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第28話 国が真似して失敗する
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第28話 国が真似して失敗する
噂というものは、面白い。
真実から少しずつ形を変え、
便利な部分だけが切り取られ、
最後には「分かりやすい成功談」になる。
アルフェッタのマンガ喫茶も、例外ではなかった。
「公爵家の喫茶に行くと、文字が読めるようになるらしい」
「遊んでいるだけで、文盲が減るらしい」
いつの間にか、
原因と結果が、完全に逆転している。
(まあ……そうなりますわよね)
アルフェッタは、庭の椅子に座り、
その噂を執事から聞いていた。
「……それで、役所のほうが動きまして」
「ええ」
「“成功例”として、
同様の施設を作ることになったそうです」
アルフェッタは、紅茶を一口飲み、
特に驚いた様子も見せなかった。
(来ましたわね)
数週間後。
王都の中心部に、新しい施設が開設された。
名前は立派だ。
――国民教養向上施設
無料。
誰でも利用可能。
指定時間内に、必ず参加。
そこには、
「分かりやすく整えられたマンガ風の教材」と、
「指導員」が配置された。
結果は――
ひどいものだった。
「行かされてる感じがする」
「読まなきゃいけない」
「間違えたら、注意される」
人は、来る。
だが、座らない。
ページは、めくられる。
だが、戻らない。
最初の一週間で、利用者は激減した。
役所の者は首をかしげる。
「……同じ“マンガ”なのに……」
だが、同じではない。
アルフェッタは、その報告を聞きながら、
静かに思った。
(“楽しさ”は、設計できませんの)
あちらの施設には、
すべてが揃っている。
予算。
人員。
教材。
足りないのは、ただ一つ。
行かなくてもいい、という自由。
強制された瞬間、
それは「遊び」ではなくなる。
試験がなくても、
評価がなくても、
“目的”が見えた時点で、人は身構える。
数日後。
役所の使者が、マンガ喫茶を訪れた。
「……どうすれば、うまくいくのでしょうか」
真剣な顔だった。
アルフェッタは、少し考え、
そして、正直に答えた。
「無理ですわ」
「……は?」
「国がやる時点で、
同じものには、なりません」
使者は、戸惑った。
「では……
公爵令嬢のやり方を、詳しく教えていただければ……」
アルフェッタは、首を横に振る。
「真似できる部分だけ真似すると、
必ず、失敗します」
それは、責める口調ではない。
ただの事実。
「ここは、
役に立とうとしていない場所なのです」
使者は、言葉を失った。
「役に立たないから、
来たい人だけが来る」
「来たいから、
長居する」
「長居するから、
気づいたら、覚えている」
アルフェッタは、淡々と続ける。
「国がやるなら、
“役に立つこと”を目的にするでしょう?」
「ええ……」
「なら、最初から、
別のものになりますわ」
使者は、深く頭を下げ、帰っていった。
数か月後。
国営施設は、
別の用途に転用された。
誰も、大きな責任を取らない。
誰も、大きな成果を語らない。
それでいい。
一方、マンガ喫茶は変わらない。
料金はそのまま。
規模もそのまま。
新刊が、たまに増えるだけ。
リオの絵本の横には、
別の子が描いた、小さな冊子が一冊、増えていた。
誰にも命じられていない。
誰にも評価されていない。
ただ、描きたいから、描いた。
(……これでいいのですわ)
異世界転生生活二十八日目。
アルフェッタは今日、
「成功を再現しようとした瞬間に、成功は消える」
という光景を、はっきりと目にした。
ざまぁは、ない。
誰も破滅していない。
けれど――
理解できない者は、自然と置いていかれる。
それだけの話だった。
そして彼女は思う。
(まあ……)
(楽しむことを目的にしていない人には、
この場所は、最初から見えませんものね)
噂というものは、面白い。
真実から少しずつ形を変え、
便利な部分だけが切り取られ、
最後には「分かりやすい成功談」になる。
アルフェッタのマンガ喫茶も、例外ではなかった。
「公爵家の喫茶に行くと、文字が読めるようになるらしい」
「遊んでいるだけで、文盲が減るらしい」
いつの間にか、
原因と結果が、完全に逆転している。
(まあ……そうなりますわよね)
アルフェッタは、庭の椅子に座り、
その噂を執事から聞いていた。
「……それで、役所のほうが動きまして」
「ええ」
「“成功例”として、
同様の施設を作ることになったそうです」
アルフェッタは、紅茶を一口飲み、
特に驚いた様子も見せなかった。
(来ましたわね)
数週間後。
王都の中心部に、新しい施設が開設された。
名前は立派だ。
――国民教養向上施設
無料。
誰でも利用可能。
指定時間内に、必ず参加。
そこには、
「分かりやすく整えられたマンガ風の教材」と、
「指導員」が配置された。
結果は――
ひどいものだった。
「行かされてる感じがする」
「読まなきゃいけない」
「間違えたら、注意される」
人は、来る。
だが、座らない。
ページは、めくられる。
だが、戻らない。
最初の一週間で、利用者は激減した。
役所の者は首をかしげる。
「……同じ“マンガ”なのに……」
だが、同じではない。
アルフェッタは、その報告を聞きながら、
静かに思った。
(“楽しさ”は、設計できませんの)
あちらの施設には、
すべてが揃っている。
予算。
人員。
教材。
足りないのは、ただ一つ。
行かなくてもいい、という自由。
強制された瞬間、
それは「遊び」ではなくなる。
試験がなくても、
評価がなくても、
“目的”が見えた時点で、人は身構える。
数日後。
役所の使者が、マンガ喫茶を訪れた。
「……どうすれば、うまくいくのでしょうか」
真剣な顔だった。
アルフェッタは、少し考え、
そして、正直に答えた。
「無理ですわ」
「……は?」
「国がやる時点で、
同じものには、なりません」
使者は、戸惑った。
「では……
公爵令嬢のやり方を、詳しく教えていただければ……」
アルフェッタは、首を横に振る。
「真似できる部分だけ真似すると、
必ず、失敗します」
それは、責める口調ではない。
ただの事実。
「ここは、
役に立とうとしていない場所なのです」
使者は、言葉を失った。
「役に立たないから、
来たい人だけが来る」
「来たいから、
長居する」
「長居するから、
気づいたら、覚えている」
アルフェッタは、淡々と続ける。
「国がやるなら、
“役に立つこと”を目的にするでしょう?」
「ええ……」
「なら、最初から、
別のものになりますわ」
使者は、深く頭を下げ、帰っていった。
数か月後。
国営施設は、
別の用途に転用された。
誰も、大きな責任を取らない。
誰も、大きな成果を語らない。
それでいい。
一方、マンガ喫茶は変わらない。
料金はそのまま。
規模もそのまま。
新刊が、たまに増えるだけ。
リオの絵本の横には、
別の子が描いた、小さな冊子が一冊、増えていた。
誰にも命じられていない。
誰にも評価されていない。
ただ、描きたいから、描いた。
(……これでいいのですわ)
異世界転生生活二十八日目。
アルフェッタは今日、
「成功を再現しようとした瞬間に、成功は消える」
という光景を、はっきりと目にした。
ざまぁは、ない。
誰も破滅していない。
けれど――
理解できない者は、自然と置いていかれる。
それだけの話だった。
そして彼女は思う。
(まあ……)
(楽しむことを目的にしていない人には、
この場所は、最初から見えませんものね)
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