完璧すぎると言われ婚約破棄された公爵令嬢は、白い結婚のはずの冷徹公爵にいつの間にか溺愛されていました

ふわふわ

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第27話 誰の目にも明らかで

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第27話 誰の目にも明らかで

 最初に気づいたのは、使用人たちだった。

 それも、特別な観察力があったからではない。
 ただ――隠されていなかっただけだ。

「……最近、公爵様と奥様」

 朝の準備をしながら、若い侍女が小声で言う。

「ええ。
 もう、“そういう関係”ですよね?」

「ですよね……?」

 声を潜めてはいるが、
 そこに含まれる確信は揺るぎない。

 公爵様が、奥様の歩調に合わせる。
 奥様が一言口にする前に、必要なものが用意される。
 視線が、自然に追い合っている。

 ――もはや、説明が不要な状態だった。

 執務室でも、それは同じだ。

 ノエリアが書類を広げると、
 アレストは無言で、インクの補充を指示する。

「……ありがとうございます」

「当然だ」

 短いやり取り。

 だが、その声には、以前の硬さがない。

 報告官が、ちらりと二人を見て、
 すぐに視線を逸らした。

(……ああ)

(これは、聞いてはいけない空気だ)

 そう理解してしまう程度には、
 二人の間に流れる空気は、明確だった。

 昼。

 外部からの使者が、公爵家を訪れた。

「奥様も、ご同席を?」

「当然だ」

 アレストの返答は、即答だった。

 それを、
 誰も不思議に思わない。

 会談中。

 ノエリアが少し考え込むと、
 アレストは話を止める。

「……少し待て」

 そうして、
 彼女が口を開くまで、何も進めない。

 使者は、内心で思った。

(……完全に信頼している)

 いや、
 それ以上だ。

 判断の一部を、彼女に預けている。

 これは、
 単なる公爵夫人への配慮ではない。

 帰り際。

 使者は、無意識に言ってしまった。

「……大変、仲睦まじくいらっしゃいますね」

 一瞬。

 空気が止まった。

 ノエリアは、少しだけ目を見開き、
 アレストは、微かに眉を動かす。

「……そのように見えるか」

 アレストの声は、低く、落ち着いている。

「はい。
 ご夫婦として、とても」

 それ以上は、言わなかった。

 言う必要がなかったからだ。

 使者が去った後。

 ノエリアは、少しだけ視線を伏せる。

「……誤解、されましたわね」

「否定は、しなかったが」

「それは……」

 言葉に詰まる。

 否定できるかと問われれば、
 即答できない自分がいた。

「……問題か」

 アレストは、静かに問いかける。

 ノエリアは、しばらく考え――
 首を横に振った。

「いいえ」

 小さな声。

「今は……問題ではありません」

 その返答に、
 アレストの表情は変わらない。

 だが、
 胸の奥で、何かが確かに動いた。

 午後。

 公爵家に招かれた貴族夫人たちの間でも、
 話題はひとつだった。

「奥様、ずいぶんお幸せそうですわね」

「え……?」

「公爵様、
 奥様のお話をされる時、
 とても穏やかなお顔をなさるのですもの」

 ノエリアは、思わず苦笑する。

「……そう、でしょうか」

「ええ。
 ご本人だけが、気づいていないご様子で」

 悪意はない。
 むしろ、好意的だ。

 それが、
 否定しづらさを増していた。

 夜。

 ノエリアは、自室で一人、考えていた。

(……そんなに、分かりやすいのでしょうか)

 自分では、
 何も変えていないつもりだ。

 ただ、
 安心しているだけ。

 一方、アレストもまた、
 書斎で同じように考えていた。

(……周囲の反応が、早すぎる)

 隠しているつもりはない。
 だが、
 明かすつもりもない。

 それでも。

(……否定しきれない)

 自分の行動が、
 どう見えているのか。

 理解してしまっている。

 翌朝。

 二人は、廊下で偶然、顔を合わせた。

「おはようございます」

「ああ」

 短い挨拶。

 だが。

 すれ違う際、
 視線が絡む。

 ほんの一瞬。

 だが、
 それだけで十分だった。

 通り過ぎた後、
 背中に視線を感じて、
 同時に足を止める。

 振り返る。

 目が合う。

 使用人たちは、
 全員、何も見なかったふりをした。

(……完全に)

(……もう、隠れていない)

 それを、
 一番理解していないのは――
 当の二人だけだった。

 公爵家では、
 すでに結論は出ている。

 ――この白い結婚は、名ばかりだ。

 あとは、
 本人たちが認めるかどうか。

 それだけの話だった。


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