23 / 32
第二十三話 孤立
しおりを挟む
第二十三話 孤立
朝の空気は重い。
夜の雨が残り、地面はぬかるみ、湿気が肺に絡みつく。
合図が鳴る前に、彼は目を開けていた。
痛みは鈍い。
背中の腫れは引かない。
だが体は動く。
動かさなければならない。
外へ出る。
列に並ぶ。
誰も彼を見ない。
かつては怒鳴り、睨み、命令した。
今は視線すら向けられない。
作業が始まる。
岩を砕く。
振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
動きは速い。
誰よりも速い。
監督の目が一瞬止まる。
評価ではない。
確認。
それだけ。
昼。
水の配給。
彼は順番を守る。
目を伏せる。
器を受け取る。
飲む。
足りない。
隣の若い男が、彼を見ない。
以前は視線を交わした。
今はない。
理由は分かる。
昨日の騒ぎ。
怒鳴り。
殴打。
問題を起こす者には近づかない。
巻き込まれたくない。
合理的な判断。
彼は理解する。
孤立は罰ではない。
結果だ。
午後。
岩を運ぶ。
足を滑らせる。
荷が崩れる。
石が散らばる。
一瞬の沈黙。
監督が近づく。
彼は身構える。
だが棒は来ない。
ただ冷たい視線。
周囲の者が無言で石を拾う。
手伝いではない。
早く終わらせるため。
彼は拾う。
急ぐ。
遅れを取り戻す。
誰も声をかけない。
夜。
小屋。
隣の寝床が埋まっている。
新しい男。
目が合う。
すぐ逸らされる。
距離。
彼は壁に背を預ける。
熱はない。
咳もない。
体は持ち直している。
だが胸の奥が冷たい。
ここで誰かと繋がることはない。
友もいない。
敵もいない。
ただ作業単位。
番号。
その数字が呼ばれれば立つ。
呼ばれなければ座る。
それだけ。
彼はふと、思う。
もし明日、自分が倒れたら。
誰が気づく。
誰が止まる。
答えは分かっている。
誰も。
それは冷酷ではない。
ここでは普通だ。
彼は天井を見る。
湿った木材。
隙間から夜風。
自分の存在が、少しずつ薄れている感覚。
怒りも減る。
命令したい衝動も薄れる。
代わりに残るのは、空洞。
孤立。
それは排除ではない。
溶け込みきれない状態。
彼は目を閉じる。
明日も立つ。
立ち続ける。
誰とも交わらず。
誰にも残らず。
孤立は罰ではない。
ただ、ここでの標準状態。
そして彼は、
その標準に近づいていく。
朝の空気は重い。
夜の雨が残り、地面はぬかるみ、湿気が肺に絡みつく。
合図が鳴る前に、彼は目を開けていた。
痛みは鈍い。
背中の腫れは引かない。
だが体は動く。
動かさなければならない。
外へ出る。
列に並ぶ。
誰も彼を見ない。
かつては怒鳴り、睨み、命令した。
今は視線すら向けられない。
作業が始まる。
岩を砕く。
振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
動きは速い。
誰よりも速い。
監督の目が一瞬止まる。
評価ではない。
確認。
それだけ。
昼。
水の配給。
彼は順番を守る。
目を伏せる。
器を受け取る。
飲む。
足りない。
隣の若い男が、彼を見ない。
以前は視線を交わした。
今はない。
理由は分かる。
昨日の騒ぎ。
怒鳴り。
殴打。
問題を起こす者には近づかない。
巻き込まれたくない。
合理的な判断。
彼は理解する。
孤立は罰ではない。
結果だ。
午後。
岩を運ぶ。
足を滑らせる。
荷が崩れる。
石が散らばる。
一瞬の沈黙。
監督が近づく。
彼は身構える。
だが棒は来ない。
ただ冷たい視線。
周囲の者が無言で石を拾う。
手伝いではない。
早く終わらせるため。
彼は拾う。
急ぐ。
遅れを取り戻す。
誰も声をかけない。
夜。
小屋。
隣の寝床が埋まっている。
新しい男。
目が合う。
すぐ逸らされる。
距離。
彼は壁に背を預ける。
熱はない。
咳もない。
体は持ち直している。
だが胸の奥が冷たい。
ここで誰かと繋がることはない。
友もいない。
敵もいない。
ただ作業単位。
番号。
その数字が呼ばれれば立つ。
呼ばれなければ座る。
それだけ。
彼はふと、思う。
もし明日、自分が倒れたら。
誰が気づく。
誰が止まる。
答えは分かっている。
誰も。
それは冷酷ではない。
ここでは普通だ。
彼は天井を見る。
湿った木材。
隙間から夜風。
自分の存在が、少しずつ薄れている感覚。
怒りも減る。
命令したい衝動も薄れる。
代わりに残るのは、空洞。
孤立。
それは排除ではない。
溶け込みきれない状態。
彼は目を閉じる。
明日も立つ。
立ち続ける。
誰とも交わらず。
誰にも残らず。
孤立は罰ではない。
ただ、ここでの標準状態。
そして彼は、
その標準に近づいていく。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる