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第11話 王都からの客人は、寒い話を運んできますの
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第11話 王都からの客人は、寒い話を運んできますの
翌朝。
極寒監獄の廊下に、珍しく足音が響いていた。
規則正しく、しかしどこかよそよそしい足取り。
キャロは温室の椅子に腰掛け、いつものように紅茶を飲んでいたが、その違和感にすぐ気づいた。
「……今日は、少し空気が硬いですわね」
「はい」
背後に立つヴァルトの声も、どこか張り詰めている。
「王都より、正式な“客人”が到着しております」
「正式、ですって?」
キャロはカップを置いた。
「噂好きの使者ではなくて?」
「王城付きの高位官僚です。王太子殿下の名を正式に預かって」
「……まあ」
キャロは、わずかに眉を上げる。
「ついに“様子見”の段階は終わった、ということですわね」
***
応接用に整えられた部屋に通された男は、年配で、よく鍛えられた表情をしていた。
礼儀は完璧だが、柔らかさはない。
「キャロ・リュミエール殿下。ご機嫌麗しゅう」
「ええ、おかげさまで」
キャロは立ち上がらず、椅子に座ったまま微笑む。
それだけで、男の眉がぴくりと動いた。
「殿下の“生活環境”について、王都では様々な憶測が飛び交っております」
「まあ。人は他人の生活に興味津々ですものね」
「……監獄での待遇が、法と慣例に照らして適切かどうか、確認する必要があると」
「確認、ですか」
キャロは紅茶を一口。
「では、どうぞご覧になってくださいな。毛布と紅茶と、本と昼寝――どれも違法ではありませんでしょう?」
男は、言葉に詰まった。
「……殿下は、ご自身の立場をお分かりで?」
「ええ。追放された王女、でしょう?」
キャロは、にっこりと笑う。
「ですからこそ、ここで静かに過ごしておりますの。王都の政務にも、口出ししておりませんわ」
「しかし……」
男は、言葉を選びながら続けた。
「殿下が“満ち足りている”という事実が、王都の不安を煽っているのです」
「不幸でないと、困りますのね」
その一言で、空気が凍った。
キャロは、穏やかな声で締めくくる。
「ご安心なさい。私は、王都へ戻るつもりはありません。
ここは寒いけれど、心が温かい。――それで十分ですわ」
男は、深く頭を下げるしかなかった。
***
客人が去ったあと。
キャロは、ソファに深く腰を下ろし、毛布を引き寄せた。
「……これは、もう時間の問題ですわね」
「はい」
ヴァルトは、低く答えた。
「王都は、“放置”という選択を取りません。次は……圧力か、排除です」
キャロは、少しだけ目を細めた。
「寒い話ばかり運んできますわね。王都の人々は」
そして、ぽつりと呟く。
「でも……」
紅茶を一口。
「それでも私は、ここでぬくぬくしますわ」
暖炉の火は、今日も変わらず燃えていた。
だがその炎の向こうで、確実に次の章への扉が、音もなく開き始めていた。
翌朝。
極寒監獄の廊下に、珍しく足音が響いていた。
規則正しく、しかしどこかよそよそしい足取り。
キャロは温室の椅子に腰掛け、いつものように紅茶を飲んでいたが、その違和感にすぐ気づいた。
「……今日は、少し空気が硬いですわね」
「はい」
背後に立つヴァルトの声も、どこか張り詰めている。
「王都より、正式な“客人”が到着しております」
「正式、ですって?」
キャロはカップを置いた。
「噂好きの使者ではなくて?」
「王城付きの高位官僚です。王太子殿下の名を正式に預かって」
「……まあ」
キャロは、わずかに眉を上げる。
「ついに“様子見”の段階は終わった、ということですわね」
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礼儀は完璧だが、柔らかさはない。
「キャロ・リュミエール殿下。ご機嫌麗しゅう」
「ええ、おかげさまで」
キャロは立ち上がらず、椅子に座ったまま微笑む。
それだけで、男の眉がぴくりと動いた。
「殿下の“生活環境”について、王都では様々な憶測が飛び交っております」
「まあ。人は他人の生活に興味津々ですものね」
「……監獄での待遇が、法と慣例に照らして適切かどうか、確認する必要があると」
「確認、ですか」
キャロは紅茶を一口。
「では、どうぞご覧になってくださいな。毛布と紅茶と、本と昼寝――どれも違法ではありませんでしょう?」
男は、言葉に詰まった。
「……殿下は、ご自身の立場をお分かりで?」
「ええ。追放された王女、でしょう?」
キャロは、にっこりと笑う。
「ですからこそ、ここで静かに過ごしておりますの。王都の政務にも、口出ししておりませんわ」
「しかし……」
男は、言葉を選びながら続けた。
「殿下が“満ち足りている”という事実が、王都の不安を煽っているのです」
「不幸でないと、困りますのね」
その一言で、空気が凍った。
キャロは、穏やかな声で締めくくる。
「ご安心なさい。私は、王都へ戻るつもりはありません。
ここは寒いけれど、心が温かい。――それで十分ですわ」
男は、深く頭を下げるしかなかった。
***
客人が去ったあと。
キャロは、ソファに深く腰を下ろし、毛布を引き寄せた。
「……これは、もう時間の問題ですわね」
「はい」
ヴァルトは、低く答えた。
「王都は、“放置”という選択を取りません。次は……圧力か、排除です」
キャロは、少しだけ目を細めた。
「寒い話ばかり運んできますわね。王都の人々は」
そして、ぽつりと呟く。
「でも……」
紅茶を一口。
「それでも私は、ここでぬくぬくしますわ」
暖炉の火は、今日も変わらず燃えていた。
だがその炎の向こうで、確実に次の章への扉が、音もなく開き始めていた。
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