極寒監獄なのにぬくぬく生活!? 追放王女、所長に溺愛されて快適すぎてもう無期懲役にしてください』

ふわふわ

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第40話 極寒監獄は、今日も世界でいちばんあたたかい

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第40話 極寒監獄は、今日も世界でいちばんあたたかい

朝。

極寒監獄の朝は、相変わらず白い。
雪は静かに降り、空気は凛として澄んでいる。

けれど――寒くはなかった。

キャロは温室の中央で、芽吹き始めた若葉を指先で撫でる。

「……ちゃんと、春は来ましたわね」

「ええ。まだ外は雪ですが」

隣に立つヴァルトが、穏やかに答えた。

「ですが、この中は」

「ぬくぬくですわ」

キャロは、満足そうに笑った。

***

午前。

王都から、正式な使者が再び訪れた。
今度は慌てる様子もなく、礼儀正しい態度だ。

「極寒監獄の自治運営、ならびに支援への感謝を申し上げます」

「どういたしまして」

キャロは、いつもの紅茶を差し出す。

「凍えるより、あたたかい方がよろしいでしょう?」

使者は、思わず苦笑した。

***

書面のやり取りは簡潔だった。

・極寒監獄は特別自治管理区として存続
・王都は干渉しない
・必要なときは、対等な協力関係として連携

「……これで、完全に決着です」

ヴァルトが言う。

「ええ」

キャロは、書類に目を落としながら頷いた。

「争わず、奪わず、借りも作らず。
ずいぶん遠回りしましたけれど――」

顔を上げ、微笑む。

「悪くありませんでしたわ」

***

昼。

囚人も看守も、区別なく食堂に集まっていた。
湯気の立つスープ、焼きたてのパン、笑い声。

「王女様」

一人の囚人が、遠慮がちに声をかける。

「……ここ、ずっとこのままですか?」

キャロは、少し考えてから答えた。

「ええ。
ここが“罰の場所”でなくなるまでは」

「……罰じゃ、ない?」

「寒さに放り出すことが罰だなんて、乱暴ですわ。
ここでは――」

彼女は、やさしく言う。

「生き直す時間を、預かっているだけ」

囚人は、深く頭を下げた。

***

夕刻。

見張り台からの景色は、変わらない。
白銀の世界、果てしない雪原。

「……何度も、ここを離れる機会はありましたわね」

キャロは、ふと呟いた。

「ええ」

ヴァルトは、否定も肯定もしない。

「でも結局、戻ってきましたの」

「理由を、伺っても?」

キャロは、少しだけ照れたように笑う。

「ここは、選べる場所だからですわ」

「選べる?」

「ええ。
誰かに決められた役目ではなく、
自分で“ここにいる”と決められる場所」

***

夜。

暖炉の前。
いつもの席、いつもの毛布。

キャロは紅茶を飲みながら、静かに言った。

「王女でもなく、囚人でもなく、女王でもなく……」

一拍置いて。

「ただ、ここに住む人」

「……肩書きが、ずいぶん減りましたね」

ヴァルトが、くすっと笑う。

「身軽でしょう?」

「はい」

「それでいいのですわ。
重たいものは、あたたかさを奪いますから」

***

就寝前。

キャロは、最後に窓の外を見る。

雪は降っている。
世界は、まだ冷たい。

けれどこの場所には、
炎があり、紅茶があり、人がいる。

「極寒監獄? いえ……」

彼女は、毛布にくるまり、目を閉じる。

「ここは、わたくしの居場所ですの」

暖炉の火が、静かに揺れた。

こうして――
追放された王女は、王座にも玉座にも戻らず、
世界でいちばんあたたかい場所を、手に入れた。

それは、誰かに与えられた幸福ではない。
自分で守り、選び続けた――

ぬくぬくの、終身刑。

物語は、ここで終わる。
けれど極寒監獄の朝は、明日も変わらず、あたたかい。
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