しばらく
王子を
見つめてから、
静かに口を開いた。
「……王子殿下」
「私は、
“何を纏うべきか”を
教えることは
できません」
王子の肩が
わずかに揺れる。
「ですが――」
ジェニュインは
続けた。
「“何を纏っては
ならないか”なら
お伝えできます」
「……それは?」
彼女は、
一粒の
ダイヤモンドを
卓上に置いた。
「過去の威光です」
王子は、
息を呑む。
「それは、
美しく見えます」
「ですが、
未来を
照らしません」
「王家が
選ばれるためには、
価値を
借りては
なりません」
「価値を
背負う覚悟を
持つことです」
王子は、
ゆっくりと
頷いた。
「……王家が、
価値を
背負う……」
「はい」
「その覚悟が
あるのなら」
ジェニュインは、
初めて
はっきりと
微笑んだ。
「石は、
王家を
拒みません」
その夜、
第二王子は
何も
持ち帰らなかった。
宝石も、
契約も、
言質も。
だが――
王宮に戻った彼の背中は、
来た時よりも
重く、
そして
まっすぐだった。
王家は、
ついに理解した。
価値とは、
命じて得るものではない。
頭を下げ、
覚悟を示した者だけが
触れられるものだ
ということを。
そして――
ジェニュイン・オーセンティックは、
その夜も
静かに
灯りを落とした。
彼女は、
王家を
救ったわけではない。
ただ――
試験を、
用意しただけだった。
最終話へと続く。
その夜、王都は静まり返っていた。
祝祭でもなく、警鐘でもない。
ただ――準備の沈黙が街を覆っていた。
王宮の奥、外部の目から隔てられた小広間に、
限られた者だけが集められていた。
王。
財務卿。
外務卿。
そして――第二王子。
議題は一つ。
「……ジェニュイン・オーセンティック」
その名が口にされた瞬間、
誰も反論しない。
もはや、
彼女の名を議論の俎上に載せること自体が、
遅すぎるという空気すらあった。
「国王陛下」
財務卿が静かに言う。
「宝石市場は、
もはや王家の管轄を
超えています」
「我々が
“王権の象徴”として
扱ってきた宝飾は、
彼女の基準を
通過しなければ
意味を持たない」
王は、
しばらく黙っていた。
「……王家が、
誰かの基準を
借りねばならぬ時代が
来るとはな」
それは、
敗北宣言ではない。
現実確認だった。
第二王子が、
一歩前に出る。
「……私が、
行こう」
高官たちが
一斉に視線を向ける。
「陛下、
王子殿下自ら
出向くのは……」
「違う」
第二王子は、
はっきりと言った。
「これは、
命令でも
交渉でもない」
「……お願いだ」
王は、
ゆっくりと
息を吐いた。
「……分かった」
「だが一つ、
忘れるな」
王は、
息子を
まっすぐに見る。
「我々は、
“選ぶ側”ではない」
「選ばれる側だ」
その言葉を胸に、
第二王子は
王宮を出た。
同じ夜。
《オーセンティック》では、
いつも通り
灯りが落とされていた。
閉店後の店内。
静まり返った空間で、
ジェニュインは
帳簿を閉じていた。
「……本日は、
これで終わりです」
その瞬間。
――コン、コン。
控えめな
扉を叩く音。
店員が
驚いたように
振り向く。
「……この時間に?」
ジェニュインは、
少しだけ
目を細めた。
「……通してください」
扉が開く。
そこに立っていたのは、
豪奢な装いを
あえて抑えた
第二王子だった。
「……夜分に
失礼する」
「いえ」
ジェニュインは
軽く一礼する。
「ですが、
本日は
営業しておりません」
第二王子は、
頷いた。
「承知している」
「今日は、
“買い物”ではない」
沈黙。
「……座ろう」
二人は、
応接室の
向かい合う席に
腰を下ろした。
王子は、
言葉を
慎重に選ぶ。
「……我々は、
宝石を
“支配”してきた」
「だが今、
その支配が
意味を
持たなくなっている」
「それは、
貴女のせいではない」
「……我々が、
価値を
軽く扱ってきた
結果だ」
ジェニュインは、
何も言わない。
王子は、
深く
頭を下げた。
「……教えてほしい」
「王家が、
この時代に
何を
身に纏うべきかを」
それは、
交渉ではない。
嘆願だった。
ジェニュインは、
しばらく
王子を
見つめてから、
静かに口を開いた。
「……王子殿下」
「私は、
“何を纏うべきか”を
教えることは
できません」
王子の肩が
わずかに揺れる。
「ですが――」
ジェニュインは
続けた。
「“何を纏っては
ならないか”なら
お伝えできます」
「……それは?」
彼女は、
一粒の
ダイヤモンドを
卓上に置いた。
「過去の威光です」
王子は、
息を呑む。
「それは、
美しく見えます」
「ですが、
未来を
照らしません」
「王家が
選ばれるためには、
価値を
借りては
なりません」
「価値を
背負う覚悟を
持つことです」
王子は、
ゆっくりと
頷いた。
「……王家が、
価値を
背負う……」
「はい」
「その覚悟が
あるのなら」
ジェニュインは、
初めて
はっきりと
微笑んだ。
「石は、
王家を
拒みません」
その夜、
第二王子は
何も
持ち帰らなかった。
宝石も、
契約も、
言質も。
だが――
王宮に戻った彼の背中は、
来た時よりも
重く、
そして
まっすぐだった。
王家は、
ついに理解した。
価値とは、
命じて得るものではない。
頭を下げ、
覚悟を示した者だけが
触れられるものだ
ということを。
そして――
ジェニュイン・オーセンティックは、
その夜も
静かに
灯りを落とした。
彼女は、
王家を
救ったわけではない。
ただ――
試験を、
用意しただけだった。
最終話へと続く。
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