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第1話 婚約破棄? ええ、存じておりますわ
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第1話 婚約破棄? ええ、存じておりますわ
王宮の大広間は、いつもより少しだけ静かだった。
貴族たちの視線が、自然と私に集まっているのを感じる。
――来ましたわね。
公爵令嬢シェリア・ド・ラファルジュ。
王太子アレクセイの婚約者として、この場に立つのは何度目だっただろう。
「シェリア。ここに集まってもらったのは、他でもない」
玉座の前に立つアレクセイは、妙に自信に満ちた顔をしていた。
その隣には、白いローブをまとった平民出身の聖女――リリカ。
「私は……お前との婚約を破棄する」
どよめきが広間を走る。
けれど、私は一切動じなかった。
(はいはい、この流れ。覚えがありますわ)
千年。
正確には、千年以上。
聖女として祈り、
魔法使いとして戦場を焼き払い、
剣士として国を守り、
治癒術師として命を救い続けた――
数え切れない人生の記憶が、私の中で静かに息づいている。
この手の“婚約破棄劇”は、正直、初めてではなかった。
「理由は明白だ。お前は偽物の聖女だった」
「真に神に選ばれたのは、リリカだ!」
アレクセイは胸を張り、そう言い切った。
リリカは不安げな表情を浮かべながらも、私をちらりと見て、すぐに視線を逸らす。
――ああ、なるほど。
自分が“選ばれた存在”だと信じ込んでいる目。
責任も覚悟も、その瞳には映っていない。
「よって、お前の爵位は剥奪。国外追放とする」
断罪の言葉が、広間に響いた。
貴族たちの多くが、同情と困惑の入り混じった視線を向けてくる。
泣き崩れる令嬢を期待していた者も、きっといたのだろう。
だが――
「承知いたしましたわ」
私は、静かに一礼した。
広間が凍りつく。
「……は?」
間の抜けた声を上げたのは、王太子本人だった。
「婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて受け入れます」
「そのうえで申し上げますと……」
顔を上げ、微笑む。
「面倒事が一気に片づいて、好都合ですわね」
「な、何を――!」
「私、王太子殿下のお世話係でも、国の便利な裏方でもありませんもの」
事実を述べただけだ。
これまで、政務の調整も、貴族間の衝突の緩和も、聖女制度の穴埋めも――
誰がやっていたのか、彼は一度でも考えただろうか。
……いいえ。考えなかったから、ここに至った。
「では、失礼いたします」
踵を返し、大広間を後にする。
誰一人、私を止めることはできなかった。
王宮の外に出た瞬間、胸の奥で何かがほどける。
(さて……)
追放。
つまり、自由。
この国に縛られる理由は、もう何もない。
「千年ぶりに、少しはのんびり生きましょうか」
そう呟いた私の脳裏には、すでに次の行き先――
隣国ガルディア王国の名が、静かに浮かび上がっていた。
――この選択が、やがて王国の運命を分けることになるとも知らずに。
王宮の大広間は、いつもより少しだけ静かだった。
貴族たちの視線が、自然と私に集まっているのを感じる。
――来ましたわね。
公爵令嬢シェリア・ド・ラファルジュ。
王太子アレクセイの婚約者として、この場に立つのは何度目だっただろう。
「シェリア。ここに集まってもらったのは、他でもない」
玉座の前に立つアレクセイは、妙に自信に満ちた顔をしていた。
その隣には、白いローブをまとった平民出身の聖女――リリカ。
「私は……お前との婚約を破棄する」
どよめきが広間を走る。
けれど、私は一切動じなかった。
(はいはい、この流れ。覚えがありますわ)
千年。
正確には、千年以上。
聖女として祈り、
魔法使いとして戦場を焼き払い、
剣士として国を守り、
治癒術師として命を救い続けた――
数え切れない人生の記憶が、私の中で静かに息づいている。
この手の“婚約破棄劇”は、正直、初めてではなかった。
「理由は明白だ。お前は偽物の聖女だった」
「真に神に選ばれたのは、リリカだ!」
アレクセイは胸を張り、そう言い切った。
リリカは不安げな表情を浮かべながらも、私をちらりと見て、すぐに視線を逸らす。
――ああ、なるほど。
自分が“選ばれた存在”だと信じ込んでいる目。
責任も覚悟も、その瞳には映っていない。
「よって、お前の爵位は剥奪。国外追放とする」
断罪の言葉が、広間に響いた。
貴族たちの多くが、同情と困惑の入り混じった視線を向けてくる。
泣き崩れる令嬢を期待していた者も、きっといたのだろう。
だが――
「承知いたしましたわ」
私は、静かに一礼した。
広間が凍りつく。
「……は?」
間の抜けた声を上げたのは、王太子本人だった。
「婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて受け入れます」
「そのうえで申し上げますと……」
顔を上げ、微笑む。
「面倒事が一気に片づいて、好都合ですわね」
「な、何を――!」
「私、王太子殿下のお世話係でも、国の便利な裏方でもありませんもの」
事実を述べただけだ。
これまで、政務の調整も、貴族間の衝突の緩和も、聖女制度の穴埋めも――
誰がやっていたのか、彼は一度でも考えただろうか。
……いいえ。考えなかったから、ここに至った。
「では、失礼いたします」
踵を返し、大広間を後にする。
誰一人、私を止めることはできなかった。
王宮の外に出た瞬間、胸の奥で何かがほどける。
(さて……)
追放。
つまり、自由。
この国に縛られる理由は、もう何もない。
「千年ぶりに、少しはのんびり生きましょうか」
そう呟いた私の脳裏には、すでに次の行き先――
隣国ガルディア王国の名が、静かに浮かび上がっていた。
――この選択が、やがて王国の運命を分けることになるとも知らずに。
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