極寒監獄なのにぬくぬく生活!? 追放王女、所長に溺愛されて快適すぎてもう無期懲役にしてください』

ふわふわ

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第13話 静かな準備ほど、恐ろしいものはありませんわ

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第13話 静かな準備ほど、恐ろしいものはありませんわ

極寒監獄は、表向きには何一つ変わらなかった。

朝になれば、看守たちはいつも通りに交代し、囚人たちは定められた作業へ向かう。
厨房からは湯気が立ち、パンの焼ける香りが漂う。

だが――その“いつも通り”は、意図的に作られたものだった。

「……監獄全体が、呼吸を潜めていますわね」

キャロは温室の椅子に腰掛け、ハーブティーを口にしながら呟いた。

「はい。誰にも気づかれないように、しかし確実に」

向かいに立つヴァルトは、低い声で答える。

「警備配置を変更しました。看守の交代時間、巡回経路、合図の方法――すべて、王都側に把握されている可能性のある情報は捨てています」

「つまり、敵は“想定通り”には動けない」

「ええ」

キャロは、満足そうに頷いた。

「準備とは、こうあるべきですわね。騒がず、誇らず、淡々と」

王宮で見てきた“準備”は、いつも派手だった。
会議、演説、命令、そして漏れる情報。

(……本当に、大切なものは)

(静かにしか、守れないのかもしれませんわ)

***

その日の午後。

キャロは、珍しく監獄の中庭に出ていた。
厚手のコートに身を包み、雪を踏みしめながら歩く。

「姫様、あまり長くは……」

「分かっています。でも、見ておきたかったのです」

視線の先には、囚人たちが雪かきをしている姿があった。
看守と囚人が言葉少なに連携し、無駄のない動きで道を確保している。

「……不思議ですわ」

キャロは、ぽつりと呟く。

「ここには、王宮よりも“国”があります」

「……姫様?」

「肩書ではなく、役割。命令ではなく、信頼」

キャロは、雪を払って立ち止まった。

「だからこそ、壊されたくないのです」

ヴァルトは、静かに頷いた。

「姫様が守ろうとしているのは、この場所だけではありません」

「ええ。分かっていますわ」

キャロは、くすりと笑う。

「でも、まずはここからですの。すべては」

***

夜。

暖炉の前で、キャロは書簡を一通、指先で弄んでいた。
王都から届いたものだが、署名はない。

「……脅し文ですわね」

「内容は?」

「“今なら、穏便に済ませられる”ですって」

キャロは、鼻で笑った。

「穏便とは、相手が一方的に従うことを言うのですわ」

書簡を暖炉にくべると、紙はすぐに火を上げ、文字は跡形もなく消えた。

「もう、引き返せないという合図です」

ヴァルトが言う。

「ええ」

キャロは、毛布を引き寄せ、ソファに深く腰を下ろした。

「でも、それでいいのですわ」

炎を見つめながら、静かに告げる。

「奪おうとする者には、分からせて差し上げましょう」

「何を、でしょう」

「ぬくぬくを壊す覚悟があるなら――」

キャロは、微笑んだ。

「同じだけの“冷たさ”を、受け取る覚悟も必要だということを」

外では、雪が静かに降り続いている。

嵐の前の、完璧な静けさ。
それが最も危険であることを、彼女はよく知っていた。
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