完璧すぎると言われ婚約破棄された公爵令嬢は、白い結婚のはずの冷徹公爵にいつの間にか溺愛されていました

ふわふわ

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第40話 そして、今日も

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第40話 そして、今日も

 朝は、やはり静かに始まった。

 屋敷の廊下に差し込む光は柔らかく、
 遠くから聞こえる足音は、
 慌ただしさよりも規則正しさを感じさせる。

 ノエリアは、
 窓辺に立ち、外を眺めていた。

 畑。
 通学路。
 市場へ向かう人々。

 どれも、
 この数年で少しずつ変わった光景だ。

(……全部、
 続いていますわね)

 それが、
 何よりの証だった。


---

「……おはよう」

 背後から、
 聞き慣れた声。

 ノエリアは、
 振り返って微笑む。

「おはようございます」

 アレストは、
 彼女の隣に立ち、
 同じ景色を見る。

「今日は、
 西の学校の視察だったな」

「はい。
 新しい教員の配置が、
 うまくいっているようです」

「孤児院の方は?」

「来月から、
 職業教育の枠を増やします」

 自然な会話。

 役割分担も、
 確認も、
 すでに習慣になっている。

「……定着したな」

 アレストが、
 ふと、そう呟いた。

「何がでしょう?」

「すべてだ」

 ノエリアは、
 少し考え――
 それから、頷いた。

「ええ」

 大きな変化は、
 もう必要ない。

 必要なのは、
 続けることだけだった。


---

 視察先の学校では、
 子どもたちが元気よく挨拶をする。

「おはようございます!」

「公爵様!
 公爵夫人様!」

 ノエリアは、
 一人一人に目を向け、
 穏やかに応える。

「おはよう。
 勉強は、楽しいですか?」

「はい!」

「ちょっと難しいです!」

 その正直な返事に、
 思わず笑みがこぼれる。

 アレストは、
 少し後ろからその様子を見ていた。

(……ああ)

(……この光景を、
 守れている)

 それが、
 何よりの誇りだった。


---

 帰り道。

 馬車の中で、
 二人は向かい合って座る。

「……ノエリア」

「はい」

「最初に、
 婚約を白い結婚にしようと言った日のことを、
 覚えているか」

 ノエリアは、
 少し驚き、
 それから、懐かしそうに微笑む。

「ええ。
 今思えば、
 随分と無茶でしたわね」

「ああ」

「後悔は?」

 彼女は、
 もう何度目か分からない問いを投げる。

 だが、
 答えはいつも同じ。

「ない」

 即答。

「むしろ……」

 アレストは、
 少しだけ言葉を探す。

「感謝している」

「私もです」

 同時だった。

 それに気づき、
 二人は、
 小さく笑う。


---

 屋敷に戻ると、
 使用人たちが変わらぬ様子で迎える。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

 そのやり取りに、
 過剰な緊張も、
 遠慮もない。

 ここが、
 “家”になった証だ。


---

 夕刻。

 ノエリアは、
 執務室で最後の書類をまとめていた。

「……これで、
 本日の業務は終了ですわ」

「珍しいな」

 アレストが、
 軽く目を細める。

「少し、
 余裕を持たせました」

「理由は?」

「今日は……
 特別な日ではありませんから」

 その言葉に、
 アレストは、静かに頷いた。

「それが、
 いい」

 特別でない日を、
 大切にできること。

 それこそが、
 到達点だった。


---

 夜。

 二人は、
 同じ部屋で、
 それぞれ本を読んでいた。

 言葉は少ない。
 だが、
 不安はない。

 ノエリアは、
 ふと顔を上げ、
 アレストを見る。

「……アレスト様」

「どうした」

「これから先、
 何があっても」

 一拍。

「私は、
 ここに戻ってきます」

 彼は、
 本を閉じ、
 彼女を見る。

「ああ」

「私もだ」

 短い。

 だが、
 揺るがない。

 二人は、
 もう確信している。

 幸せとは、
 劇的な出来事ではない。

 誰かに勝つことでも、
 認められることでもない。

 選んだ場所で、
 選んだ人と、
 今日を重ねること。


---

 ノエリアは、
 そっと指輪に触れた。

 輝きは、
 派手ではない。

 だが、
 確かだ。

(……これで、よかった)

 心から、
 そう思える。

 アレストもまた、
 同じことを考えていた。

(……遠回りだった)

(……だが、
 必要な道だった)


---

 こうして。

 婚約破棄から始まった物語は、
 ざまぁで終わらず、
 復讐でも終わらず。

 日常という、
 最も強い結論に辿り着いた。

 そして――

 今日もまた、
 変わらない朝が来る。

 それを、
 二人は並んで迎える。

 それで、いい。

 それが、いい。

 ――物語は、ここで終わる。
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