婚約破棄? それより南方貿易が忙しいのですが

ふわふわ

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第二十話 価値

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第二十話 価値

朝、白髪の男が動かなかった。

合図が鳴っても、起きない。

彼は横目で見る。

揺らされる。

反応がない。

監督の男が近づく。

足で軽く蹴る。

脈を取る。

短い言葉。

他の者が二人来る。

白髪の男の体を持ち上げる。

丁寧ではない。

乱暴でもない。

作業の一部のように。

彼は見ている。

止めない。

止められない。

誰も声を上げない。

列は崩れない。

合図が再び鳴る。

作業は始まる。

白髪の男がいた場所は、空いた。

誰もそこに立たない。

空白はすぐに埋まる。

昼。

水が配られる。

彼は自分の器を受け取る。

昨日、半分を差し出されたことを思い出す。

その手はもうない。

午後。

監督が帳簿を持って巡回する。

数字を確認する。

一人ずつ見る。

彼の前で止まる。

焼印を確認。

何かを書き込む。

視線は冷たいのではない。

ただ計算している。

労働量。

消耗度。

生存可能性。

価値。

彼は理解する。

ここでは人ではない。

単位。

労働単位。

夜。

小屋に戻る。

白髪の男の寝ていた場所は空だ。

誰も触れない。

誰も語らない。

彼は壁にもたれる。

喉が渇く。

水はない。

頭の奥で声がする。

「ここでは皆同じだ」

違う、と言い返したかった。

だが今は違わない。

白髪の男は消えた。

名も知らない。

過去も知らない。

何だったのかも知らない。

彼も、そうなる。

ここで倒れれば、

明日には別の者がその場所に立つ。

帳簿は更新される。

数字が消え、別の数字が入る。

それだけ。

彼は腕の焼印を見る。

赤みは薄れた。

皮膚に馴染み始めている。

消えない。

その印は、名より強い。

夜風が入る。

湿っている。

遠くで獣の声。

彼は目を閉じる。

初めて、懇願が頭をよぎる。

助けてくれ、と。

だが誰に。

国か。

家か。

誰も来ない。

来るはずがない。

ここは遠い。

言葉も通じない。

誇りも通じない。

残るのは、体だけ。

体が動けば価値。

動かなければ消える。

彼は明日も立つ。

立つしかない。

だが、理解している。

自分は選ばれた存在ではない。

選ばれない者の一人だ。

そしてそれは、
ここでは当たり前だ。

価値があるかどうか。

それだけが、
生と死を分ける。
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